部屋で一つ一つ荷ほどきをしながら、忠興は面白おかしく手に入れた時の様子を語ってみせた。不二にしてみれば、鎌倉時代の市の様子や商人の話はやはり興味深い。

帰ったらもっと日本史を勉強しよう。

ふと、そう思ってから、不二は内心苦笑を漏らした。

帰ったらって、帰れるかどうかもわからないし、その前に問題山積みだっていうのに…

しかし昨日の昼間、不二の意識は確かに現代に帰っていたのだ。その時の感覚を思い出し、不二はドキリとする。慌てて思考を忠興の話に戻した。不二と忠興の前には夕餉の膳がしつらえてあった。一日馬を駆けさせたのだからまずは食事をして、と不二が忠興を気遣ったのだ。

「忠興、僕も鎌倉へ行けるかな。」

膳の横には、土産の一つ、干した果物が黒塗りの高坏に盛られていた。不二は干し杏を口に放り込みながら忠興に尋ねる。

歴史の教科書の挿絵にあった「鎌倉時代の街並み」だの「庶民の生活」だの、それがリアルタイムで見られるチャンスなのだ。一度は鎌倉に行ってみたい、不二は真剣にそう思った。

出来れば源実朝の顔、見てみたいな。

忠興の話を聞けば聞くほど、好奇心がわいてくる。

「体は鍛えてあるほうだよ。もう少し馬の稽古をしたら、遠乗りくらい出来るでしょう?」

そう言いながら不二は干し柿を囓った。ねっとりとした甘さが嬉しい。忠興がう〜む、と唸った。

「殿が何と仰せらるるか…」

手元の杯をぐいっとあおる。しかし、御渡り様と鎌倉見物、というのは忠興にとってもひどく魅力的な提案だった。

「殿には秘密で、参りましょうかな。」

忠興は杯を置くと、悪戯小僧のようにニヤッとした。不二がぷっと吹き出す。

「怒るだろうね、国光は。」
「そりゃ、火を噴きましょうほどに。」

二人はくつくつと肩を震わせて笑った。国光のことを考えると、ちり、と胸に痛みが走る。だが、感じる痛みに不二は目をつぶった。そして大殿に忠興が呼ばれるまで、二人は土産話に花をさかせた。


忠興が退出すると、急に部屋が寂しくなった。館の周りは昨日から赤々と松明がたかれ、郎党や下人達の行き合う声、犬の鳴き声や馬のしわぶきが聞こえてくる。それがかえって部屋の静けさを際だたせていた。

不二は円座に座ったまま、脇息にもたれてぼんやりしていた。部屋の隅には、忠興が持ってきた土産の数々が山になっている。秀次は夕方以来、顔をみせない。あちこち走り回っているのだろう、膳の上げ下げをしたのは、若い郎党だった。馬の嘶きが聞こえ、館から走り去る音がした。国光が出立の用意をさせろと命じていたのを思い出す。
手紙かなにか書いたのだろうか。国光は今、何をしているのだろう。食事は終わったのだろうか。
日はとうに暮れ、半分に欠けた月が空にかかっている。
国光はこのまま自室で休むのだろうか。国光は…

「不二。」
「うわっ。」

いきなり呼ばれて、不二は飛び上がった。

「なっなっ」
「何をそんなに驚く。」

無愛想な声が降ってきた。

「くっ国光…」

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うぉぉっ、怒濤の細切れアップだぁ〜〜。オレは負けないぞぉぉぉ(何に)