「おじちゃん、ありがと。」
「おぅ、坊主、気をつけて帰れよ。」
里へ帰還して一週間、カカシは前シリーズの合体ロボットを抱えて玩具屋を出た。もちろん、子供に変化しての買い物である。自分の姿をベースにした十歳前後の子供の姿だ。この年齢設定が微妙で、幼すぎると『お母さんはどうした?」と聞かれるし、大きすぎると悪目立ちしてしまう。試行錯誤の末、十歳に見えるか見えないかがラインだと見切った。
里に帰還した日は終日、録画鑑賞に費やした。戦隊物はなかなかいいラストの盛り上がりを見せていて、カカシの身の内にはいまだ熱い感動のうねりがある。来週の最終回が楽しみだ。
前作ライダーシリーズは、まぁこんなものかな、くらいで、それよりもなによりも、リアルタイムで鑑賞した新ライダーシリーズに心奪われた。予告編をみるかぎり、戦隊物の新シリーズにはどうにもピンとくるものがない。それだけに仮面ライダー新シリーズには期待が膨らむ。
今朝、第二話を見たカカシは、すっかり赤鬼姿の『モモタロス』を気に入ってしまい、早速フィギュアを手にいれるべく買い物に出たのだ。ついでに玩具屋をチェックして、買い損ねていた合体ロボットを運良く見つけることができた。シリーズが終盤にさしかかると玩具屋は在庫処分をはじめてしまうので、この時期、買い損ねたおもちゃを手に入れるのは至難の業だ。カカシは上機嫌で木の葉の目抜き通りを走った。
いったんロボットを家において、昼食を取ってからまたおもちゃ探しに出かけよう、そう一日の計画を思い描きながら角を曲がったときだ。
「我がライヴァール、変化などして何をしておるのだーっ。」
熱い叫びとともにがしっと肩をつかまれた。
げっ。
振り向かずともわかる。自称、永遠のライヴァル、マイト・ガイだ。
「せっかく里に帰ってきたのだ、さぁカカシ、今日はどの勝負にするっ。」
カカシは顔をしかめた。やることがてんこ盛りで忙しいというのに、このガイという男、日がなカカシを追い回しては勝負を挑んでくる。
「あ〜、あのさ、ちょっとオレ、やることあって…」
「さぁ変化を解け、今日はオレが決める番だったな。」
「いやだからさ、ちょっと忙しいんだって…」
「百メートル走というのはどうだ。それとも障害物競争でも」
人の話聞けよ…
カカシは頭を抱えたくなった。レンジャーもの関係の在庫処分はこの一週間が勝負だというのに。ふと、目の端に木の葉の警邏隊をとらえた。この際だ、どうせガイ相手だしかまうものか。
「うわ〜〜〜〜ん、助けてぇぇぇっ。」
カカシはあらんかぎりの声で叫んだ。
「わ〜〜〜ん、怖いよぉぉ。」
「おっおい、カカシ。」
ぎょっとなったガイが両肩を掴んだのをこれ幸いとカカシは大声で泣きわめき始めた。
「助けてぇぇ、変なおじさんがぁぁっ。」
道行く人々の視線が集中する。警邏隊が駆け寄ってきた。
「おおおいっ、なっ何のつもり…」
「わぁぁぁん、おまわりさぁぁんっ」
ガイの手を振り切ると、カカシは警邏隊の一人にすがりついた。
「あの変なおじさんが僕のおもちゃ取り上げようとした〜〜っ。」
「何?」
警邏隊の目が鋭くガイを見る。ガイは慌てふためいた。
「いや、誤解だ。私はマイト・ガイ、別に怪しいものではない。」
「ガイ上忍でいらっしゃるということは承知しております。」
警邏隊の一人が厳しい声音で言った。
「困りますな。ガイ上忍、一般人、まして子供を怖がらせるなど。」
「ちっ違う、オレはけして子供を怖がらせたりなぞしておらんっ。」
「このおじさんが急に僕の肩を掴んでおもちゃ取ろうとしたんだーーっ。」
カカシはビッとガイを指差すと、つぶらな瞳で警邏隊を見上げた。
「怖かったよぉぉ。」
自分の幼い頃をベースにしているので、なかなかの美少年である。青い瞳で見上げられた警邏隊員達はますます険しい顔でガイにつめよった。
「少しお話を伺ってもよろしいでしょうか、マイト・ガイ上忍。」
「おい、気づかんのか、それはカカシだ、はたけカカシ…おいっ、カカシっ、悪ふざけもたいがいに…」
「はたけカカシ上忍とは、あそこで買い物をしていらっしゃるあの方のことで?」
通りの向かいに大人の姿のカカシが歩いている。もちろん、こっそり作った影分身だ。ガイは目を白黒させながら子供のカカシと通り向こうのカカシを交互に見比べた。
「カッカカシっ、お前ーーっ。」
んべ。
カカシはこっそりガイに向かって舌を出すと、警邏隊の側を離れるべく、声をあげた。
「あっ、ママだ。ママーっ。」
ダッとその場から駆け出す。
「ママー、ママー。」
後ろから坊や、と呼ぶ警邏隊員達の声がしたが、かまわず駆けて人混みに紛れた。ちら、と見ると盛んに抗議するガイを警邏隊が引っ張って詰め所へ向かっている。
「ざまみろ。」
もう一度カカシはベッ、と舌をだし、姿を見とがめられないよう道をそれた。
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