桜旅情・後編
ちょろちょろと岩の間から湯の落ちる音がする。そより、と吹く風に桜が散った。
「…ん…」
鼻にかかったような息をクラピカがもらす。深くからめた舌を互いに吸いあうとくちゅりと鳴った。レオリオはふっくらとしたクラピカの下唇を甘噛みしてから解放し、猪口の酒を口に含んだ。
「はっ…」
激しい口付けに息を切らすクラピカの首の後ろを再び抱え、酒を口移しに飲ませる。
飲みきれず唇の端からつっとこぼれた酒をレオリオは舌で舐めとった。そのまま首筋に舌を這わせ、胸元に手を伸ばす。突起を指でつまむとびくりとクラピカが震えた。
「…こ…こんなところ…で…」
クラピカはレオリオの肩を押そうとするが、力が入らない。かえってすがりつくような格好になってしまったクラピカを膝にのせ、レオリオは胸の飾りを口に含んだ。ぺちょぺちょとわざと音をたてて乳首を吸う。
「あっ…や…やだ…」
吸われる度にクラピカの体は跳ねる。歯で刺激しては周りを舌で舐りまたきつく吸う。はらり、と桜の花びらがクラピカの肌に舞い落ちてきた。白い首筋に、華奢な肩に、鎖骨に、花びらが薄紅色を散らす。
「…綺麗だ…」
レオリオは花びらの上から肌を吸った。クラピカにレオリオの花びらが散る。レオリオはうっとりとそれを眺めた。
「もっと…な…」
興奮で声が掠れる。レオリオはクラピカをぐいっと抱き上げると、湯ぶねの真ん中にすえられた大きな石に座らせた。足首を掴み、大きく脚を開かせる。
湯と酒のせいか全身がほんのりと色付き、庭の灯りに淡く浮かび上がるクラピカの裸体は壮絶な色香を放っていた。
「嫌だ…レオリ…」
恥ずかしい格好にクラピカは頬を染める。しかし、その瞳は緋色に変わり、情欲に濡れていた。ごくりとレオリオの喉がなった。
「あっ。」
内股の柔らかいところに歯をたてられ、クラピカが小さく悲鳴を上げた。レオリオは夢中になって柔らかい肌を貪る。押し返そうと伸ばされたクラピカの手は、いつしか黒髪を抱き寄せていた。
艶のある喘ぎが洩れはじめる。内股に赤く刻印を刻みながらレオリオは手を後ろにまわした。腰をなでさすりながら、前も後ろも、わざと敏感な所に触れないようにする。両足を開いたまま、クラピカは焦れたように身を捩った。
「ん?どうした。」
足の間から上目遣いにクラピカを見ると、潤んだ紅の瞳が揺れる。
「…やだ…そこばっかり…」
「そこってどこだ…」
足の付け根に軽く歯をあて、レオリオは意地悪く聞いた。
「…だ…だから…」
もじもじとクラピカの腰が動く。
「どうして欲しいんだ、クラピカ…」
つっと背筋をなぞると、びくんとしなった。
「言ってくれ…なぁ…クラピカ…」
そうしたらオレはなんだってしてやる、お前のために…
レオリオの低い囁き声にクラピカは意識が霞んだ。体の芯をとろかすような声…
「舐めて…くれ…私の…を…」
言い終わるか終わらないうちに、クラピカ自身をレオリオが口に含む。その熱さにクラピカは我を忘れた。
レオリオは喉の奥まで銜えこんだかとおもうと、じゅるり、と音をたてて舐め上げてくる。先端の割れ目を舌で突ついては滲み出てきたものをぺろりと舐め取りまた口に含んできつく吸った。
「っ…イイ…」
クラピカはレオリオの髪に指を差し入れ腰を押し付け、身も世もなく喘いだ。首を振る度にぱさぱさ揺れる金の髪に薄紅色の花びらがからまっている。
「あぁ…あっ…も…う…」
限界が近いのか、大きく開かされた足先がびくびくと跳ねた。レオリオは口に含んだまま抜き差しする速度をあげた。
「ひっ…あああっ…」
悲鳴に近い嬌声が上がる。
「も…だめ、レオリオっ…」
クラピカの体が大きく震え、欲望がはじけた。ごくり、とレオリオはそれを飲み干す。クラピカのものだと思ったら1滴もこぼしたくない。
レオリオが股間から顔をあげると、息をはずませた恋人が欲に濡れた瞳で見下ろしていた。まだ足りない、緋色の目がそう言っている。桜色の唇の隙間から、赤い舌がちろりと覗いた。
「クラピカ…」
いい加減、レオリオも限界だった。腰掛けた大石に今度はつかまらせ、クラピカを立ったまま後ろ向きにする。太ももまで湯に入ったクラピカの片足を自分の肩にかけ、レオリオは両手で尻を割った。奥ではひくひくとクラピカの秘所が桃色に息づいている。ぺとり、と襞に舌をあてた。
