注意
この回は大人仕様です。十八才未満の方、及びこういうものが苦手な方は引き返してください。話の筋にはあまり関係ありません。次の回よりお読み下さい。





























ふわふわと足が宙を歩んでいるようだ。足下が覚束なくて、不二は自分を支えている腕に縋った。たくましい腕、国光の腕だ。わいわいと飲み騒ぐ声が遠ざかっていく。館の薄暗い廊下を過ぎ、国光に抱きかかえられたまま不二は自分の部屋へ戻った。平仄は灯されておらず、明かりといえば板塀の間から射し込む庭の焚き火と松明の反射だけだ。

部屋へ入るか入らないかのうちに、不二は国光に抱きすくめられた。首筋に国光の吐息がかかる。ぞくぞくと得体の知れない感覚が不二の背筋を這いのぼってきた。

「くにみつ…」

熱に浮かされたように不二は男の名を呼んだ。首筋から耳に、頬に、国光の唇が触れる。

違う、もっと…

不二は自分から薄く唇を開け、ねだるように国光の方へ顔を向けた。

「不二…」

国光が唇を合わせてきた。僅かに開いた隙間に舌を差し入れ、はじめから深く吸ってくる。

「…ん…ぅ…」

不二は息を漏らした。激しい口づけだ。昨日とは比べ物にならない。明らかに情欲を滲ませた口づけだった。だが、不思議と恐怖はない。不二は国光の背に手をまわしてしがみついた。ぐっと背骨が折れそうなほど力強く抱き返される。国光はいっそう深く唇を重ねてきた。

「…ふ……」

口づけの角度を変えるたびに吐息が漏れる。不二は国光の舌に翻弄されて朦朧としてきた。腰のあたりに熱が集まり、一人で立っていられない。必死で国光にすがりつく。ふわっと体が浮いた。と思うまもなく、背中に固い感触があたった。目を開けると天井が見える。板張りの床に敷かれた畳の上に不二は横たわっていた。国光が覆い被さってくる。暗闇を僅かに照らす炎の影を国光の真っ黒な瞳が映していた。

綺麗だな…

不二は引き込まれるようにそれを見つめた。国光の瞳はいつも澄んでいる。様々な感情がその瞳に浮かんでも、時に怒りや哀しみだけでなく情欲が浮かんですら濁ることはなかった。今、この男は自分を欲している。全身で不二を求めている。

僕を欲しがっている…

国光の目に燃えているのは情欲の火だ。国光は不二を抱こうとしている。不二とて健全な男子だ。人並みに欲もある。だが、初めてなのだ。しかも男同士の交わりだ。自然と体が竦んだ。

「…く…くにみつ…」

戸惑いと恐れが声に滲んだ。無意識に体が逃げようとしてずり上がるのを、ぐいっと国光が胸の中に引き戻した。片手で不二を抱き込み、もう片方の手で頬を包んだ国光はじっと不二を見下ろしてくる。不二は動けなかった。自分が小刻みに震えているのがわかる。小娘のようで嫌だと思ったが、どうにもならない。国光の体の下で身を固くしていると、ふっと国光の目が柔らかい色を浮かべた。不二の額や髪、目元に唇が優しく降りてきた。国光は唇同士が触れ合う寸前まで顔を寄せてくる。

「おれのすべてをおぬしにやる。」

熱っぽい囁きが唇に触れた。

「命もやろう。おぬしの望むものは何でも…」

ついばむように唇を吸われる。

「おれには不二だけだ。」

吐息が熱い。

「不二しかいらぬ…」
「…あ……」

たとえようもない歓喜が不二の中にわき上がってきた。ここまで自分は求められているのか。他には何もいらないと、唯一は不二なのだとこの男は言う。男でありながら同性に抱かれる戸惑いや恐れを、国光に求められる喜びが凌駕した。それと同時に全身がかぁっと熱くなる。下半身に甘い疼きがうまれた。

