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憧れの人
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「あ〜、もしも〜し、イルカせんせ〜、お元気ですか〜。」 「おぅ、何だ、どうした、オレはいつだって元気だぞぉっ。」 わはは、とイルカ先生は笑うが、すぐに、はぁ、とため息をついて物思いにふける。その尋常ならざる様子はアカデミーの職員室でも受付でも同じで、だが、誰も訳を聞かない。怖くて聞く勇気がないのだ。日頃、安定している人間が落ち込むと、異様な雰囲気が漂うのだと、周りの人々はしみじみと実感していた。 野菜室でマジパン細工を見つけてから、イルカの思考は堂々巡りを続けていた。 やはり、畑野カカシの正体は写輪眼のカカシなのか、いや、そんなはずはない、カカシさんは暗部の薬師のはずだ、あぁ、そうだ、きっとカカシさんは写輪眼のカカシと親しくて、あの任務の時にも一緒にいたのだけれど、立場が暗部なので写輪眼のカカシに伝言を頼んだのに違いない、だからオレの名前も知っていたし、冷蔵庫の中身まで… ぐるぐると同じ所ばかりを考えが回る。だが、イルカにはわかっていた。自分は真実を見たくないだけだ。畑野カカシに、ただのカカシでいて欲しいのだ。だから、畑野カカシが写輪眼のカカシではない、と無理矢理理由をつけ、一縷の希望にすがっている。イルカは混乱するばかりで、何故自分が真実から目を背けたいのか、その本当の理由まで思いいたらなかった。 「おーい、聞いたかーっ、つか聞け聞けっ。」 受付所に数名の中忍達が駆け込んできた。イルカの同僚や顔見知りも混じっている。丁度昼過ぎた頃で、受付所にいるのは職員達とわずかな忍達だけだ。駆け込んできた中忍達は、皆興奮気味だった。 「今さ、写輪眼のカカシが部下つれて戻ってきたんだけどさ。」 「なんつーか、すげぇの。はっきりはわからねぇけど、すげぇ術、国境にかけてきたんだって。」 「それがよ〜、いつの間に、っていうくらい手際よかったらしくって、後で知った水の国がえらく悔しがってたらしいぞ。」 「ホントすげぇよな。功績讃えて、火影様が大門まで迎えに出たんだと。」 「オレ、見ちゃったよ〜、火影様、なんか分厚いもん、写輪眼のカカシに手渡そうとしててさ、あれ、きっと特別報償みたいなもんだね。」 「でもさ、はたけ上忍、それを固辞してさ、なんかもう、人間がでけぇなぁ、なんて。」 「里の看板っていうより、もう生きた伝説じゃねぇ?あの人。」 口々に写輪眼のカカシの功績を褒め称える。ワイワイと職員達も混じってカカシ談義がはじまった。だが、イルカは黙ったままだ。仲のいい同僚がばん、と肩を叩いてきた。 「どーしたんだよ、イルカ。いつものお前なら真っ先に騒ぐじゃねぇか。」 それからこそっと耳打ちしてきた。 「オレら、こんなすごい任務の伝令、やっちまったんだなぁ。」 イルカの顔がくしゃり、と歪んだ。 「お…おい、イルカ?」 「…トイレだ。」 イルカは顔を伏せ、そのままトイレへ駆け込んだ。ばしゃばしゃと顔を洗う。 『生きた伝説じゃねぇ?あの人』 写輪眼のカカシは本当に凄い人、雲の上の、そのまた上の… 「カカシさん…違うよな、アンタ、写輪眼のカカシなんかじゃないよな…」 イルカはしばらくその場を動くことができなかった。 その日の受付は五時で上がりだった。イルカは自宅へそのまま帰る。買い物は昨日すませていた。カカシはまだ帰ってきていない。のろのろとイルカが台所にたち、飯を炊こうとした時だ。がらがらと玄関の引き戸が鳴った。 「たっだいま〜。」 どきっ、と心臓が跳ねた。居間へ足音が近づいてくる。 「ただいま〜イルカ先生。」 いつものアイボリーのセーターとコットンパンツ姿のカカシがひょこり、と入ってきた。 「今回、式を飛ばせなくてごめーんね。あ、飯の仕度?」 「お…おかえりなさい。」 