スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチがいけるんだぜ、

その一言でクラピカの機嫌はもとに戻った。丁度小腹も空いてきた。それを見越しての提案だった。


☆☆☆☆☆☆


そのカフェテラスは大学街から少し外れたところにあった。気軽な明るいカフェで、ガラス戸で周りを囲んだ楡の木の茂る中庭には白いテーブルが並べてある。レオリオはその一つに席をとると、ウェイターにチップを渡し何事か囁いた。クラピカは気持ちよさそうに楡の木を眺めている。風に木の葉がそよぐとクラピカの口元に笑みが浮かんだ。


こんどこそいける。


レオリオは確信した。下調べをしたかいがあったというものだ。

内心、ガッツポーズを決めているところに注文したものが運ばれてきた。アイスコーヒーにサーモンサンドのセットが二つ、テーブルにおかれる。そして、その脇の籠には赤いバラの花が一輪。

レオリオはそのバラを粋な手つきでとると、口元に持っていった。クラピカがはっとしてレオリオの方を見た。レオリオはふっと微笑む。大きな瞳がじっとレオリオを見つめた。

「いつも赤いバラで代わり映えしないと思うか?クラピカ。」

レオリオは低く甘く囁きかける。

「これはおれの心臓。お前に焦がれて熱く沸き立つおれの血潮だ。」

花びらに口付けると、それをクラピカのアイスコーヒーのグラスにすっとさしいれた。

「愛の歓喜をおれに。」


クラピカの目が見開かれる。可愛い唇が微かに開いた。


「罪作りな唇だよ、クラピカ。風にばらの花びらが散るように、その唇からもれるかぐわしい吐息でおれの心は千々に乱れる。ああ、愛らしいその蕾を独り占めできるならば、おれは全てをなげうとう。」
「レ…レオリオ…」


よっしゃあっ。


レオリオは手ごたえを確信した。あと一押し。


「お前の虜となったこの男は、ただひたすら赤いバラを贈り続けるしか熱情をあらわせない愚か者だ。」
「レオリオ…」
「哀れな愛の奴隷の…」
「レオリオ、あれ、あれ、見ろ。」


大きな目を更に見開き、クラピカが身を乗り出した。

「あれだ、レオリオ。あれ。」
「………へ?」

視線はレオリオを素通りして、その後ろを見つめている。レオリオは斜に後ろを伺い見た。

「すごい。すごいパフェだ。」

クラピカの目が輝いている。

レオリオの後ろのテーブルには家族連れが座っており、小さな子供達の頼んだパフェが運ばれてきていた。大きなグラスにバニラとチョコのアイスクリームが詰め込んであり、バナナ、オレンジ、サクランボ、とりどりのフルーツが上を飾っている。山になったアイスにはとろりとしたチョコソースがかけられていた。アイスクリームの上には三角に切った大きな薄いチョコレートがあちこちつきだしている。圧巻なのは、その三角の板チョコが綿菓子の帽子をふわりとかぶっているのだ。家族連れは皆でそれをつついていた。

クラピカがほぅっとため息をついた。

「あんな大きなパフェは見たことがない。それに、本当においしそうだ…」

うっとりとパフェを食べる家族を眺めている。

「…ク…クラピカ…お前、さっきから、パフェ見てたのか?」

クラピカは大きな目を見開いて、パフェを見つめていたのだった。レオリオは力が抜けた。ずるずると椅子の背にもたれかかる。さすがに一人で食べるには大きすぎると思ったのか、クラピカは一生懸命レオリオを掻き口説きはじめた。

「レオリオ、あれ食べないか。かなり大きいが一緒に食べればあれくらい大丈夫だろう?」

目が真剣だ。

「いや、お前が甘いものが苦手なのは知っている。だが、あのパフェは試す価値がありそうだぞ。そう思わないか?お前が三分の一、いや、四分の一手伝ってくれたら後は私一人でも食べられるから、だから、レオリオ、その…」

やっぱり甘いのは嫌か?不安そうな目をする。

レオリオは頭を抱えた。

山奥育ちのクラピカは長じるまで素朴な菓子以外食べたことがない。それで、洒落た菓子や綺麗に飾り付けたパフェはかなりのカルチャーショックだったのだ。もともと甘いものが好きな質である。ただ、今の仕事柄、そうそうケーキだのパフェだの食べていられない。その反動で、クラピカはレオリオと会う時にはやたらと甘いものを食べたがる。そのことはレオリオも重々承知していた。


それにしたってパフェ一つにこいつはなんで切ない目をしやがるんだ。ああ、雇い主とやらにこいつの今のこの姿、見せてやりてぇ。そしたら依頼なんて全くなくなっちまうのに…


ため息一つつくと、レオリオは顔をあげた。

「…食いたいんだろ?」

クラピカがわずかに頬を赤らめた。

「…ああ。」

しかたなくレオリオはウェイターを呼んでパフェを頼んだ。安心したクラピカの目がやっとテーブルにいった。

「これがお薦めのサーモンサンドか。レオリオ、私のコーヒーにだけバラが入っているぞ。同じものではなかったのか?」


こいつ、おれの口説き、やっぱり聞いてねぇ…


改めてレオリオはがっくりと肩を落とした。つくづく、後ろに家族連れがいた不運を呪う。呑気な顔でクラピカはサーモンサンドにかぶりついた。そして、バラの花は、飲む時に邪魔だという理由で皿の脇にどけられてしまった。



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あと1ファイルっつったのは誰だよっ、って、オレだよ。ははは、おわんなかったですね、また短いですねっ。ホントにホント、あと1ファイルデお終いです。次、砂はきます。皆様、洗面器の御用意はよろしいかっ?はい、いってよしっ(謎)