「国光…」

自分を見つめる黒い瞳に吸い込まれそうだ。不二は国光の体に手を伸ばした。

「好きだよ…国光…」

唇を寄せながら不二は囁くように告げた。

「君が好き…」

国光が激しく唇を吸ってきた。歯列を割って不二の舌を絡め取るときつく吸い上げ咥内をまさぐる。くちゅくちゅと濡れた音が耳に響き、腰に熱が集まってくる。口の端からどちらのものともつかぬ唾液がつぅっと流れた。国光は唇を離し、ぺろりとそれを舐め上げる。

「あ…」

ぞくっ、と背筋が震えた。再び唇を塞がれる。国光の舌は生き物のように不二を翻弄する。

「ん…ふっ…」

鼻から抜けるような甘い声が漏れた。衣擦れの音まで艶めかしい。国光の手が直衣の上から不二の体を確かめるようにはいまわっている。布越しの刺激がもどかしく、不二は切ない呻きをあげた。その声に刺激されたのか、突然国光が体を起こし、不二の直衣の紐をといた。指貫を引き抜くように取り去り、身につけた全ての布をはいでいく。その勢いに不二は怯えて息を飲んだ。あっというまに不二を裸にした国光は、手を止めてじっと不二を見下ろした。全裸の不二は脱がせた衣服の上で仰向けに横たわっている。板塀の隙間ごしに射し込む庭の炎の色が白い不二の体に橙色の影を映していた。国光は黙ったまま不二の体を見つめる。不二は恥ずかしくなって顔を背けた。

「そ…そんなに見ないでよ…」
「綺麗だ…」

ため息をつくように国光が言った。

「不二は綺麗だ…」

興奮で声が掠れている。

「見るなってば。」

国光の視線を痛いほど感じる。羞恥で不二の全身が朱に染まった。体が熱い。触られてもいないのに不二の下半身がゆるくたちあがってきた。国光の両手が伸びて、不二の乳首に触れた。

「あっ。」

敏感になっている体はそれだけでびくりと跳ねた。国光はそのまま、人差し指と中指で両方の乳首をいじり始める。

「あっあぁぁ…んっ」

国光が乳首をこね回すたびに、甘い疼きが背筋を駆け上がった。女ではないのに乳首で感じることが不二には衝撃だった。だが、快楽に体は反応する。ぷくりと乳首が立ち上がる。それを押しつぶすように国光が指を使った。

「あっ…やだっ…」

びくんびくんと不二の体が跳ねる。国光の直垂が素肌を擦った。

「あぁぁっ…」

固い直垂の感触に興奮が増した。国光が不二に覆い被さってきた。右の乳首に吸い付くと、舌で転がすように愛撫する。左の乳首は指でこねられた。

「あっあっあぁっ」

未知の刺激に不二は身を捩った。直垂がその度に肌をこする。固い布地の感触は気持ちよかったが、それよりも不二は国光の肌を感じたかった。直に熱をわけあいたい。

「脱いでよ…国光…」

荒くなった息の合間から不二は懇願した。

「はやく…」

ふっとのしかかっていた体が離れた。舐められていた乳首がすぅっと冷えて、不二は身震いした。衣擦れの音がする。それからすぐに、再び男の体が被さってきた。

「あ…」

肌が触れる。熱い体だった。不二は閉じていた目を開いた。目の前に国光の顔がある。情欲に濡れた黒い瞳は燃えるようだった。

「くにみつ…」

掠れた声で男の名を呼んだ。ぎゅっと抱きしめられる。肌と肌が触れ合い密着する。不二の唇から快楽の吐息が漏れた。好きな人と肌を合わせるのがこんなに気持ちがいいものだとは。不二は国光の背に手をまわした。逞しい背中だった。鍛えられた見事な体だ。国光が腰をすりつけてきた。熱く固いものが内股に押し当てられる。

「あっ。」

それが何かわかった途端、じん、と腰が疼いた。不二のものもすでに固くたちあがっている。

今から国光とセックスするのだ。

改めてそう思った。期待と恐れがないまぜになって襲ってくる。知らず体が強ばった。不二の様子に気づいたのか、国光が抱きしめる腕をといて、大きな手のひらでゆるゆると不二の体を愛撫しはじめた。くすぐったいような、変な感覚に不二の体がひくひく震えた。国光が舌を耳の中へ差し込んでくる。

