憧れの人
 



「あ、カカシさん。」

夕食時、コツコツと窓を叩く白い小鳥、カカシの飛ばした式だ。急いでイルカが窓を開けると、小鳥はイルカの手の中で一片の紙に変わった。

『任務完了、明日の昼頃帰ります。買い物やっておくから。言い忘れてたけど、冷蔵庫の赤い蓋のタッパーに煮豆入れてたの。食べた?』

イルカが読み終わると、紙片はぽん、と煙をあげて消えた。

「任務中だってのに、煮豆はねぇだろ。」

困った人だなぁ、とイルカは苦笑を漏らす。正体がばれてから、カカシは任務のことを一切隠さなくなった。それどころか、任務中だというのに私的な式を寄越してくる。

いいのかよ、煮豆のことに式飛ばして…

だが、カカシからの式が届くたび、イルカはなんだかくすぐったい。二人きりの秘密事のようでどきどきする。まぁ、実際火影や里の上層部に知られたら大目玉くらうだろうが。

なんたって暗部の薬師、存在自体が機密なんだよなぁ、カカシさんって…

私服でいるときには一般人のふりをしろと厳命されたのだとか。だから最初、スーパーで会ったときは気配を変えていたのだと、カカシは平謝りに謝ってきた。

『そんなの、途中からカカシさん、ちゃんと気配やチャクラで忍なんだと教えてくれていたのに、気づかなかったオレ、恥ずかしいです。』

カカシの正体を知った日の夕食は、お互いの謝り合戦になった。いや、正確には、イルカがカカシのことを暗部の薬師だと思いこんだ日。
カカシは畑野カカシが実は写輪眼のカカシなのだと知ってもらえたつもりになっていたが、イルカは大きな勘違いをした。

そう、畑野カカシの正体は暗部の薬師だと。

『ほんっと、恥ずかしすぎですよ。カカシさんがこんな凄い方だって知ってたら、もうちょっと丁寧な態度とったのに。』
『そっそれ困りますっ、オレ、正体バレてイルカ先生に引かれたらどうしようって、もう、悩みまくったんだから。』
『そうだなぁ、オレ、中忍で部下だから、もっと尊敬するかなぁ。』
『ちょちょちょっとっ。』

本気で狼狽えるカカシにイルカは大笑いしたあと、どんなに凄い人でもオレにとってはカカシさんだから今までどおりに付き合ってくださいね、と本心から告げた。心底嬉しそうな顔をしたカカシにイルカも微笑む。なまじ二人とも、照れて固有名詞を使わなかったのがいけなかった。互いの勘違いに気づかないまま、話がつながってしまう。

そして、勘違いそのままに、師走の声を聞く頃となった。



「クリスマスイブ、ですか?」
「えぇ、カカシさん、任務入ってます?」

日曜日、朝食を終えのんびりとしているところだ。今日はアカデミーは休みだし、カカシにも任務はない。緑茶を淹れようと急須を手に取りながら、カカシが首を傾げた。

「あ〜、今のとこ何も入ってないですけど。」
「いや、たいしたことじゃないんですけどね。」

たいしたことはないと言いながら、イルカはしっかり期待を込めて説明をはじめる。

「ナルトを…え〜っと、オレの担任しているクラスの子なんですけど、その…毎年クリスマスイブだけはここに呼んで飯くわせてるんですよ。なんていうか、親のない子なもんで…」
「あぁ、あのナルトを。そういえばイルカ先生が担任だったんですね。」

カカシの反応には拒絶や嫌悪はない。そのことにイルカはホッと胸を撫で下ろした。九尾を封じられたナルトを嫌悪する里人は多い。悲しいことだが、しかたのない部分もあるとイルカは思う。だから、カカシの人となりはわかっていても、やはり不安だった。カカシはポットからお湯を注ぎながらうんうん、と頷いた。

「確かに、クリスマスイブに子供が独りぼっちっていうのはいただけませんね。」
「そうなんです、そうなんですよ。」

イルカはつい勢いづく。

「普段は贔屓になっちゃいけないって自重してるんですが、クリスマスくらいはって思いましてね。で、そのイブなんですけど…あ、ありがとうございます。」

目の前に湯飲み茶碗を置かれ、イルカはそれを手に取った。

「カカシさんの任務がなかったら、一緒にクリスマスパーティやりたいなぁって。」
「あ、いいですね、それ。」

カカシがパッと顔を輝かせた。
 

固有名詞をはぶいたばっかりに、勘違いのまま話つながる上忍と中忍…木の葉の里は大丈夫なのか、こいつらにまかせていて…