こんな恋のかたちもある

 

 




脇道を真っ直ぐに進むと、こんもりと樹木の茂ったところにぶつかった。中から子供達の声が聞こえる。どうやらアカデミーの裏庭に出たらしい。カカシはひょいと塀をのりこえ、中に入った。アカデミーの中を通り抜けた方が自宅に近い。早々にロボットを置いて第二陣の買い物に繰り出さねばならない。

ま、アカデミーだったら知り合いに見とがめられることないでしょ。

カカシは木々の間をくぐって走った。アカデミーに自分の知り合いが顔を出すことはほとんどないし、教師にみられても子供の姿のカカシを不審に思うことはないだろう。カカシの変化を見破れるのは、カカシと懇意にしている上忍達くらいなものだ。
裏庭を抜けると校舎をつなぐ渡り廊下だった。丁度昼の休み時間らしく、子供達が駆け回っている。

「俺、参上っ。」
「俺の必殺技っ。」

思わずカカシは足を止めた。8、9歳くらいの男子達がポーズをとっている。

電王ごっこ?

男の子達が叫んでいるのは、新しいライダーシリーズの決め文句だ。

「俺、参上っ。」

カカシはこの言葉を気に入っていた。思わずじっと子供達を眺める。

子供はいいねぇ…

できるものなら自分もまざって叫んでみたい。

「俺、参上…か。」

いくら特撮ファンだからといって、しかもたとえ今、子供の姿だからといって、流石にいい大人がごっこ遊びをするのははばかられた。しかも己は一応里の顔と言われる上忍である。

「バレたらヤバいだろーね。」

それこそ、カカシは戦闘生活しか知らないと思い込んでいる火影あたりがとんでもない勘違いをしそうである。一緒にまじって遊びたい誘惑にかられたが、カカシはぐっと踏みとどまった。
アカデミーのチャイムがなっている。あの子供達も教室に帰るだろう。今度単独任務の時、こっそり呟いてみようかな、などと思いつつきびすを返したときだ。いつまでも遊んでいる子供達に教師の雷が落ちた。

「こらぁ、お前達っ、いつまで遊んでいる。授業はじまるぞっ。」

え?

カカシは思わず振り返った。

今の声…

振り返った先には子供達がきゃあきゃあいいながら駆けていく姿があるだけだ。雷を落とした教師は建物の中へ入ってしまったのか。

モッモモタロスの声…?

カカシはその場を動くことが出来なかった。



☆☆☆☆☆



やっぱよく似てたよ、あの先生の声…


翌日、録画した電王を再度鑑賞しながら、カカシはぼぅっと思い出していた。子供達に雷を落としたあの教師の声は、まさにモモタロスだった。

どんな人なんだろ。

確かめたところでテレビのキャラクターとは関係ないのだから何をどうしようもないのだが、大好きなキャラに似た声の人が身近にいるというのはなんだかわくわくする。

見に行ってみようかな、どうせ飯食いに出かけるし…

思い立ったら矢も盾もたまらず、昼飯にはまだ早い時間だったが、カカシはアカデミーに向かって走っていた。





「あ、今日はアカデミー、お休みですよ。」
「えっ。」

閉まっている校門の前でうろうろしていたら、通用門から出てきた職員と思しき女性が声をかけてきた。

「でも今日は月曜日じゃ…」
「振替休日なんです。昨日、高学年の宿泊学習の関係で授業やりましたから、その代わりで。あの、失礼ですがはたけ上忍でいらっしゃいますよね。何かお急ぎでしたか?」
「や…特には…」

カカシは女性職員に礼をいうと、そそくさとその場を離れた。口布に斜めの額あてという出で立ちは、自分が思っていいる以上に知られているらしい。

あんまり特徴のある格好、するもんじゃないねぇ。

一人肩を竦めるカカシは、自分が里の内外にかかわらず有名人なのだという感覚がすっぽ抜けていた。目的のなくなったカカシは、ぶらぶらとアカデミー沿いに歩いていく。こんもりと樹木の茂ったアカデミーの敷地は、休みとあって静かだ。

