開け放した板戸の脇の廊下に、国光が立っていた。国光はむっつりとした表情のまま部屋に入り、不二の目の前にどかりと腰を下ろす。それから懐をさぐると、なにやらずいっとつきだした。

「…何?」

不二は怪訝な顔で国光の手元を見た。何かを握っている。

「何?」

もう一度問いかけると、国光はぷいっとそっぽを向いた。

「土産だ。」
「…え?」

不二が戸惑っていると、国光はそっぽを向いたまま手を突きだしてくる。

「手を出せ。」

ぶっきらぼうな物言いにカチンときたが、言われたとおりに不二は手を差し出した。国光はその手のひらに何かを乗せる。ころん、と音がした。

「…鈴…?」

土を焼いて作った土鈴だった。人の顔をかたどっており、おそらくは子供なのだろう、頬がふっくらとして、にこにこ笑っている。顔の部分は白く、髪の部分は焦げ茶色に塗ってあった。頭の部分に小さな穴が開けられていて、数本の束ねた藁がとおしてある。不二が手を動かすと、ころんころんと音がした。素朴で温かい音だ。

「…僕に?」

不二が目を上げると、相変わらずそっぽを向いたままの国光がむすっとした口調で言った。

「おぬしに似ている。」
「へ?」

きょとんとする不二に、国光はぼそぼそ繰り返した。

「その鈴の顔がおぬしに似ていると思ったのだ。」

不二はぽかんと国光を見つめた。国光は顔を横に向けたままだ。不二は改めて土鈴を見た。にこにこ笑った子供の顔は可愛いといえば可愛いが、似ていると言われて嬉しい代物ではない。

「…僕、こんな下ぶくれじゃないけど…」

少し恨めしげに言うと、国光はむすっと答えた。

「笑った感じがおぬしに似ている。だから買った。」
「…え…」
「不二は笑っている方がいいぞ。」

無愛想な物言いだが、国光の頬がわずかに赤くなっている。かぁっ、と不二の顔にも赤みがさした。ころんころん、と鈴が音をたてる。そっぽを向いていた国光が不二に視線を戻した。黒い瞳と視線がぶつかって、どきん、と不二の心臓がはねた。

「不二は笑っていろ。」

国光は遠慮がちに手をのばして、不二の握っている鈴に触れた。ころん、と柔らかい音がする。

「おぬしはここで笑っていればいい。」
「……国光…」

ころん、と鈴がなる。国光は不二の手に自分の手を重ねた。

「不二は…」

国光がきゅっと手に力をこめた。

「…おれは別に、詫びたわけではないぞ。」

手を握ったまま、国光はまた視線をそらした。

「おれは詫びぬぞ。」

ぎゅっと口元が一文字に結ばれている。だが、言葉とは裏腹に不二の手を握る力はゆるまない。

「わかってるよ…」

不二は苦笑気味に答えた。どちらからともなく、膝が寄って距離がつまる。動くたびにころんころん、と鈴が鳴った。触れあっている膝から国光の温もりが伝わってくる。

「おれは…」
「うん…国光…」

久しぶりに感じる互いの体温が心地よくて離れがたい。結局、当主を探して秀次がやってくるまで、二人は手を握り会っていた。


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端から見たらただのバカップル、でも全然自覚ないのね。