昼を一緒に軽く食べてから義秀は帰っていった。婚儀に関しては本家三浦へ忠興が、鎌倉にある婚家の代理人のところへは秀次が使者にたった。帰りに鎌倉で女を見繕ってやる、という義秀に忠興が慌てていたが、本人も満更ではなさそうだ。なんとなく疲れの残っている不二は、義秀達を見送ると部屋へ戻った。畳の上にごろりと横になる。

「あたたっ…」

体の奥がずきり、と痛んで不二は転がりながら腰をさすった。筋肉痛とも病気の時の痛みとも違う、独特の感じだ。体の深いところに疼きがある。

「いて〜。」

不二は小さく呟き天井を見上げた。庭からそよ、と海風がはいりこみ、潮の香りを運んでくる。この一月でなじんだ香り、そしてこれからずっとこの香りを身近に暮らしていくのだ。国光の笑顔が脳裏に浮かんだ。心からの笑みを見せてくれるのが嬉しい。体はだるいし奥がしくしく痛むが、それすら幸福の証のように思える。不二はくすっと一人笑った。

僕もかなり国光にやられちゃってるね。

痛みすら幸福なんて三文恋愛小説じゃあるまいし、と己の心持ちがおかしくてくすくす笑い続ける。

「どうした、不二。」
「ん〜国光〜」

突然声がしても不二は驚かなかった。そろそろ国光が部屋にくるだろうと思っていたのだ。寝ころんだまま両腕を上に伸ばすと、国光が覆い被さってきた。不二は背に手をまわしきゅっとしがみついた。国光が不二を抱き込んで耳や頬に口づけてくる。くすぐったくて不二は笑いながら身をよじった。

「国光、誰か来るよ。」
「案ずるな。人払いはしてある。」
「うっわ、君って変なとこで要領いい。」

くっくっ、と国光は不二の首筋に顔を埋めながら肩を震わせて笑った。あまっさえその手が不二の体の上で不埒な動きをはじめる。

「こらっ。」

不二は国光の頬を両手ではさんで顔を持ち上げる。国光は楽しそうに笑っていた。

「真っ昼間から何考えてるのさ。」
「不二といるとこうしたくなる。」
「こらこらこらぁっ。」

不二は、袴の帯を解こうとする手をペシリと叩いた。

「だめったらだめ。まだ僕、体痛いんだよ。あっちもこっちも痛いんだから。」
「では、今夜ならばよいか?」
「ムリムリムリ、ってか、体痛いっていったじゃないっ。」
「不二…」

国光が情けない声を出した。一瞬、その頼りない顔に絆されかけた不二は慌てて首を振った。ここで流されたが最後、明日は動けなくなること必至だ。それは嫌だ。

「絶対ダメ。」

きっぱり宣言すると、国光があからさまにがっくり気落ちする。思わず笑いが漏れた。

「何だ。」
「ううん、なんだか、君ってたまにすごく可愛いと思って。」

不二がそう言うと、国光が憮然とする。それがまたおかしくて、不二は声を立てて笑った。

「ゆっくり慣らしてよ、国光。」

不二はちゅっと音をたてて国光の唇に軽くキスした。

「時間はたっぷりあるでしょう?」

不二が微笑むと、国光はとろけるような笑みを浮かべた。

「そうだな…」

額をこつり、と合わせる。それから少しためらい、照れくさそうに付け加えた。

「口吸いはしてもよいか…?」

さっきからしてるじゃないか、と内心突っ込みつつ、不二は国光の首に手をまわす。

「キスだけならいいよ。」
「きす?」
「口吸いのこと…」

うっとりと吐息が重なった。しばらく互いの唇の感触に酔う。国光が吐息の合間に囁いた。

「甘いな…」
「…え…?」

不二の下唇を自分の唇ではむようにして言う。

「不二の口は甘い…」

ぺろ、と口元を舐められた。その時、ふと閃くものがある。

「あ、待って、国光。」

腕で押しやられ、国光が怪訝な顔をした。不二がにこりとする。

「君にあげたいものがあったんだ。」

そう言いながら体を起こした。

「おれに?」
「うん、秀次とか忠興とか、大殿さんにはもうあげたんだけどね。」

いててて、と呻きながら立ち上がる。皆にはもうあげたと言うと、国光が拗ねた顔をする。苦笑が漏れた。

「だって、ケンカしてたじゃない、僕達。」
「お…おれは別に…」

肩越しにまだ拗ねている国光を見やりながら、不二は黒塗りの文箱をあけた。ノートほどの大きさのそれには、不二の大事なものを入れている。国光のくれた土鈴や青い陶片の間から、不二はミルクキャンディを取り出した。国光の横に戻るとすとん、と座ってキャンディを差し出す。

