たまらんカップル5




不二周助は青くなった。


次々とレギュラ−達が倒れていく。大石が、菊丸が、乾が、そしてなによりも大切な恋人の手塚が。
そして、不二が一人、残された。


青学テニス部は連休を利用して強化合宿なるものをおこなっていた。顧問、竜崎の知り合いが経営している山の上の牧場に隣接した合宿所だ。テニス指導の合間に趣味の乗馬を楽しみたいという顧問の我が儘だけで決定した場所だったが、都会育ちの中坊どもにはそれなりに物珍しく、皆、はしゃいでいた。

夕食が終わり、風呂だのテレビだのとくつろいでいるとき、菊丸が異変をうったえた。

「なんか、ふらふらするんにゃ〜。」

熱をはかると38℃もある。慌てて竜崎を呼びに行こうとした不二の目の前で河村が座り込んだ。

「吐き気がする…」
「オレも…なんか変…」
「喉が痛い…」

乾と大石も同じような症状を訴える。

「て…手塚っ。」

不二が振り向いた先には、やはり真っ青な顔をした手塚が椅子に沈んでいた。とりあえず倒れた三年生を部屋に連れ帰り、布団に寝かせていると、二年と一年の部員が 血相をかえて飛び込んできた。

「先輩っ、桃城と海堂が倒れましたっ。」
「不二先輩っ、リョ−マ君が大変なんですっ。」

同じ症状だった。


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「は?ヨウレンキン?」


往診を頼んだ村の医者の言葉に竜崎と不二は呆気にとられた。

「抗生剤飲まないとダメだから、三食後、飲ませて。後、熱さがって湿疹がでることもあるから、そのときはこっちの抗ヒスタミン剤、これは朝と寝る前ね。」

ヨウレン菌って、ヨウレン菌って、たしか小学生とかよくかかっている、アレ?

「これね〜、うつらない人は全然大丈夫なんだけどねぇ。うつりやすいのは遺伝的なもんだから。あ、熱はまだまだ続くよ。」

医者はにっこり笑って帰っていった。
呆然とする二人の側で、菊丸が呟いた。

「そーいや、小学校ではやってるって弟が…」

それにしてもそろいもそろってレギュラ−陣が何故…

「練習試合の打ち上げ、家でやったのがやばかったかにゃ〜。」

へへへ、と熱っぽい目で菊丸が力なく笑った。

「…いや、エージのせいじゃないよ…」

ぽつっと慰める不二に竜崎が力強く言った。

「動ける三年はお前だけだね、不二。」

頼んだよ、とがっしり肩を掴まれる。不二は少なくともヨウレン菌には強い己の体質を呪った。


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それからは目のまわる忙しさだった。大自然に囲まれている、ということは、周りに何もないということだ。不安にかられた一、二年の面倒から、病人の世話と息つく間もない。不二は決めた。


使えるやつから看病しよう…


そう、役に立つものを重点的に看護して、回復してもらうのが最善の策だ。


青学テニス部のため、皆のため、僕は心を鬼にする。


そして、不二のなかで冷徹な順位づけがおこなわれた。


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「悪いな、不二。大変だろ。」
「いいんだよ、それより大石、これ飲んで。はやくよくなってね。」

にこっと笑って大石の口に温かいスープを運ぶ。それから、隣の河村の額のタオルを代えてやる。

「ありがとう、不二。」
「タカさんも、ス−プ飲んで。なにか胃にいれたほうがよくなるから。」

皿をとるそのついでに、乾と菊丸の枕元にヤサイジュースを置いた。

「温かいの、ついでくるから、それで喉、潤しておいてくれる?」
「せ…せんぱ〜い…」
「あ、桃と海堂、二年の世話に荒井呼んだから大人しく寝ていて。」
「オレもスープ、欲しいっす…」
「堀尾達がくるまで越前は我慢っ。」
「…………不二…」
「手塚、ちょっと手はなせないから自分で飲んでて。じゃ、大石、タカさん、薬飲もうか。」

はい、お水、あ、だいぶ熱さがってきたじゃない、
不二はかいがいしく大石と河村の世話をやき、乾と菊丸にも手をかけてやる。

「おれも薬…」
「だから手塚は待っててってば。薬、そこにあるでしょっ。」

献身的な不二の看護のおかげで、大石と河村はさほど症状も悪化せずに回復し、ほどなく乾と菊丸も復活した。桃城と海堂、越前はそれぞれ同級生が面倒をみたので、大事にはいたらなかったようだ。

「なに、まだ調子悪いの?手塚。ちゃんと薬飲まないからだよ。」
「……………」

いまだフラついている手塚部長に部員達は心底同情した。が、円滑、かつ快適な合宿が出来ている現実には不二の判断の正しさを認めざるをえなかった。


さすがは天才、不二周助…


青学テニス部に新たなる伝説がまた一つ生まれた。

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その後、恋人の冷たい扱いに恨み言を漏らした手塚が、

「僕がどんなに身を切られる思いだったか、君わからないのっ。」

という一言でまるめこまれたとかどうとか。
ついでに、同じこと僕にやったらただじゃおかないからね、と般若の形相で睨まれた事実は、青学テニス部の名誉のためにもレギュラ−陣の胸にのみおさめられている。


たまらんカップル、熟年夫婦の味わいをかもしだしていることにまだ本人達は気付いていない。



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いや〜、これも半分くらい実話だったりして。ははは〜、さすが日記ss、日常に密着してますなぁ(ってごまかすなよ、オレ)