「やっ…」

熱く湿った舌先に耳をなぶられ、不二はいやいやと首を振った。国光は手のひらで不二の内股を撫でている。もっと違うところに刺激が欲しくて、不二の腰が揺れた。

「不二…」

国光の低い声が耳元で名前を呼ぶ。唇がそろそろと下へ降りていった。首筋をたどり、乳首を舐め、ちゅっ、ちゅっと音をたてて臍の周りを吸う。その間も、国光の手は内股から腰を撫でさすっていた。

「はぁ…や…国光っ…」

不二は我慢できなかった。国光の髪に手を差し入れると、一番触れてほしいところへ国光の唇を導く。勃ちあがった不二に国光の息がかかった。

「はっ…」

ぬるりと温かいものに包まれる。不二の腰がびくりと震えた。国光は喉の奥まで銜えると竿に舌を絡めながら上下に抜き差しをはじめた。

「ひっあぁぁっ」

すさまじい快楽に不二は身悶えた。

「いやっいやっ…あぁぁっ」

自分で触るのとは比べものにならない快感だ。満月の夜、同じ事をされた時にはただ怖いとしか思わなかったのに、今は全身を快楽の色に染めて腰を揺らしている。大きく開いた足の間に男を挟み込み、不二は快感に啜り泣いた。国光は容赦なく不二を扱きあげる。不二の零すものと国光の唾液が竿を伝って後ろを濡らした。じゅぶじゅぶと濡れた音が響く。もがくように足が畳を掻いた。初めて他人の愛撫を受ける体はあっという間に限界までのぼりつめる。国光が頬を締めるようにしてきゅっと吸い上げた。

「…ひっ…あっ…」

声にならない悲鳴をあげて不二は達した。全身がびくびくと震える。

「あ…あぁ…」

放出し終えた不二はぐったりと力を抜いた。快楽にぼうっとしたまま目を開ける。それからハッと気づいた。

僕、国光の口に…

慌てて肘をついて体を起こすと、自分の股間から国光が顔を上げて不二を見ている。国光の唇の端から白いものが一筋こぼれていた。

「くっくにみ…」

言い終わる前に国光はにっと口の端を上げた。不二に見せつけるように国光は手のひらに口の中のものを吐きだした。それが何かわかった不二は真っ赤になった。不二が吐きだしたものを国光は口の中に含んだままだったのだ。

「何を…」

不二の言葉を遮るように国光が手を後ろに這わせてきた。生温い液体が後孔に触れる。国光の指がそれを塗りこめてきた。

「やめ…」

手を払いのけようとした途端、人差し指を突き入れられ体が跳ねた。

「あぁっ」

嫌がってばたつかせた足を国光にとらえられる。足を開いたままぐいっと二つ折りにされた。腰があがり、後孔が国光の目の前に曝される。

「いやだっ。」

混乱して不二は暴れた。だが、膝裏を抱えた国光の腕は弛まない。

「くにみ…」

ぺとり、と熱い感触が襲ってきた。国光の舌が後孔に当てられ、襞をめくるように動いている。

「ひぃっ」

不二は悲鳴を上げた。国光は不二の吐きだしたものと一緒に自分の唾液で不二の後ろを濡らしていく。快感なのか嫌悪なのかわからない、ざわざわした感覚が不二の背筋をはいのぼってきた。足先がゆらゆらと宙をかく。国光は不二の後ろがとろとろになるまで濡らすと、再び人差し指を突き入れた。

「いやぁぁぁっ」

ぽろぽろと涙をこぼして不二は嫌がった。

「やめてやめて…あぁぁ…」

不二はすすり泣きながら懇願する。国光が不二の力をなくした性器を再び銜えた。後孔を指でかきまわしながらちゅぷちゅぷと音をたてて前を愛撫する。柔らかいそれを口の中でこね回すと、みるみる芯が通ってきた。後孔をなぶる指をふやし固く勃ちあがった竿をぺろぺろ舐める。

