こんな恋のかたちもある
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イルカ先生はどうなさったんですか?
任務ですか?里にいらっしゃるんでしょうか?
それともまさか、病気とか怪我とかしてらっしゃらないですよね。




「……って、聞けるわけない〜〜。」

はたけカカシは頭を抱えた。
里に帰還して一週間、「イルカ先生」の消息はようとして知れない。というより、何の関わりもないカカシは「イルカ先生」の所在を確かめる術を持っていなかった。
写輪眼のカカシ、コピー忍者、などと下手に名前が売れている自分がのこのこアカデミーに出かけていって、「イルカ先生」の所在を尋ねたりなどしたら、騒ぎになるのは目に見えている。個人的に親交を深めたいと切望しているカカシとしては、あまり衆目を集めたくなかった。

名前が売れるっていうの、なーんにもいいことなしだねぇ…

いつも首を狙われるわ、任務指名はくるわ、ろくなことはない。ハァ〜、とため息をついたカカシは、今日も木の大枝に姿を隠して、アカデミーの職員室をのぞいている。卒業試験が終わり、アカデミーは春休みに入っていた。子供達の姿はないが、教師達は出勤して忙しそうに立ち働いている。どうやら入学試験の準備らしい。ただ、やはりイルカ先生の姿だけがなかった。

あの人、確かに教師だったのに…

卒業を控えた子供達をつれて授業をしていた。なにより、子供達が「先生」と呼んでいたではないか。八方ふさがりのまま、カカシはひたすら「イルカ先生」の気配を、声を探る。端から見れば物陰に潜む変質者以外の何者でもないのだが、本人は必死だった。

ピーッ

鳥が鳴いた。

呼び出しか。

鳥は三代目からの式だった。カカシは顔をしかめる。また任務指名だろうか。

いやいや、もう今回は受けないから。

イルカの行方がわからないというのに、呑気に任務など受けていられない。今、最優先すべきはイルカ先生なのだ。だが、己が口べたなのも充分承知している。このまま執務室へ行けば、この間の二の舞だ。

「あ、そーだ。」

カカシは口布の下でにんまりとした。









廊下に居合わせた忍達が青い顔でざざーっと道をあける。壁に張り付かんばかりになりながら、皆、動くことができない。写輪眼のカカシがゆっくりとした足取りで廊下の真ん中を歩いてきた。いつもと変わらぬ飄々とした出で立ちだが、その体から冷え冷えとした殺気が立ち上っている。周囲の忍び達は気圧されて息もできない。写輪眼のカカシは口布ごしにもわかる厳しい表情のまま、三代目火影の執務室へと消えた。

「……ふぁ〜〜」

誰かが大きく息をつく。その場にいた忍達はいっせいに体の力を抜いた。中にはたまらず、座り込む者までいる。

「こえぇ〜。」

一人が口を開くと、恐怖が大きかった分、解放感が増したのか、忍達は口々にしゃべりはじめた。

「はたけ上忍、なんかすげ〜怒ってたな。」
「ほれ、あれじゃね?ナルトがさ。」
「あー、だよ。たしか今回、はたけ上忍がナルトの上忍師になるって。」
「上忍の試験に受かれば、だけどな。」
「んでもよ、担当するガキがはめられたってなりゃ、怒りもするわなぁ。」

火影の執務室周辺にいる忍は皆、中忍以上である。ミズキの起こした不始末は全員の知るところだった。

「にしてもよ、写輪眼の殺気っての?命縮むわ〜。」
「あんなこえぇ忍につくガキどもも大変っちゃ大変だな。」

相変わらず噂話に花を咲かせながら、忍達はそれぞれの仕事に戻っていく。はたけカカシの伝説に、また一つ、「廊下ですごく怒っていて怖かった事件」が加えられることとなった。








びびってるびびってる。

口布の下で、カカシは密かにほくそ笑んだ。今回、口べたな自分がなぁなぁで任務を押し付けられないための作戦として、何故か知らないけど殺気立っているカカシ、になってみた。戦場ほどではないが、ある程度の殺気をふりまき、難しい顔で歩けば、案の定、居合わせた忍達がすくみ上がっている。

このくらい不機嫌丸出しなら、ジジイも少しは空気読んでくれるでしょ。

ここまで不穏な空気を醸し出していたら、流石の火影も任務を言い渡す前にどうしたのかと一言聞いてくるに違いない。そうしたらこう言うのだ。

任務なら今、オレは受けることはできません。大事なことを抱えているんです。

任務漬けで人生の楽しみを知らないと心配している三代目のことだ。無理は通さないだろう。あれこれ尋ねてきたら、事に乗じてイルカ先生のことを聞けるかもしれない。

おしっ。

心の中で握りこぶしを作り、難しい顔をしたまま執務室のドアを開けた。









 

「おぉ、きたか、カカシよ。」

執務机の向こうで三代目火影が目を細めた。ここが正念場だ。カカシはピリピリとした空気のまま執務机に歩み寄る。カカシの様子に火影の顔が曇った。

よしゃっ、いけるっ。

内心、ガッツポーズのカカシは険しい顔を崩さない。三代目がポン、とキセルの灰を落とした。

「そうか、おぬしの耳にも入ったか。相変わらず耳の早い奴じゃ。」

……へ?

「心配いたすな。ナルトに咎めはないわ。」

は?ナルト?何の事?

カカシは押し黙ったまま、しかし焦っていた。火影は何の話をしているのだ。だが、三代目はカカシに向かって眉を下げた。

「そう怒るな。案外、これがよい結果につながった。ナルトが無事に卒業できたのじゃからな。」

や、確かにオレ、ナルトの上忍師になるつもりだけど、ずっとあの子のことは気になってたけど、でも、何で今ナルト?

「イルカがよくやってくれた。」

………えっ

カカシは一瞬、真っ白になった。イルカ、今イルカといった?

「怪我も深手ではあったが、そう大事ないようじゃ。そろそろ退院できよう。」

えええっ。

カカシは天地がひっくり返るほどの衝撃を受けた。

イルカ先生が怪我ーーーっ。

何故イルカ先生が怪我、深手って、退院するって、じゃあイルカ先生は…

「そのうち引き合わすゆえ、色々と話をしてみるがよい。引き継ぎなども…まぁ、ナルトを含む七班がおぬしの試験に通ればの話じゃが、そうでなくともイルカはなかなか面白い男じゃ。階級は違えどよき友となれるのではないかとわしは思うておる。同世代との友人付き合いも人生には必要なことぞ。人生とはよき友を得、伴侶を得て…こりゃカカシ、どこへ行く。」

カカシは執務室を飛び出していた。

イルカ先生が怪我っ。

いてもたってもいられなかった。まだ話は終わっておらんぞ、と火影の声が追いかけてきたが、カカシは構わず木の葉病院に走った。







 

世渡り下手を十分自覚してます、写輪眼のカカシ。火影様、勘違いしっぱなし。