「僕の時代のお菓子だよ。」

僕の時代、という言葉に国光が少し強ばった。だが、素直に受け取る。きらきらした包み紙を珍しげに指で撫でた。じっとデフォルメされた牛の絵を見つめている。

「動物の絵か?」
「牛だよ。」
「……変な牛だ。」

確かに、国光にとって、白と黒のブチなんて牛ではないだろう。ホルスタインはまだいない。不二はぶっと吹き出しながら、キャンディの包み紙を開いてやった。白く固いキャンディが国光の手の上でころりとしている。

「食べてみて。」

国光は恐る恐る、といった感じでキャンディを口にいれた。不二はなんだかわくわくした。

さぁ、驚け、鎌倉人。

国光が目を瞠った。

「これは…」

口を押さえる。歯にあたったキャンディが硬質な音をたてた。半分意識を飛ばした状態でキャンディを舐めている国光の前に不二はにじり寄った。

「ね…国光…」

口の中のものに集中していた国光の意識が不二に戻った。不二は上目遣いに国光をのぞき込む。

「僕の口とどっちが甘い?」

ふっと国光が口元をあげた。ぐいっと不二の体を引き寄せると唇をあわせてきた。口の中に国光の舌が潜り込んでくる。ミルクキャンディが押し込まれ、口中に甘みがひろがった。不二はキャンディを舌で転がすとまた国光の口に移す。ごくりと喉がなった。深く重なった唇は離れることがなく、キャンディが二人の口の中を行き来する。

「ん…」

鼻から抜けるような息を不二は漏らした。次第に小さくなるキャンディをはさんで二人の舌が絡まり合う。やがて、キャンディは溶けてなくなった。ぴちゃり、と音をたてて二人の唇が離れる。互いに息があがっていた。微かに頬を紅潮させ、不二が囁く。

「…どっち…?」

国光の瞳に熱がこもった。不二の項を引き寄せ再び唇を貪る。二人の口の中に残るミルクキャンディの味が媚薬のように興奮を誘った。舌を強く吸われて不二は小さく呻く。いつの間にか畳の上に押し倒され、直衣の紐を解かれていた。くちゅくちゅと舌が絡まる水音が部屋に響く。袴が引き抜かれ、下肢が露わにされた。国光の手が不二の素肌をたどっていく。

「だ…め…だよ…くにみ…つ…」

口付けの合間に不二が抵抗した。

「だめ…」
「触るだけだ…」

耳元に唇を移動させ国光が囁いた。ねろり、と耳の中へ舌をねじ込まれる。

「あっ…」
「外へ聞こえてしまうぞ。」

聞こえる、と言いつつ、国光は動じていない。むしろ楽しんでいる。

こっの〜、確信犯め。

不二はキッと睨みあげるが、快感に潤んだ瞳ではかえって逆効果だった。国光がのど元にむしゃぶりついてくる。ひゅっと息を詰め、不二は声を耐えた。。国光が直衣をたくしあげ、胸元を愛撫してくる。

「はぅ…」

不二はたくし上げられた直衣を噛んだ。顔を横に向けると、明るい日差しが降り注ぐ庭が見える。快楽に落ちていく体とは裏腹に、不二は不思議な気分だった。真っ昼間から淫らなことをしているくせに全然後ろめたくない。むしろ、とても自然なことのように感じている。国光が噛んでいた直衣をはずし、口づけてきた。口を塞いだまま、お互いのものを一緒に扱く。一気に不二は高みに駆け上り、国光に縋り付いてはじけた。腰が痺れるほど気持ちがよかった。国光が荒い息を吐きながら不二の体に覆い被さった。国光も達したのだ。満ち足りて不二は国光を抱きしめた。


☆☆☆☆☆☆

ちょっと大人仕様…甘いキャンディきっすだぁぁっ。でも、好きな奴とでないと、ばっちくて出来ないよね〜不二君。鎌倉人には強烈な甘さと美味さでしょう。それに不二の唇が加わるから、国光、この果報者め、であります。甘甘ビームは続く…