「あぁっあぁっ」

不二は快楽と苦痛に悶えるばかりだ。その時、するりと指が抜かれた。不二は大きく息をつく。だが次の瞬間、後孔に熱くて丸いものが押し当てられた。ぐっと中へめり込んでくる。不二は驚いて目を見開いた。

「あっ何っ」

熱い固まりがずぅっと奥に入ってきた。

「ひあぁぁっ」

すさまじい圧迫感だった。痛みとはまた違う未知の感覚だ。不二は腕を突っ張って逃れようとした。首を振るたびに汗と涙が散る。
 
「いやだっあぁぁっ…あぁっ」

不二は暴れた。こんな感覚は知らない、体の中に入ってくる、怖い、怖い、怖い…

「不二っ。」
「やだっやめて…やめ…」
「不二っ。」

ぎゅっと抱きしめられた。耳元で優しく名前を囁かれる。

「不二…不二…目を開けてくれ、不二…」

低く優しく自分を呼ぶ声。

「あっ…あぁっ…」
「おれを見てくれ、不二…」

国光の声…

不二はうっすら目を開けた。涙で滲む視界に黒い目の男が映る。男は愛おしさを込めて不二を見つめている。荒い息をつきながら、それでも優しく不二の涙を吸ってくれる。

「くにみ…つ…?」

名前を呼ばれて男は微笑んだ。

「…大丈夫だ、不二…」

大きな手が汗に濡れた不二の髪を梳く。

「大丈夫だ…」

深く低い国光の声。不二の目からまた涙が溢れた。

「国光…」
「そうだ、おれだ…」

国光は不二の首筋に顔を埋め、しっかりと抱きしめた。ぴったりと体が密着する。不二は国光の背に手をまわした。今、不二の中に入っているのは国光なのだ。熱く脈打っているのは国光のものだ。そうはっきり認識しただけで恐怖は消えた。かわりに、ひたひたと幸福感が体中に満ちてくる。

「あぁ…国光…」

吐息まじりに不二は国光を呼んだ。それが合図になったか、不二の中へ入ってからじっとしていた国光がゆるゆると腰を動かしはじめた。小刻みに抜き差しされ、不二は国光にすがりついた。

「あっあっあぁ…ん…」

動きに合わせて知らず喘ぎが漏れる。繋がった奥からじん、と圧迫感以外のものが生まれてきた。次第に国光の動きが大きくなってくる。ゆさゆさと揺さぶられ、宙に浮いた不二の足も揺れた。耳にかかる国光の吐息が荒くなる。体は密着させたまま、国光は腰を大きく突き入れてきた。

「はぁ…あぁ…」

国光の腹に擦られ、不二の性器は再び蜜を零している。国光の左手が下肢に伸びてきた。腰を振りながら不二を扱き始める。

「あぁっ…だめ…あっ」

不二は背を逸らし、国光にしがみつく。国光の動きが激しくなった。片手で不二の体を巻き込み奥の方まで突き入れてくる。同時に勃ちあがったものをきつくこすられ、不二は体を仰け反らせて白濁を吹き出した。

「くっ…」

不二を巻き込んだ腕に力がこもる。びくり、びくりと数度腰を震わせ、国光も達した。はぁはぁと荒く息をつきながら国光が体を起こす。不二は達した余韻でぽぅっと国光を見上げた。じっと国光も不二を見つめている。それから少し、困ったような笑みを浮かべた。

「…国光…?」
「すまぬ、不二。いま一度…」

達したばかりだというのに、不二の中で国光の熱がぐっと大きくなった。

「あっ。」

目を見開いた不二に、もう一度すまぬ、と言うと、国光は膝裏を抱え上げた。不二の足を己の肩にかけ、両手で腰を掴んで再び抜き差しを始める。放ったばかりの国光の精がぐちゅぐちゅと濡れた音をたてた。国光は大きく引き抜き、また突き入れてくる。奥を突かれるたびに繋がった部分の後ろに国光の陰嚢があたった。体の中を行き来する固い熱棒と尻に当たる柔らかい陰嚢のひやりとした感触に不二は喘ぐ。

