その15
 
 
 


カッカとしながらはじめた薬草探しだが、緑に包まれていると気分は落ち着いてくる。カンカンと日に照らされても、頬を撫でる風はカラリとして気持ちよかった。真昼は鬱陶しい蚊もおらず、たまにとんでくるアブにさえ気をつけていればチャクラで肌を守らなくても大丈夫だ。子供の頃から草っぱらや森で遊んでいたイルカは薬草採りがすっかり楽しくなっていた。

「童心に帰ってるねぇ。」

上から声が降ってきて顔をあげると、カカシが水筒を差し出している。

「そろそろ昼にしよっか。」
「……はい。」

まだちょっと拗ねていたイルカが不機嫌そうに答えると、カカシがくすり、と笑みをこぼした。今まで見た事のない笑みにイルカはどきり、とする。

「はい、これ。」

カカシが差し出した籠には、青い花をつけたセンブリがこんもりと入っていた。その脇ではヤマユリの花が数本、切り口を湿った布でくるまれている。

「わ、ありがとうございます。あ、ヤマユリ、まだ咲いてたんですね。もう最後の花だろうなぁ。」

センブリの山をみてころりと機嫌が直ってしまう。我ながら現金だ、と思わないでもないが、いつまでもプリプリしているわけにもいかない。だいたい、無礼なことを言ったのはイルカの方だ。流石に気になってきて、カカシをちらり、と伺うと、またくすり、と笑われた。

「あの…カカシさ…」
「あっちの木陰で食べようか。」

ぽん、と握り飯の包みを渡し、カカシはくるりと背を向けた。

「イルカ。」
「はい?」

薬草の籠と握り飯の包みを持ってわたわたと後を追うと、カカシがぽつっと呟くように言った。

「情を移すと辛いのはアンタだよ。」
「え…」

スタスタとカカシは木陰へ向かう。オレだって忍です、任務のわきまえくらいあります、言いたい事は山ほどあったが、拒絶するようなカカシの背中にイルカは黙るしかなかった。












街へ帰ったのは午後の四時過ぎだった。昼飯の後、山小屋の確認やトラップの確認をしていたら案外と時間を食ってしまった。

「あ、オレ、今日薬を届けなきゃいけないんで、ちょっと幸吉屋へ寄ってきます。」

幸吉屋というのはカカシが贔屓にしている置屋だ。半玉のお由もそこにいる。

「もう夕方だし、明日にすれば。」

意外にもカカシに引き止められた。

「え?でもまだ日も暮れてませんし、届けるだけですから。」
「お静が待ってるでしょ。帰るよ、イルカ。」
「えっと、でも、もうこの間の分がなくなると思うんで…」
「いいから。」

妙に強引だ。

「カカシさん?」

イルカが怪訝な顔をすると、カカシはガシガシと銀髪をかいた。

「わかった、じゃ、とっとと届けて帰るよ。」

先に帰るかと思ったカカシは黙ってイルカについてくる。首をひねりながらイルカは幸吉屋へ向かった。




中へ入ると、なんだか賑やかだ。

「あら、カカシ様、先生。」

『おかあさん』と呼ばれる女性が上機嫌で出てきた。イルカがこんにちは、と頭を下げ、薬の袋を渡そうとしたとき、これから座敷へ入るのか半玉が後ろから出てきた。やたら豪華に着飾っている。周りで他の芸妓や半玉がさかんに褒めそやしていた。濃い紅の振り袖に桃割れを結った半玉はきゃしゃで、白く化粧をほどこした顔は幼い。


「……お由ちゃん?」

 
 
 
カカシさん、素っ気ないんだか優しいんだか…ところでセンブリ、ガキの頃、母親の手伝いで摘んで陰干ししたんだよね。んでもって腹痛おこした時、マミーが煎じてオレ、飲まされたんだけど…ありゃ苦いなんてもんじゃねぇ、死ぬほど苦いっ、つか死んだよ、そこらの薬の苦さなんて飛ぶほど苦いっ。泣きながら飲んだけど、でもピタって効くことは効く。あっという間になおったもん……いや、センブリはカカイルには関係ないんだけどさ…