「あ、いいこと考えちゃった。」

二月の半ばではあるが、今日は風もなく暖かい。食べ物を調達してこの中でピクニックと洒落込むのも一興だ。街中へ出て知り合いに会うのが面倒くさかった。

まぁ、モモタロス声の先生は明日探せばいいしね。

カカシは踵を返すとスーパー木の葉中央通り店を目指した。





スーパーで三色おにぎりセットとハムサンド、野菜ジュースを買ったカカシはアカデミーの塀をこえて裏庭に降りた。見ると灌木の茂みに囲まれて古びたベンチが置いてある。そこへ腰掛け、カカシはおにぎりの包みを開けた。
なんだかとても楽しい。空気は冷たいが澄んでいて気持ちよく、冬の陽射しが肌を柔らかく温めてくれる。こんなにのんびりと空を眺めるのは何年ぶりだろう。カカシはおかかおにぎりにかぶりついた。

旨い。
たとえスーパーのお惣菜売り場で買ったおにぎりでも、米の飯はなんて旨いのだろう。食事の時間といわれる時間帯にちゃんと形を持った食物をゆっくりと噛んで食べる、今、それが出来る自分は幸せだと思う。
過酷な任地で泥水を啜り、兵糧丸で命をつないできた。忍の、しかも暗部の定めとはいえ、温かい飯を口にすることなく敵刃に倒れた仲間達を思うと胸が締め付けられる。
特撮ビデオを解析した時に、カカシの頭を撫でて大変だったろうと言ってくれた先輩達ももういない。涙が滲みそうになってカカシは慌てて握り飯を口に押し込んだ。
二つ目の鮭おにぎりを手にした時だ。建物から出てくる人の気配がした。灌木の間からのぞくと、教師らしき忍が鞄をもって渡り廊下に出てきたところだった。まだ若い。年はカカシと同じくらいか。一つくくりにした黒髪が頭のてっぺんで揺れている。鼻の上に大きな傷があった。階級は中忍だろう、身のこなしは溌剌としていて隙がなく、バランスのとれたいい忍だ。

部下にしたらいい働きしそうな人だねぇ。

モモタロス声の教師を探そうと思っているせいか、なんとなくカカシはその若い教師を眺め続けた。気配を消したまま、鮭おにぎりの二口目を頬張ったときだ。若い教師がふと、口元に笑みを浮かべた。渡り廊下の隅から何かを拾い上げる。それは昨日、子供達が仮面ライダーごっこのとき、必殺技の剣にしていた棒切れだった。子供達の無邪気な姿を思って教師は微笑んでいるのだろう。棒切れを一本ずつ手に持つと、その若い教師はぶん、と振った。

「俺の必殺技。」

っっっっ!
カカシは目を見開く。

この声っ。

若い教師はきょろきょろと辺りをみまわすと、誰もいないと確認できたのか、今度はもっと勢いよく棒切れを構えて振った。

「俺の必殺技パート1っ。」

とぁっ、と教師は宙に飛んだ。くるっと一回転して着地する。

「俺、参上っ。」

バアン、とポーズが決まった、カカシの目の前で。
ぽろっと鮭おにぎりが手から転がり落ちた。灌木の茂みを越えて黒髪の教師が着地したのはカカシが座るベンチの真ん前、おにぎりを食べていたため口布を下ろしていたカカシはあんぐりと口を開けたまま目の前の男を見つめた。
若い教師はモモタロスポーズで固まっている。みるみる顔が茹で蛸のように赤くなった。

「しっしっ失礼いたしましたーーーーっ。」

がばぁ、と勢いよく頭を下げると若い教師はその場からダダッと走り去った。

「あっあのっ…」

声をかける間もなく、あっと言う間にいなくなる。カカシは呆然としたままその場から動けなかった。

「俺、参上って…」

なんだか頬が熱い。はたけカカシは恋に落ちた。


 

電王、モモタロスの声はもちろん、イルカ先生である関さん。や、電王みてない人にはさっぱりだってわかってんだけど、やらずにはいられなかったこのネタ、っつーか、これやりたくて書き始めたっつーか…電王終わって寂しいよぉぉぉ〜