こんな恋のかたちもある
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木の葉病院は一般外来と任務で傷を負った忍専用病棟と別れている。迷わず忍び専用病棟に飛び込んだカカシは受付カウンターにかじりついた。

「あっあの、イルカ先生はっ。」

医療事務の女性が顔をあげる。

「あ、はたけ上忍。」

にこり、と微笑まれた。

「イルカといいますと、先日入院いたしましたアカデミー教諭、うみののことでしょうか。」

受付の女性は怪訝な顔をする。

そうだったっ。

カカシはそこでハタと我に帰った。なんだかんだいってカカシは名が売れている。しかも写輪眼のせいで医療関係者にカカシを知らぬものはない。そのカカシが何の接点もないアカデミー教師を訪ねてきたら皆興味を引かれるに決まっている。だいたい、当のイルカを驚かせてしまうだろう。

「……あ〜。」

慌ててそのことがすっぽぬけていた。内心パニックをおこしながら、それでも言葉は勝手に出てきた。

「オレね、今度上忍師やるかもしれないんだけど、その担任の先生が入院したって聞いたもんだから。そのうみのイルカ先生?大変だったんでしょ?」

うみのっていうんだ、うみのイルカ先生、っつか、オレ、なんかナチュラルに名前言ってるしーーーっ

心の中の絶叫とは裏腹にカカシの態度は淡々としたものだ。

「あ、そうでしたか、少々お待ちください。」

受付嬢はパソコンのキーを叩くと再びカカシに笑顔を向けた。

「うみの中忍、305号室ですね。あ、退院予定日は明後日です。」
「そ、ありがと。」

ぬぉぉぉ、このまま病室行く気かオレーーーーっ

成り行き上、病室へ続く廊下へ足を向けながらカカシは焦った。勢いでここまで来たが、黙って帰ればただの不審者、病室を訪ねたら訪ねたで何をどう言えばいい。

あ、でも…

カカシは思い直した。

これってチャンスかも…

口からスラスラ出てしまったが、自分でも気付かなかった。つい今しがた火影から聞いた重要な情報、イルカはナルトの担任だ。そのナルトの上忍師を自分が引き受ける、まぁ、試験に通ればの話だが。これはお近づきになる絶好の機会ではないか。
ふと病院待ち合いの一角に目をやると、『山中生花』の文字が飛び込んできた。花屋が出張販売にきているのだ。チューリップにフリージアに、と色とりどりの春の花が銀色のバケツから溢れている。

「……これ、頂戴。」

気がつくとカカシは赤いチューリップとかすみ草の小さな花束がを手にしていた。









消毒薬のただよう病棟の廊下をカカシは歩く。なんだか足下がフワフワしておぼつかない。

「まずは挨拶だ、挨拶…」

カカシは歩きながら腕組みした。

「こんにちは、はたけカカシと言います。以前アカデミーの中庭でお会いしましたよね…って、これじゃちょっと唐突だよな、やっぱあれだ、上忍師だよ、ナルトだよ、とっかかりはそこからって、あ、しまった、その怪我した事件っての、じーさんに聞くの忘れてた。ま、そりゃおいおい本人から聞かせてもらうことにして…って、本人だって、オレ、もう親しくなること前提?ぎゃ〜照れるっ…」

斜め下四十五度を凝視した男が何事かブツブツと呟きながら赤くなったり両頬を手で包んだりする様は不気味だ。すれ違うスタッフや患者は目を合わせないよう足早にカカシから遠ざかった。もちろん、一人の世界にはまりこんでいるカカシが気付こうはずもない。そのうちに、カカシは305号室の前にたどり着いていた。

うわ…

このドアの先にイルカがいると思うと、急にどぎまぎしてきた。いや、見舞う理由なら立派にある。さっきから何度も頭の中でシュミレーションしたではないか、そう己を叱咤するが、どうにも気後れする。

臆するなっ、それでも暗部か、写輪眼のカカシかっ

いやここ、戦場じゃないし、一人己に突っ込みをいれつつ、カカシは緊張を振り払うように花を持ち替えノックしようとした。その時だ、中から笑い声が聞こえた。咄嗟に己の気配を消し、中の様子をうかがう。男が三人、うち一人はイルカだ。そして女が二人、いずれも若い。

「やぁだ、もうっ、冗談じゃなくってぇ。」
「そんな意地悪言うんならもう、職場復帰してもお茶いれてやんないですよ〜。」
「おいおい、ケガ人苛めるなよ。」

同僚なのか、随分とみな、親しそうだ。楽しそうなイルカの笑い声。カカシはじっとドアノブを見つめた。これを握って回すだけで、自分もあの空間に入って行ける。簡単なことだ。ノックしてドアを開ければいい。

失礼します、あぁ、お邪魔してしまいましたか。はじめまして、うみのイルカ先生。実は今度、上忍師をやることになりましたはたけカカシと言います。お怪我なさったと伺いまして…


「……出来るわけ…ないか…」

ふっとカカシは自嘲を漏らす。ノックをしようとした手はいつの間にかだらりと下にさがっていた。











「あら、イルカ先生、これ。」

花の水を替えようとドアをあけた同僚のくノ一が足を止めた。

「ドアの前に。」

赤いチューリップと白いカスミ草の小さな花束。

「おぉ〜、密やかな見舞い?女か、イルカ、女かぁ?」
「もしかして秘密の彼女とかいた〜?」
「いねぇよ、んなもん。」

はやし立てる友人達にイルカは顔をしかめてみせる。

「う〜ん、期待させて悪いけど、たぶん違うと思う。」

花束を拾い上げたくノ一が苦笑しながらベッドサイドに戻ってきた。

「だってほら、これも一緒に。」

花束と一緒にくノ一が小さなものを差し出す。はやし立てた友人達もそれを覗き込んだ。

「なんだ?」

五センチ程の小さなフィギュアと折り畳まれたメモ用紙だ。

「これって、今の仮面ライダーのキャラじゃねぇ?」
「あぁ、ガキどもが真似して遊んでるアレか。」
「え〜?赤鬼みたいなのに仮面ライダーなんですか〜?」

イルカはひょい、とそれをつまみ上げた。

「モモタロスってキャラなんだよ。」

折り畳まれたメモを開ける。

「生徒の誰かが持ってき…」

メモ用紙には短い言葉が添えられていた。

「…たんじゃないな、こりゃ。」

『はやく元気になってください。』

えらく達筆だ。子供の字ではない。同僚達も首をひねった。

「大人の字だよなぁ…」
「でもこんなん花束にくっつけるか?フツー」

若いくノ一ががモモタロスのフィギュアを指でつつく。

「心当たりないの?イルカ先生。」
「う〜ん。」

イルカも首をひねる。

「まぁ、親と一緒に来た生徒の誰かなんじゃねーの?」

同僚の一人がそういい、周りも賛同した。

「教師がこんだけいたから入りにくかったのかも。」
「そりゃそーだ。」
「親に普段の悪さがバレるしな。」

どっと笑いがおこる。イルカはベッドサイドの机にモモタロスのフィギュアを置いた。チューリップとかすみ草は同僚が花瓶に活ける。それきり花束の贈り主のことを皆忘れ、話題は他へ移って行った。

 

 

小心者です、写輪眼のカカシ。モモタロスのフィギュアはお気に入りでつねにポケットに入れていたのです。けなげ…なのか…
すいません〜〜、オフ本になっちゃいました。オフ本と違うもっとオタ色強いものをアップしていければと思いますが、亀の歩みかも…手っ取り早くというかたはオフ本で。すまんです〜〜