ん〜、眩し…
ゆっくりと意識が浮上する。なんだかひどく明るい。
……あれ?
目を開けると、白い光が飛び込んできた。
あれ…あれれっ
イルカはガバ、と飛び起きた。庭に面した障子越しの光がやたらと強い。
「うそ…」
時計を見たイルカは一瞬呆ける。もう昼に近い時刻だ。
何、なんで、オレ、寝坊?
体が疲れているはずがない。なにせ一般人と同じ速度で旅をしてきたのだ。中忍のイルカにとってそんな旅は近所を散歩するのと同じレベルだというのに、何故寝坊などしたのか。
そっそりゃ、昨日はびっくりすることばっかだったけど…
確かに精神的な疲労はあったが、あの程度でどうこうなるほど柔ではない。首をひねりながらもあたふたと身支度をしていると、障子越しに静が声をかけてきた。
「お目覚めですか?イルカさん。」
「あっはははいっ。」
ガラ、と障子を開ける。
「オレ、寝坊しちまって。」
「お疲れでしたのねぇ。」
きゅうりとトマトを盛ったざるを胸元に抱えた静がくすくすと笑った。淡いエンジと金茶の格子縞木綿の着物をしゃっきりと着ている。
「ほら、今いただいたんですけど、おいしそうでございましょ。汁を温めますから、食事になさいませ。」
「すっすみません。」
昨日から世話になりっぱなしだ。恐縮して頭を下げたイルカは、ふと、家に静の気配しかないのに気がついた。
「えっと、カカ…兄は…」
「あぁ、朝早く出かけましたよ。いったん出るともう鉄砲玉ですから、今頃どこで遊んでいるやら。」
「そうですか…」
到着早々失態だ。たとえ今は草とはいえ、上官よりも朝寝をしてしまうとは。
「妙に上機嫌で、やっぱり弟さんに会えたのが嬉しいんでございましょうね。」
「はぁ…」
穏やかな静の様子から察するに、今朝は財布から金を抜いていないのだろう。
……あれ。
イルカはふと引っかかりを感じた。今朝、カカシは上機嫌で出かけたという。
朝早くから遊びにって…
昨日、イルカが渡した銭は、あの料亭の支払いで全て消えたはずだ。静の財布からも金を抜いていないとなると、遊ぶ金はいったいどこから調達したのだ。ハッとイルカは部屋の中に戻った。枕元の行李を開ける。商売用の様々な丸薬と粉薬、そして油紙に包んだカカシ専用の兵糧丸…
「なっなっないーーーっ。」
火影から渡された予備の銭袋が消えている。イルカは行李をひっくり返して中身を改めた。やはり銭袋はどこにもない。いくらぐっすり眠っていてもイルカは中忍、その枕元から物を盗み出すなど、一般の泥棒など論外、上忍クラスの実力者でなければ無理な話だ。ちかり、と脳裏を赤い瞳がかすめる。そういえば夕べ、何故カカシはわざわざ写輪眼を指差してみせたのか。
「あっあのやろおーーーーっ。」
イルカは拳を震わせた。激しい前線で消耗したのならいざしらず、この程度で朝寝をするのがおかしいのだ。あの時、カカシが術をかけたに相違ない。
「くっそぉぉぉっ。」
「……あのトンチキ、どうりで機嫌がよかったはず…」
行李をひっくり返して吠えるイルカに全てを悟ったらしい静が眉間を押さえてため息をついた。
|