「カカシさん」
くぐもった声がした。イルカが強く顔を埋めてくる。
「うん?」
きつく抱きしめるとイルカの声が小さく聞こえた。
「オレの体、よかった…?」
まだ気にしているのだろうか。カカシはくす、と笑みをこぼした。みんなに愛されているイルカ、なのに全く自覚がない。恋人の地位だってカカシの方が並みいるライヴァルを蹴散らして勝ち取ったのに、この人はカカシに選ばれたと思い込んでいる。
「最高だった」
抱きしめたイルカの肩に口づける。
「センセは最高」
今度は首筋を吸った。きつく吸えばイルカがあっと声を上げる。
「キスマーク」
イルカが顔を離し上目遣いでカカシを見上げた。黒曜石の瞳は澄んでいてとても綺麗だ。
再びムラムラするのを堪えてカカシは穏やかにイルカを見つめた。
「オレの方こそ、下手じゃなかったですか?」
「まさか」
ふるふると首を振る。
「でも痛かったでしょ」
悪戯っぽく笑うとイルカはまっ赤になった。
「最初だけ…」
可愛い人だ。本当に可愛い。もう絶対誰にも触らせたくない。
「ね、センセ」
少し体をずらし、額と額をこつ、とあわせる。
「オレ達、一緒に暮らしましょう」
「え…」
「早すぎるなんて言わないで」
何か言おうとしたイルカの唇を人差し指で押さえた。
「あなたはとても素敵な人だから、焼き餅焼きなオレとしては腕の中に閉じ込めておきたい」
他の連中がちょっかいかけようなんて気をおこさないよう、世間に二人の仲を知らしめておかねば、そう決意するとともに頭が少し冷えるといつもの『写輪眼のカカシ節』が戻ってきた。
「結婚しましょう。もちろん、法律上は不可能ですけど、里の仲間にはオレ達が人生の伴侶なんだって宣言してもいいんじゃないですか?」
仲間じゃなくて『悪い虫』どもになんだけどね
心の中でライヴァルどもに悪態をつく。だがイルカには満点の笑顔を見せた。
「人生の伴侶…ですか」
イルカはパッと頬を染める。
「うっ嬉しいです」
っしゃーーーっ
イルカを抱き寄せながらカカシは心の中で勝利の雄叫びをあげていた。
はじめてのイルカに負担はかけられないと、鉄の意志でスケベ心を押さえ込み、二人で風呂を使った。恥ずかしがるイルカが艶かしくて何度も襲いかかりそうになったが、その度にガイの笑顔を思い出しではなんとか凌いだ。暑苦しい友人もたまには役に立つ。
後でアイツには礼を言っとこう…
イルカに隠れてこっそり鼻血を拭きながらカカシは己が訓練を積んだ上忍でよかったとしみじみ思った。鋼の自制心がなければイルカを滅茶苦茶に抱き潰していただろう。それで嫌われたら元も子もない。
風呂からあがり、イルカのプレゼントであるパジャマに袖を通した。着心地がいい。
「おっお似合いです」
パジャマを着たカカシを見てイルカは嬉しそうに頬を上気させた。そのイルカの着ているパジャマは淡い水色だ。
「あ」
カカシが色違いのお揃いだと気付くと耳まで赤くする。やることが可愛いなぁと鼻の下がますます伸びたのは言うまでもない。
二人でベッドに入り、カカシは後ろからイルカを抱きしめた。同じくらいの体つきなのに、すっぽりとカカシの腕の中におさまってくれる人が愛おしい。
「ねぇ、センセ」
イルカの黒髪に鼻を埋める。
「休みを調整して旅行に行きませんか?」
その匂いを堪能しながらカカシは言った。
「旅行ですか?」
「ん、新婚旅行」
ふふ、と微かにイルカが笑った。
「どこに行きます?」
「あのね、南の島」
イルカの耳に唇を寄せて悪戯する。
「オレね、依頼人から個人的に小さな島、貰ったのよ。二時間もあれば一周出来ちゃうような小さな島なんだけどね、いいとこだよ」
「凄いなぁ」
くすぐったそうに身を捩り、イルカがカカシの方へ体を向けた。
「南の小さな島なんて、オレ、行った事ないです」
キラキラした目で見上げてくる。
「うん、だから行こうよ。小さな島で二人っきり、楽しいよ。わき水わいてるから水場の心配ないし、フルーツの森もあるの。魚取ったりしてね、イルカが泳ぐのも見られるよ」
「イルカも、ですか?」
「そう、センセの名前と同じ生き物、綺麗だよ」
「凄い、行きたいです。そんなとこに行くの、オレ、生まれて初めてです」
「うん、絶対行こうね」
イルカを抱きしめ、カカシは心の中でガッツポーズだ。
木の葉の里の忍びは任務報酬以外に依頼人から個人的な報酬を受け取ることが出来る。もちろん、里に申告はしなければいけないが、個人の財産を里がどうこうすることはない。このため、忍びのやる気もあがれば秘密裏の取引で里を害する者も減った。稼ごうと思えば個人のがんばりでちゃんと稼げるからだ。
そして、任務達成率の高いカカシは依頼人に気に入られることが多く、単独任務の際、贈り物をされることが多かった。その小島も国境紛争を解決した時、南西諸島を治める王から礼にと贈られたものだ。島を貰ってもしょうがないと思っていたが、今になって口説きアイテムに使えようとは、プレゼントしてくれた王に感謝だ。
また任務依頼があったらサービスしてやろうっと
バカンスの計画をイルカとあれこれ話しながら、二人の初夜は更けていった。
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