夏真っ盛り、部活がおわったばかりの青学テニス部によく冷えたスイカの差し入れがあった。早速、コートの奥のベンチが置いてあるところに全員、車座に座る。いくつか新聞紙が敷かれ、切り分けられたスイカが幾皿も置かれた。
「ひぁ〜、生き返る〜。」
「冷たい〜。」
わいわいと騒ぎながら部員達はスイカにかぶりついた。種と皮は新聞紙の上だ。
「だぁっ、種とばすんじゃねぇっ、タコっ。」
「うるせぇ、マムシっ。」
スイカを食べていても桃城と海堂はかしましい。揉める二人の隙を突いて、越前リョーマは真ん中の大きな部分をサッと掠め取った。
「あっ、越前っ、」
「はやいもん勝ちっすよ、先輩方。」
リョーマは甘い先端部分をばくっとほおばりながらニッと笑う。負けてられるか、と桃城と海堂も猛然とスイカにかぶりつき始めた。
だが、他の一年生達は、甘い真ん中の部分に手をのばせるわけもなく、遠慮がちに端っこの部分だけを手にしている。さっき堀尾が、真ん中よりのスイカに手を伸ばそうとしたらギロリと荒井に睨まれてあえなく挫折した。喉を潤せるだけでも十分だ、そう己を納得させながら、端っこと端っこから三番目までの切れ端をめぐって一年生同士、熾烈な争いを静かに繰り広げていたその時、柔らかい声が一年生たちのところへ降ってきた。
「そんな端っこばかりじゃなくて、真ん中のほうを取ったらどうだい?まだたくさんあるんだから。」
にっこり笑って真ん中部分がたくさんのった皿をすすめてくれたのは、明るい髪と瞳をもつ綺麗な先輩。
「不っ不二先輩っ・・・」
一年生達はぽぅっとなった。立海大付属との試合で、すさまじい力と才能をみせつけたこの先輩は、普段は柔和で優しく皆の憧れだ。この綺麗な先輩に声をかけてもらえるだけで嬉しいのに、スイカのおいしい部分を食べなさいと皿を差し出してくれている。
「あっありがとうございますっ。」
「ありがとうございます、不二先輩っ。」
一年生達は真っ赤になりながらスイカを取った。
ああ、このスイカ、食べるのもったいない、せめて皮をもって帰ろうか・・・
不二先輩に貰ったスイカは、甘く幸福の味がした。
「ほら、荒井、君も。」
一年生達を羨ましそうに睨んでいた二年生達ににも不二は皿を回す。夏の日差しを受けて微笑む姿はキラキラ輝くようで、二年生達もぼぅっと見とれた。
ああ、不二先輩、あなただったら流れる汗すら美しいっす・・・
「やばいんじゃないっすか、先輩。」
リョーマが桃城を突付いた。桃城もこくこく頷くと横の海堂を突付く。
「おっおい、マムシ、先輩達に。」
「わっわかってる。」
海堂は乾を突付いた。
「マズイっすよ、先輩。」
まるで伝言ゲームのように、レギュラー陣の間を警報が伝わっていく。最後に大石が突付かれ、慌てて腰を浮かせた。
「手塚っ。」
隣に座る手塚の肩を叩こうとしてすかっと大石の手は空を切った。間に合わなかった。
「てってづっ」
「不二。」
手塚は両手が塞がったままの不二の肩に手を置いた。
「ほら。」
「あ。」
手塚はスイカを不二の口元へもっていった。不二はそのまましゃくっと三角の先端をかじる。そしてにこっと笑った。
「ありがと、手塚。」
「・・・うむ。」
手塚は不二の口元を人差し指でぬぐってやる。くすぐったそうに不二は肩を揺らした。
「まだ食べるか。」
「ふふっ、自分で食べられるよ。」
「かまわん。」
手塚ってば、とクスクス笑いながら不二はまたスイカをかじる。また手塚は口元をぬぐってやる。甘い甘い、スイカの真ん中より甘いシールドで不二の周りが遮断された。その甘いシールドの周辺では、一年生と二年生が凍り付いている。
このスイカ、食べてもいいんだろうか、口をつけたら手塚部長に睨み殺されるんじゃないだろうか・・・
焼け付くような太陽の下、気分はブリザードの真っ只中な後輩達は、手に持ったスイカをどうすることもできず、ただじっと動けずにいた。スイカはどんどん温くなる。救いを求めて三年生を見るが、レギュラー陣を筆頭に何事もなかったように皿のスイカを次々平らげている。手塚に睨まれた一、二年のほうには目をむけないよう、それなりに必死だ。
たまらんカップル、うかつに関わるととんでもないことになる、身をもってそのことを知った暑い夏の一日だった。
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八月に日記にアップした分を移動。たまらんカップル、相変わらず人に迷惑かけまくり。まだまだつづく〜v