「はっ…あぁ…くにみ…つ…」

乱れる息の下から不二は愛しい名前を呼んだ。答えるように国光は大きく腰をまわして不二の中を掻き回す。突然、びりっと背筋を駆け抜けるものがあった。

「ひぁっ。」

不二の体がびくん、と跳ねる。国光がふっと目を細めた。

「ここがいいのか?」

不二の答えも待たず、国光はそこをずんずんと激しく責めはじめた。

「いっ…あっ…あんっ…」

突かれると頭の中に白い火花が散るようだ。喉をそらして不二は喘ぐ。

「だめっ…もう…」
「まだだ。」

根元を押さえられ、不二は身悶えた。

「やっ…国光っ…」

辛さと快楽がないまぜになって不二は泣きじゃくった。

「はなして…お願いっ…」

戒められたまま国光に中を掻き回される。得体の知れない痺れが背筋を貫き、不二は白い喉を仰け反らせた。国光の肩にかけられた足ががくがく揺れる。汗と涙でぐしょぐしょだ。

「不二…」

愛しげに国光が名前を呼んだ。国光の汗が顎を伝って不二の勃ちあがったものの上にぽたりと落ちた。

「不二…ともに…」

腰をぐっと持ち上げられた。国光がのしかかってくる。

「あぁ…ぁ…」

深いところに国光が潜り込んできた。最奥を侵す熱が内側から不二をどろどろに溶かす。

「く…にみ…つぅ…」

息も絶え絶えに不二は国光に向かって手を伸ばした。気の違いそうなこの感覚から救ってくれるのは、自分にそれを与えている、自分の中を蹂躙しているこの男だけなのだ。汗で滑る肩に不二は必死ですがりついた。

「国光…くにみつぅ…」

しゃくりあげ、男の名を呼ぶ。国光の腰の動きが激しくなった。上から突きおろしてくる熱は容赦なく不二の深い所を抉る。貫かれるまま不二は言葉にならない悲鳴を上げた。がんがんと打ち付けられ、とうに不二はとうに限界をこえている。ぬぅっと国光が入り口まで性器を引き抜いた。

「あっ…」

その刺激にびくっと体を震わせた途端、すさまじい勢いで最奥を穿たれる。

「ひぁぁぁーっ」

貫かれた衝撃に耐えきれず、不二は全身を痙攣させながら白濁を吹き出した。国光がぶるっと腰を振り呻いた。奥に熱い迸りを感じる。どこかへ飛ばされてしまいそうな浮遊感におののいて、不二は己の上にある体にしがみついていた。




☆☆☆☆☆




僕って…



不二は固い木の枕を胸に抱きしめた。


淫乱だったんだ…


ずーん、と音がするほどの衝撃が来た。明確な言葉にしたのがいけなかったらしい。不二は全身、拭き清められ夜着に着替えて横になっている。

あの激しい情交のあと、ぐったりとなった不二の世話を国光は一人で甲斐甲斐しく焼いた。湯で全身をくまなく清められたまではよかったが、中を掻き出された時には本当に驚いた。抵抗しようにも全く力が入らない。やっとのことで拒絶の言葉を吐いたが、かえって国光にさとされてしまった。

『出しておかぬと腹が痛むぞ。』

そういうものなのか、と恥ずかしいのを我慢して大人しくしていたのに、国光は至極上機嫌でこう抜かしたのだ。

『おれが入れたものゆえおれが出すのが筋であろうな』

殴ってやろうかと思った。だが、もっと殴りたいのはその後の自分だ。事後で敏感になっていたとはいえ、掻き出される刺激に感じてしまうとは。当然、国光もそのことに気がついた。にっと口元を上げると、耳元に息を吹きかけるように囁いてきた。

