ピカデレラ......その7
ピカデレラを胸に抱き、レオリオ王子は白馬を駆ります。家臣団が必死で後を追っています。
「きっ今日の王子はとばしますな。」
ハンゾーが息をきらしてサトツに嘆きました。
「娘御によいところをみせねばなりませんから。私はちょっと先に城へ知らせてまいりましょう。」
ハンゾーさん、修行が足りませんよ、と汗だくのハンゾーにサトツは涼しい目をむけ、馬を脇道にいれるとあっというまに駆け去りました。
ピカデレラは王子の胸の中でどぎまぎしていました。片手で自分を抱え、馬を操る王子がいかにもたのもしく、上目遣いにみるもみあげはまことに美しく感じられました。
け…けっこうかっこいいではないか…
ピカデレラは頬が熱くなるのをどうすることもできないのでした。
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城では上を下への大騒ぎになっておりました。政治嫌いのレオリオ王子が身を固めるというのです。王も御后も王子の気の変わらぬうちにと、一行が城へ着くやいなや結婚式の支度にかからせます。
柱の影から、そんなピカデレラ達をこっそりうかがう人影が二つありました。
「きれいな人だねぇ、キルア。」
「あのスケベ。だてにエロ本みてたわけじゃねぇんだな。結構選択眼高いじゃん。」
感心したようにキルア姫が腕組みしました。
「しっかしなぁ、人間わかんねぇもんだなあ、ノンケでグラマー好みのレオリオがなぁ。」
「?なに?キルア?」
うんうんと、一人うなずくキルア姫をゴン王子がつつきますが、キルア姫はにやにや笑うばかりでした。
☆☆☆☆☆☆
レオリオ王子とピカデレラの結婚式が盛大に行われました。
銀糸と真珠で彩られた白い花嫁衣装に身を包んだピカデレラは華やかな中にも清楚さを漂わせて、その美しさに皆感歎の声をあげました。白百合をあしらったレースのベールから金髪が透ける様は、その身が淡い金色の光を戴いているように見えました。隣でピカデレラの手をとるレオリオ王子もまた、白絹に銀糸をあしらった婚礼服で、いつもにまして黒いもみあげも美しく、凛々しい姿でありました。
レオリオ殿下、万歳、ピカデレラ様、万歳、
人々は口々に祝いの言葉を口にしました。ピカデレラの住んでいた屋敷から、吠え声のようなものがあがりましたが、これは皆無視いたしました。
めでたく式も終わり、レオリオ王子とピカデレラは新しい夫婦の寝室で初夜をむかえる運びとなりました。白い夜着に着替えたレオリオ王子を女官長のセンリツが呼びに参りました。
「妃殿下のお支度が整いましてございます。」
「ああ、すまねぇな。」
レオリオ王子は振り向くと女官長に笑いかけました。
「なるだけあいつに余計な気を使わせたくねぇんだ。おめぇになら安心して任せられるしな、まぁ、これからもよろしく頼む。」
「あら、光栄ね。王子様の信用篤くて恐れ多いわ。」
センリツの顔から堅苦しい女官の顔が消えました。変わりに親しみのこもった笑みが浮かびます。
「あのなぁ〜。」
「はいはい、小さい頃から培った信用だって喜んでるのよ。大丈夫。確かな者しかお側におかないから。」
だってね、とセンリツは嬉しそうに目を細めました。
「ホントに素敵な方よ。容姿だけではなくなによりも心が。とても綺麗な心音を奏でるの。あなたは素晴らしい人を選んだわ。もったいないくらい。」
へへ、と照れるレオリオ王子にセンリツはクスクス、なにか思い出したように笑いました。
「昔ッからあなたの女の趣味ときたら、ボン、キュ、バーンな女ばっかりで。」
レオリオが渋い顔をしましたが、センリツはおかまいなしです。
「空っぽな心音の御妃様連れてきたらどうしようって心配していたの。ハンゾーは頼りにならないし、幼馴染みのそなたから何か言うてやってくれって、両陛下がそりゃあ気を揉んでいらしたわ。そりゃあねぇ、引っ掛かる女があれじゃあ誰だって…」
レオリオ王子は慌てました。
「おっおい、余計なことあいつに言ってねぇだろうな。本気で惚れたのはあいつだけで…」
ぷっとセンリツは吹き出しました。レオリオ王子は冷や汗をかいています。
「どうかしら。あなたが王子としての責務を忘れない限りは大丈夫でしょうね。」
センリツはまたふふっと笑うと女官の顔に戻り、レオリオ王子を急き立てました。
「殿下。新妻をお待たせするものではありません。」
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王子は寝室へ向かいました。
新妻かぁ…
頬が自然と緩みます。
初夜だよ…
「やべ、どきどきしてきた…」
熱くなった顔を一たたきすると、レオリオ王子は寝室のドアをノックしました。