たまらんカップル4





「では、ご旅行は個人申し込みということで。」

女性社員のにこやかな声が響く。ゴールデンウィーク前、J○Bカウンターは旅行予約の人々でごったがえしていた。手塚と不二は順番カードを持って並んでいる。前に座る黒ぶち眼鏡にベージュの上着を着た中年男が淡々と答えた。

「はい、家族旅行です。」
「お申し込みの人数ですが。」
「男二人です。」

やりとりを聞くともなしに聞いていた不二の体が、その途端びくんとはねた。

「て…手塚っ、あの人…」
「なんだ、どうした不二。」

怪訝な顔をする手塚の手を引いて、不二はカウンターの側を離れた。きらきらした目で手塚を見上げる。

「あの人、恋人の籍をいれたんだ。地味な普通のおじさんなのに。」
「?」

手塚は不二の言う意味がわからない。だが、何かを必死で訴える不二はとてもかわいいと口元が弛んだ。

「だからね、手塚。同性の恋人同志は結婚できないから養子縁組とかするんだよ。」
「………なに?」
「あのおじさん、男二人で家族旅行だって言ったでしょ。」
「ああ…。」
「つまり、恋人は男で、ついに養子縁組しちゃったから家族旅行なんだよっ。」

すごいね、えらいね、人はみかけによらないね、と不二はやたら感動している。
手塚は不二の言っている事はさっぱりわからなかったが、一生懸命話す不二にくらくら目眩を覚えていた。不二は手塚に甘えたような笑みを向ける。

「ねぇ、手塚。いつか僕達も家族旅行ってできるかな…。」
「当然だ。」

不二、お前が望むなら、そう想いを込めて手塚は不二の腕をとる。不二はうっとりと微笑んだ。

「…嬉しいよ、手塚…」

手塚は不二が何を望んだのかさっぱりわからなかったが、蕩けるようなこの笑みを向けてもらえるのなら何だってやってやると心に誓っていた。


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「だーから、ついてくんのヤダっつったんですよ、先輩。」
「しょーがないだろ。社会勉強だから全員で合宿の手続きに行ってこいって竜崎先生が。」

露骨に嫌な顔をする越前リョーマを桃城が宥める。

「だって、あの二人、またはいっちゃってますよ。」

リョーマの指差す先では、確かに手塚と不二が二人の世界に突入していた。

「でも乾、なんで不二は養子縁組とか詳しいんだ?」

いぶかしがる河村に乾はにっと笑ってみせる。

「そりゃあ、あれだからね。」
「あれって何にゃ?」

三年レギュラー陣は相変わらず呑気だ。

「でも先輩、もし、あの人、早くに奥さんを亡くしてですよ、息子さんと旅行とかだったらどーすんですか。」

海堂がぼそっと呟く。

「あ、それもありかにゃ。男手ひとつで息子を育て上げて。」
「ふむ、成人した息子と共に亡き妻の想い出の地を訪ねるのかもしれん。」
「乾ーっ、ワンダホーぉおっ。」
「だったら余計に不二先輩の誤解、解いてやんないとヤバイじゃないスか。」
「越前、お前、今、部長達に話しかける勇気あるか?」
「…ないッス…。」
「…お前達、合宿の手続きは…」

聞いてない…

大石は諦めた。いったん不二にはまった手塚はもう使い物にならない。他の連中は乾が示す様々な感動話の可能性について盛り上がっている。カウンターでは自分達の番号が点滅している。大石は肩をおとして、本来の目的を達成すべく一人カウンターへ向かった。


たまらんカップル、最近では周りの人間を巻き込んで混乱の輪を広げているような気がする。

少なくとも青学以外の人々と関わる場であの二人と行動をともにするのはやめよう、

そう固く決めた大石だった。


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実話です。実話。でも、カウンターの話を耳にしてこーゆーこと考えたわしの脳みそはホントーに腐ってます。