何考えてんだ何考えてんだ何考えてんだ写輪眼のカカシーっ
料亭「花筏」へ急ぐイルカは心のうちで叫んでいた。件の料亭は白糸の街でも老舗の一流料亭だそうで、目抜き通りの先にある広場の一角に店を構えているのだそうだ。
お光っちゃんの団子屋の前を通り過ぎ、広場に入るとすぐにわかった。堂々たる門構えにイルカは少しひるんだが、カカシが中で遊んでいるのだとしたらそうも言っていられない。勢いのまま走り込み、店正面に控えている男衆と仲居をつかまえる。
「あのっ、ここに兄が、カカシがいると伺いましてっ。」
息を切らすイルカに受付の仲居が頷いた。
「あぁ、はたけ様でございますか?」
「はっはたけーーーーっ?」
目を剥くイルカに仲居はにっこりと笑った。
「はい、はたけ様にはいつもご贔屓賜りまして。」
ちょと待てっ、ご贔屓ってここ、仮にも白糸の街一番の老舗だろっ、あんな怪しい風体の男、遊ばせていいのかっ、っつか、フツー一見さんお断りとかなんとか、紹介ないと入れないとかなんとか、だいたい賭場で儲けた金で遊んでいいのかいい場所なのかここーーっ
「じゃなくってっ。」
様々なものが駆け巡りパニック状態のイルカはぐぐっと両拳を握って丹田に力を込めた。
「あああ兄ははっはたけと名乗っているのですかっ。」
「はたけカカシ様でいらっしゃいましょう?かの高名な忍、写輪眼のカカシと同じお名前とか伺っておりますが。」
ぬぉぉぉぉぉっ
イルカはグラグラと頭が煮える思いだった。
写輪眼のカカシと同じ名前って、自己申告してどーする、写輪眼のカカシーーーっ
「兄はっ、兄はどこですかっ。」
「はたけ様から、弟様がいらっしゃるとのお話は承っております。こちらへ。」
「はぁーーっ?」
自分がここへ来ると仲居に伝えているということは、やはり財布を持っていったのは確信犯なのか、ツケを払う気などなかったということか。
沸騰しそうになりながら、イルカは仲居に案内されて座敷へ向かう。長い廊下の向こうから真っ昼間だというのに賑やかな三味線の音が響いてきた。近づくにつれ唄いや手拍子、笑い声が聞こえてくる。
「はたけ様、弟様がいらっしゃってございます。」
膝をつき仲居が障子を開けた。ワッと部屋の熱気が押し寄せる。
「あら、イルカちゃ〜ん、早かったねぇ。」
金屏風の前で派手な銀髪がひらひらと手を振った。朱塗りの杯をくいっと空け、ずらりと居並んだ芸者衆と男衆に顔を向ける。
「オレの弟のイルカちゃん、しばらくこの街にいるから、よしなに頼むよ。」
カカシの言葉に男衆や芸者衆がいっせいに寄ってきた。
「カカッ様の弟様でやすかい。」
「こりゃあどうも、いつも兄様にはお世話になっておりやす。」
「はたけイルカ様、どうぞこちらへ。」
「どうぞ一献おあがりなすってくださいまし。」
色とりどりのきらびやかな衣装を纏った芸者衆がイルカの手を引く。白粉の匂いにむせそうだ。銀ねずの縞柄単衣を着た男芸者がササッと手を振りカカシの所まで綺麗どころの道が出来た。
「兄様がかの写輪眼と同じ名ならば、弟様の御名は海の平和ときてござる、いやめでたいめでたい。」
「違いますーーーっ。」
イルカは激昂して思わず叫んだ。
「その人ははたけじゃありませんっ、うっうみのカカシっ、んでオレぁうみのイルカだ、悪いかこら−ーーっ。」
一瞬、皆、目をぱちくりさせる。カカシが膝を打って高らかに笑った。
「あっはっは、ばれちゃった。せっかく写輪眼のカカシと同じって威張れてたのにねぇ。」
「やっぱり、あたしらをおからかいでございましたか。」
「お人が悪い、はたけ様、いやさ海の案山子様。」
「なんにせよ、海に睨みをきかせてござる。」
「うまいねぇ。」
カカシが上機嫌で手を叩くと、それを合図に三味線が鳴りだした。
「海のォォォ小舟にィィィ案山子の船頭ォォォ」
チントンシャン
艶のある声でカカシが唄う。
「イルカァァいるかとォォ鳥にぃ聞くゥゥ」
ツントンシャンシャン
ドドン、サテ
「かっぽれかっぽれ」
カカシが囃しはじめた。芸者衆、男衆が唱和する。
「「ヨヨーイトナ ヨイヨイ」」
全員立ち上がって踊り出した。カカシが唄う。
「沖の暗さにみゆるよみゆる」
「「サーァァァみゆるヨイトコラサ」」
ワイワイと踊り唄う芸者や男衆に囲まれ、イルカは目を白黒させた。カカシががっしりとイルカの肩を抱いて踊りだす。
「あれはイルカヤレコノアレワイサー」
「「ヨイトサッサッサー」」
「はたけのカカシが恋しいかァァァ」
「ぎゃ〜〜〜っ、何すんですかーーーっ。」
イルカの悲鳴は三味線、唄いと笑い声にかき消されていた。
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