こんな恋のかたちもある

 

 




日の出とともにカカシは伝令の中忍二人を連れて出立した。
己のトップスピードについてこられるわけがないとわかっていても、心がはやる、ついスピードをあげてしまう。それに、最低明日の八時までには帰りたかった。ライダーシリーズは戦隊物よりも切り替わるのが早いのだ。明日が第一話、やはりリアルタイムで楽しみたい。
ガッと何かが躓く音がして、中忍の一人がバランスを崩した。咄嗟にその襟首を掴み体を支える。中忍二人はもう限界のようだった。本来なら上忍として、ここで休息をいれるなりすべきところだ。一瞬カカシは迷った。だが…

「悪いね。」

ぽつっと呟くように言うと、カカシは中忍二人を両肩に担ぎ上げる。それからトップスピードで走り始めた。心が軽いせいか、中忍二人の重さを感じない。すさまじい早さで木々の間を駆け抜け、里の大門に着いたのは朝の五時をすぎた頃だった。どさり、と二人を下ろすが、腰が抜けたのか、中忍二人はそのまま地面にへたりこんでしまった。

「ね、歩ける?」

カカシが問いかけると、怯えた目で中忍達は自分を見上げ、首を振った。カカシは肩をすくめた。

ちょっと気がせいちゃったねぇ。

もともと愛想のいい方ではない。戦場育ちで人とどうやってつきあえばいいのか、今ひとつわからないのだ。
暗部時代は似たり寄ったりの人間ばかりなうえ、カカシを可愛がってくれる先輩達といえばやはり同じようなタイプだったので、ある意味人付き合いの悩みはなかった。だが、上忍として様々な階級や一般人に接するとなると、暗部時代のようにはいかない。どうにもややこしくて、その辺りをほったらかしにしているうちに、よくて『クールで冷静』悪くて「冷たく人間味がない」そう評されるようになっていた。

今度は『思いやりがない」とかなんとかが付け加わるかもね。

覆面の下で苦笑いしつつ、カカシは中忍達に言った。

「報告はオレがやっておくから、アンタ達はもう帰っていいよ。」

無言で頷く中忍二人に背を向け、カカシは火影の屋敷へ向かって跳躍した。まだ眠っている時間だろうが、こっちにも都合がある。どうしても八時までには自宅へ帰りたいのだ。カカシの心はすでにテレビの前に飛んでいた。






 

「おぬし一人に苦労をかけた。すまなかったのぅ。」

眠っているところを叩き起こされたにもかかわらず、火影はしみじみとこれまでの労をねぎらってくれた。アカデミーの卒業試験が終わるまでゆっくり休んでいいらしい。なんだかこういうとき、喜怒哀楽をあんまり出さない性格が役に立つ。過酷な任務を渡り歩いて人としての楽しみを味わってこなかった可哀想なヤツだと思われているらしい。

「これからはおぬしのやりたいことを探すがよい。己の趣味を見つけ、よき伴侶を得る、そういう人生をおぬしにはおくってほしいのじゃ。」

三代目は目頭押さえた。

いやいやいや、趣味あるし、やることいーっぱいありすぎだから、伴侶までいらないし。

「よき伴侶については心配するでない。必ずわしが探してやろう。」

だからいらないって、忙しいんだから。

たまっている録画を全部みなきゃいけないし、子供に変化してラムネ菓子についているフィギュアもゲットしなければならない。
なんといっても、ラムネ菓子についているフィギュア、価格の割に出来がいいし、小さくて飾る場所もとらないすぐれものだ。シリーズが終了すると手に入らなくなるので、これは今日中に買いあさらないと間に合わない。

「カカシよ、朝食の用意をさせようから、しばらくここで休むがよい。」
「いえ、オレはこれで。」

だーかーらー、そんな時間ないってのっ。

カカシが黙って頭を下げると、三代目はまた目頭を押さえた。

「ここはおぬしの家でもある。遠慮せずまた参れ。」

もう一度礼をして退出するカカシの後ろで、三代目はまだ、不憫な子だの、四代目になんと詫びたらよいか、だのと涙ながらに語っていたが、七時半のヒーロータイムまでに家に帰りたいカカシの耳には全く聞こえていなかった。


 

カカシさん、表情乏しくても中身は熱い。ダッシュかまして家へ帰ったら、お菓子と飲み物を用意してテレビの前に陣取るはずです。え、いや、オレはそんなこたぁしてねぇよ、そんなほれ、コーヒーにキッツ◯ットなんて…おいしいよね、あれ。日本の駄菓子は世界最高レベルだぁよ(だから太る)