なんだかあったかい…ふかふかだなぁ。あぁ、国光が抱いていてくれるからか。
帰ってきたんだ、国光、国光でしょう?国光。
おっおれか?
あぁ、やっぱり国光だ。おかえり、国光。どこも怪我してない?
怪我はないが…
よかった。ねぇ、国光、手。
手?
うん、いつもみたいに手、握って。
こっこうか?
ふふ、どうしたの国光。今日はなんか大人しいね。
そうでもないぞ。お前こそ大丈夫なのか。
う〜ん、あんまり大丈夫じゃない。
どこか痛いのかっ。
怖い夢見たんだ。
夢?
うん、夢。国光が自害しちゃう夢。
自害?
館も燃えたんだ。
それは歴史の本の話だろう?
だって怖かったんだよ。目の前で死んじゃうんだから。
おれは死んでいないぞ。
そうだね…
… よかった…
「ありゃりゃ〜、また寝ちゃったよ、不二。」
菊丸が肩を竦めた。
「でもよかったな。一応、どこも異常ないって?」
「ホントに心配かけてすみません。」
大石が笑うと、兄に付き添っている裕太がぺこっと頭を下げた。
不二が見つかって丸一日がたっていた。不二の病室には、青学テニス部の仲間と越前リョーマが見舞いに訪れている。不二が行方不明で、手塚が意識不明だと連絡を受けたリョーマは大慌てでかけつけ、皆と合流していたのだ。
「オヤジとお袋、今、警察のほう行ってるんで。またあらためてお礼したいって言ってました。」
丸二日、行方不明だった不二の無事が見つかり、とりあえず体にも異常がないと聞いて、青学の面々はほっと表情を緩めている。不二の傍らには手塚国光が座っていた。自宅から持ってきてもらった深緑のパジャマに紺色のガウンを羽織っている。検査のため、あと二日ほど、入院していなければならないらしい。
「手塚は起きていても大丈夫なのか?」
「あぁ、もう何ともない。検査の結果がでたら退院だ。」
椅子に座る手塚の手は、不二にしっかり握られていた。裕太が困りはてた様子で手塚に謝る。
「すいません、うちの馬鹿アニキのヤツ。手塚さん、ご迷惑でしょう、手、はずしてください。」
そう言いながら不二の手をはずそうとする裕太を手塚は遮った。
「いや、かまわん。どうせオレも入院中でやることもないしな。不二が落ち着くならしばらくこうしていよう。」
「ちゃんと目が覚めたら大丈夫なんだよにゃ。」
菊丸がまだ不安げに言った。ぽん、と大石がその肩を叩いた。
「大丈夫だって先生が言ってただろ。」
それから、皆を促した。
「今日はもう引き上げよう。明日は宿をたつから、その前にまた様子を見に来るよ。」
この騒ぎで合宿自体は中止になっていたが、合宿期間は部屋が使えるということで、皆、残っていたのだ。明日はその最終日で、宿を引き払わなくてはならない。
「なにかあったら連絡してくれ。」
裕太がペコリと頭を下げる。大石は手塚に手を挙げた。
「じゃあな、手塚。お前も無理するな。」
「あぁ、すまない。」
そぅっと足音を忍ばせ、青学テニス部一同は病室を出ていく。廊下に出たところで、越前リョーマが誰に言うともなく呟いた。
「やっぱ高等部にいくと、雰囲気変わるんスかね。」
「なんのことだ、越前。」
リョーマは乾を見上げた。
「不二先輩、部長のこと、国光って呼ぶようになったんだなぁ、って。」
乾は大石と顔を見合わせた。
「君、聞いたことあるかい?」
「…いや。」
首を振る大石に、リョーマは怪訝な顔を向けた。
「だって、さっき不二先輩、国光って言ってたじゃないっすか。オレなんか、絶対言えないッスよね。大人になっても無理っすよ。」
一人感心しているリョーマの後ろで、乾と大石はまた顔を見合わせた。
「…なんかあったのかな。」
「さあね、少なくともオレのデータにはない。」
まぁ、これから観察していくさ、と乾が言い、二人はこの話をおしまいにした。
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戻ってきました、不二君、もとの世界に。手塚も目が覚めました。手、握られて困ってます、ってか、ホントは嬉しいくせに、このぅこのっこのっ