なんとか声はだせたが、イルカは目を合わせられない。カカシはにこにこしながらイルカの隣に立った。 「手伝いますよ。まだ米、しかけてないんでしょ?」 「あ…」 体が強ばる。 「イルカ先生?」 「あの…お疲れでしょう?お茶、淹れますから座っててください。飯の仕度はそれからでも。」 「そだね。」 カカシは素直に居間へ戻る。イルカは薬缶を火にかけた。 「わー、まだクリスマスツリー、飾ってくれてたんだ。」 居間からカカシの嬉しそうな声がした。 「ナルト、どうでした?喜びました?」 「あ…えぇ、ツリーのお菓子が嬉しかったみたいで。」 「そっか〜、よかった。」 お湯はすぐ沸き、イルカは急須にお茶葉を入れる。 このまま、こうしていつものように… 「ねー先生、せっかくツリーあることだし、買いだし行きましょうよ。まだ時間、早いし、ケーキ屋、あいてるよね。」 「年末にクリスマスパーティですか?」 お湯をそそぐ手が震える。 「そーそー、シーズン終わったほうが値下がりするし。」 湯飲みを二つ持ち、イルカは居間へ入った。カカシはツリーの前に陣取ってあれこれ弄っている。イルカが入ってくると、にこり、と笑った。 「まだクリスマス用のナプキンとか残ってるでしょ?」 イルカはカカシを見ることができない。うつむき加減に湯飲みを渡す。 「そういえば、マジパンの飾り、どうでした?」 びくっ、とイルカの体が震えた。 「結構上手く出来てたでしょ。ナルト、食べてないよね。もう、極秘任務だから式飛ばせないってわかったときは焦りましたよ。」 もう、それ以上は… 「だから、伝令にイルカ先生が来てくれたときはホッとして。火影様への文ってね、アレ、ホントはたいしたこと、書いてなかったの。」 聞きたくない… 「カカシさん。」 「はい?」 「カカシさん…」 「はい、何?」 聞いちゃだめだ 「……写輪眼の…?」 「はい、どうしたの?イルカ先生。」 あぁ… 「えっ?イルカ先生?どうしたの?」 イルカは片手で顔を覆う。突然のことにカカシはおろおろとなった。 「具合、悪いんですか?どっか痛いとか?」 「は…はは…」 笑いがこみ上げてきた。カカシは写輪眼のカカシ、ずっと憧れてきた雲の上の人。 「ふはは…はは…」 「イルカ…先生…?」 視界がぼやける。自分は泣いているのか。カカシが写輪眼のカカシだと、本当はもうわかっていたはずなのに。 「ねぇ、先生、どうしたの、ねぇ。」 途方に暮れたカカシの声がする。そうだ、同じ人物なのだと思いたくなかった。写輪眼のカカシは本当に凄い人で、自分なんかが側にも寄れない伝説の忍で、でも、オレはカカシさんが、一緒に飯食ってくれるカカシさんのことが… 「帰ってくれ…」 「……え?」 「帰ってくれよ。」 「イルカせんせ…」 「帰れっ。」 ダン、と卓袱台が鳴った。湯飲みがひっくり返る。イルカは顔を覆ったまま動かない。どちらも押し黙ったまま重苦しい時間がすぎた。どれくらいたっただろう、実際にはほんの数分かもしれない。ことり、と音がした。 「あの…」 カカシがひっくり返った湯飲みを起こす。 「……今日は…帰ります…」 イルカは顔をあげない。衣擦れの音がして、カカシが立ち上がったのがわかった。 「でも…でも、せんせ、ちゃんと話…してください…」 カカシが居間を出ていく。胸が潰れそうだ。だが、イルカは動かない。ガラガラ、と玄関の引き戸が開き、そして閉められた。気配が遠ざかる。しん、と静寂が降りてきた。 「…カカシ…さん…」 イルカはもう、自分がどうしたいのか、どうすればいいのか、わからなかった。 |
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あちゃちゃ〜、こじれたよ…どうするカカシさん、訳がわからないまま放り出された哀れな男の運命やいかに〜〜、って、オレが言ってどうする |
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