「あっ…」
クラピカの背がしなった。レオリオは唾液をふくませながら襞を舌で押し広げる。ぺちゃぺちゃと水音がするほどそこを濡らしたレオリオはぐいっと襞の奥に舌を差し込んだ。
「…ふ…ぅん…」
クラピカがくぐもった声をもらした。指をいれると、久しぶりだというのにすんなりそこは飲み込んだ。レオリオは摩るように中をかきまわす。クラピカのいいところは熟知している。迷わずレオリオはそこを刺激した。
「気持ちいいだろ…クラピカ…」
指を増やしてぐちゃぐちゃと抜き差しする。クラピカの媚態にレオリオの息も上がった。
「あっ…は…っ…あぁ…」
立っていられなくなったのか、がくがくとクラピカの膝が揺れる。
「レ…オリ…オ…」
朦朧とした表情でクラピカが振り向いた。
「は…やく…」
「何がほしい…どうして欲しいんだ?」
レオリオが指を抜くとクラピカが小さく声を上げた。
「やだ、レオリオ…」
「指じゃイヤか、じゃあ何がいいんだ…」
レオリオはクラピカを湯に入れて膝上に抱き寄せた。興奮で二人とも荒い息をついている。
「何が欲しい…クラピカ…」
「お前の…」
「おれの?」
限界まで張りつめたレオリオのモノがクラピカの腹をこすった。紅い宝石のような瞳に炎がともった。
「入れて、レオリオ、私の中へ…早く…」
レオリオはクラピカの腰をあげ自分のモノの上に一気に降ろした。大きくそそり立ったレオリオがクラピカの奥まで突き通る。
「あああっ。」
悲鳴を上げたクラピカを抱きしめてレオリオは激しく突き上げた。揺すぶられながらクラピカは引っ切りなしに嬌声をあげる。
「ああ…熱い…」
レオリオは呻いた。クラピカの内壁が絡み付いてくる。
熱くて熱くて、揺れる二人の体の中までお湯が纏わりつくような感触、体の芯がどろどろに溶けていきそうだ。
「熱い…レオリオ…」
クラピカが頬を紅潮させて呟いた。レオリオの顔も体も火照っている。
「…熱い…」
目眩がする。ぐらぐらと世界がゆれる。舞い散る桜が渦をまいたように見える。
「………熱…」
体が動かない。手足が鉛のようだ。目も霞みはじめた。流石に二人とも、セックスしている場合じゃないと悟った。
やばい、このままではヤりながら温泉で溺死じゃねーかっ。
しかし、体が動かせない。目がまわる。吐き気までする。
「レ…レオリオ…湯から出ないと…」
「…くっ」
渾身の力をこめて、レオリオはクラピカを膝に抱えたまま露天風呂のふちに向かって移動をはじめた。
動け、おれの身体。このままじゃマジに死ぬ。
おれ達が死んだらゴンやキルアが悲しむだろう。その死を悲しむのか、死に方を悲しむのか、おそらくは後者だろうが意識朦朧としたレオリオにはそこまで考える余裕はない。繋がったまま二人はじりじりと露天風呂の縁に身体をよせた。
「レオリオ…もう…」
「がっがんばれ、クラピカっ」
「私を置いてお前だけでも…」
「だめだ、死ぬ時はいっしょだろうっ。」
というような事をいいたかったのだが、「がっ」とか「おっ」とかワケのわからない擬音しか出てこない。
妙な音を発しながら繋がりあった二人はやっとのことで風呂から這い出た。それと同時にすっかり縮んだレオリオ自身がずるりとクラピカから抜ける。
真っ赤な顔で這いつくばったまま二人はふぅふぅ息をついた。生暖かい春の風が今は恨めしい。ちっとも身体が冷えてくれない。水が欲しいが部屋はまだまだこの先だ。
恋人達は力を振り絞って今度は濡れ縁目指して這い進んだ。飛び石五つの距離が永遠にかんじられる。目が霞む。景色がまわる。桜吹雪が渦を巻く。
やっと縁の下まで辿り着いたときには、二人とも息たえだえの状態だった。 しかし、部屋へ入るには更に濡れ縁に這い上がらねばならない。断がい絶壁のようなその高さ。
濡れ縁の下の石に手をかけたレオリオの意識はそこでとぎれた。
彼が最期に見たものは、濡れ縁を這い上がって行くいとしい恋人のかわいいお尻だった。
はらはらと桜吹雪が舞っている。
石に手をかけたまま、全裸で力尽きた男の背中に尻に、薄紅色のはなびらが音もなく降り積もっていた。
*****
チチチッ、と鳥のさえずりが聞こえる。耳や目元に温かい息遣いがかかった。
クラピカ…?
