その13 |
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いったい何なんだ、はたけカカシ。 「おっしず〜、今日はイルカのお手伝いで山に行ってくるよ〜。」 珍しく朝飯の後、ゆっくりと茶をすすっていたカカシがそう言った。 「はへ?」 自分に山へ行く用などない。イルカは目が点になる。
「薬草取りにいかなきゃいけないっていってたでしょ、イルカ。」 足を蹴飛ばされ、イルカは慌てて話を合わせた。お静が台所から手を拭きつつ出てくる。
「どうりで、今朝は家にいると思った。じゃあ、弁当作りましょうね。」 イルカが慌てふためくと、静がくすくす笑った。
「ほんとに、イルカさん、いつまでたっても遠慮深いんですから。」 茶々入れるカカシを静がペン、とはたいた。
「お前さんは慎みがなさすぎるんですよ、少しは弟様を見習いなさいな。」 カカシは静に甘える。端で見ていると、母親に甘える子供のようだ。
「すぐ出るから、お握りだけでいいよ。あ、中身は梅と昆布とおかかね。今朝の漬け物いれて。」 わっかんねぇなぁ、写輪眼のカカシ… 静にまとわりつくカカシを眺めながらイルカはぼんやり思う。 このカカシが、草としての冷徹な計算だけで女に相対しているとは思えない。だいたい、数ヶ月で姿を消す草ならば、もっと違うタイプの女を選ぶのではなかろうか。しっかりもので分をわきまえ、しかし情の深い、静のような女は選ばない。こういう女は姿を消した後も男を忘れないからだ。 短期の草はもっとふわふわとして都合のいい女を選ぶ。そして、ただ優しかった、くらいの印象しか残さないものなのに、このカカシのインパクトの強さは何だ。
賭場の元締めや子分ども、置屋に料亭の女将に大店の旦那や使用人達、おまけに団子屋のお光っちゃんと、たった数ヶ月でこの密な人間関係は何だ。いいのか、草がこんなに目立っていて。
本名で皆と親密になっている自分は、ある意味カカシよりヤバイ。
でも、オレがこうなったのは全部カカシさんの尻拭いしてたからだ。そうだ、オレは悪くねぇっ。
拳を握って自分に言い訳していると、ひょいとカカシが顔を覗き込んできた。
「イールカ、何一人でぶつぶつ言ってんの。さ、行くよ。」 静の用意した弁当と水筒、それに薬草を入れる籠を持ってカカシは先に外へ出た。まだ朝早くだというのに、真夏の陽射しは白く街路を焼いている。 「あ、待ってくださいよ、兄上。」 その背を追いながら、写輪眼のカカシでもなく、草をやっているうみのカカシでもない、ただのはたけカカシを知りたいとイルカは思い始めていた。
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あーあ、イルカ先生……。だんだんろくでなしカカッさんが気になりはじめちゃいましたね ほっとけばいいのに、そんな男……こーゆーヤツを躓きの石と…… |
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