『まだ足りぬようだな。』

国光の手が伸びてきて不埒な動きをするにいたって、本気で怯えた不二にまた男は囁いた。

『案ずるな、もう入れぬ。』

入れなかったけど擦ったじゃないかっ。

あろうことか、国光は不二と自身のものを同時に握りこんで扱いたのだ。正直な反応を見せた体が恨めしい。再び散々喘がされ、せっかく拭いた体をまた二人のもので汚した。そして今にいたる。

バカバカ、僕のバカっ

不二は羞恥でいたたまれなかった。初めてだというのに、我を忘れるほどよがりまくった自分が信じられない。というより、信じたくない。う〜っ、と不二は唸ってまた枕を抱きしめた。

この世界に留まると決めたときから、いつかは国光と抱き合うことになると思っていた。不二とて健康な男子で、人並みに性欲もあり、しかも惚れた男のために帰るのをやめたのだ。その国光と情をかわすのに不満や不都合があろうはずもない。ただ、あれほど快楽に溺れるとは思わなかった。

なんかもう、僕っていったい…

己の痴態を思い出し一人顔を赤らめているところへ、国光が戻ってきた。喘ぎすぎて声が掠れた不二のために水を取りに行っていたのだ。

「不二、水だ。」

上機嫌だ。不二を抱き起こし、水の入った碗を口にあてがってくる。

「…自分で飲めるよ。」

不二が手を出すが、国光は碗をわたそうとしない。どうやっても自分の手から不二に飲ませるつもりらしい。

「…君…嬉しそうだね…」
「そうか?」

恨めしげに見上げる不二の口にまた碗をあてがってきた。しかたなく、不二は国光に水を飲ませてもらう。飲み終わってほっと息をつくと、国光はまた優しく不二の体を横たえた。そして自分もその隣に寝そべる。左腕で頭を支え、右手で不二の髪を梳いた。

幸せそうな顔しちゃって。

いつもの仏頂面が今は弛んでいる。不二はおかしくなってくすっと笑った。

「ん?どうした。」

不二をのぞき込んでくる仕草がなんとなく可愛い。あんなにいやらしいことを不二にしてきた男とは思えないほど邪気のない目で見つめてくる。

僕は恥ずかしくって死にそうなのにっ。

少しムカついた。国光が髪に手を差し入れながらまた聞いてくる。

「なんだ?」
「ううん、なんだか君、すっごく手慣れてたなって思っただけだよ。」

僕は初めてだったけどね、とむくれ顔をして見せると、途端に国光の顔がとろけた。

「そうか、初めてか、不二は。」
「……そこで喜ぶかな…」

反応のしどころが違うだろう、と突っ込みたかったが、なにせ相手は鎌倉人、性に対して認識のずれは大きい。

つまり、男も女もいっぱい経験済みってことか。

これには真剣にむかついた。にやついている男の頬をぎゅっと抓む。

「もう他で遊んだらだめだからね。」

この時代では無茶な要求だとわかっていたが、不二は言った。だが、思いの外、国光は真剣な目になった。

「おぬし以外はいらぬと言ったぞ。」

頬を抓んだ手を取られる。国光は不二の指に口づけた。

「おれには不二だけだ。」

それが真実なのだと、熱の籠もった吐息が告げる。

「不二…」

国光が顔を寄せてきた。不二はぽぅっとその端正な顔を見つめる。

「不二…口吸いを…」

互いの吐息がからんだ。しっとりとした口付けだった。横たわったまま二人は抱きしめ合う。庭の方から飲み騒ぐ声が聞こえてきた。宴はまだまだ続いているようだ。国光は仰向けになると、不二を胸に抱き込み腕枕をした。

「疲れたであろう。」

開いたほうの手で不二の体を優しくさする。

「ゆっくり休むといい…」

さする手に色めいたものはなく、感じられるのは慈しみだった。とろとろと瞼が降りてくる。満ち足りて不二は眠りについた。


☆☆☆☆☆☆☆
今、はじめてこれが「おとなコーナー」での連載だったんだ、と認識…や、これ書いているとき、後ろじゃケロロ軍曹やってましたから。うっかりバー桜みたいなお笑いエロになるところだったよ、あぶねぇ……