少しずつ意識が浮上してくる。
え…っと、おれは…
ぺろぺろと頬を舐められ、レオリオはへらっと口元をゆるませた。
おいおい、朝っぱらから大胆じゃねぇか。
柔らかい舌が頬を、口元を舐めてくる。
「ん…クラピカ…」
レオリオは朝から濃厚な悪戯を仕掛けてくる恋人に手をのばした。さらさらの金髪に指をからめて…
………ざらざら…?
なんだか短くてざらざらした手触り。
…?
丸まっちくて弾力がある。耳元でそれは荒い息を吐いた。
ぶこぶこっ?ぶこぶこって…
「ぎょええええええっ。」
早朝のさわやかな空をレオリオの悲鳴が切り裂いた。からり、と部屋の開き戸があけられる。
「あ、瓜坊だ。二頭もいる。」
ひょいと顔を出したクラピカが嬉しそうな声を上げた。
「うっうっうりぼうって…」
身をおこしたレオリオの上から、薄紅色の花びらがさらさらと地面に落ちた。
「あ、レオリオ、おはよう。」
「おは…」
にこっと微笑まれ思わずレオリオも挨拶を返しそうになったが、ハタと今の状況に考えいたる。
「じゃねぇっ、何でお前は部屋にいるんだーーっ。」
「自分で部屋に入ったからだが?」
「じゃなくってーーーっ。」
叫ぶレオリオの上からちらちらと花びらが舞い散る。クラピカは目を丸くしてそれを眺めた。
「うーん、見事だ。一晩で随分な量、積もるものだな。」
「だから、そーじゃなくってだなぁっ。」
レオリオの怒鳴り声に瓜坊達がぶぎーっ、と声を上げて逃げ去った。
「ああ、お前がそんな声を出すから、逃げたではないか。」
「お前っ、瓜坊とおれとどっちが大事だっ。」
「あ、猪。」
白壁の脇から続く竹林から、がさり、と音をたてて猪があらわれた。
「あの瓜坊の母親じゃないのか?」
「ぎゃああああああっ。」
レオリオは命からがら、部屋の中へ這い上がった。
*****
浴衣に羽織をはおってクラピカはお茶をついだ。やはり浴衣をはおったレオリオはぐったり畳に伸びている。
「ほら、お茶だ。もうすぐ朝食が来るぞ。」
恨めしげにレオリオはクラピカを見上げた。
「で、おめぇはしっかり水飲んで布団に入って寝たってわけなんだな。」
「そう怒るな。私も限界だったのだ。」
結局、飲んだ酒の量も少なく、湯の中に入っていた時間も短かったため、クラピカのほうが余力があった。なんとか部屋に這い上がり水を飲んで一息ついたが、レオリオを引っ張りあげるだけの力は残っていない。
まぁ、暖かいし、大丈夫だろう。
そう判断してクラピカは布団にもぐりこんだ。そして、レオリオの悲鳴が聞こえるまでぐっすり眠っていたのだ。
「おれが脱水で死んだらどーするんだ。」
「そこまでヤワな男ではなかろう?」
これって信頼なのか、信頼の一種なのか…
がっくりとレオリオは脱力した。
夢にまでみた温泉エッチ…
現実は厳しかった。
だいたい、普通の風呂よりも身体が温まる温泉につかりながら、セックスなんて激しいことが出来るわけないのだ。しかも酒まで飲んでは湯あたりするに決まっている。お互い湯あたりした状態でたとえ最期までヤれたとしても、気持ちいいわけがない。
『お風呂に入っていたら、思い出して疼いちゃって…』
んなことあるわけねーんだよっ、
いらん期待もたせやがって…レオリオは心底、愛読書を呪った。
バラ色の夢をふくらませ、あげくすっぽんぽんのまま倒れる羽目になり、おはようのキスは瓜坊だ。こんなことなら夕食後に浴衣プレイに持ち込んだ方がどれほど幸せだっただろう。
レオリオは心の中で滂沱の涙を零した。指を動かすのも億劫なこの体、今夜も役に立ちそうにない。愛撫で一度イッたクラピカはもうすっきりした顔をしている。
本のうそつき…
こうなったらリベンジだ。温泉エッチは不可能でも、シチュエーションはまだまだある。不可能を可能にする男、それがこのレオリオ様だ。
これほどひどい目にあったというのに、あの本を捨てるという選択肢はレオリオの中に微塵もなかった。
次は絶対帯独楽プレイだ。
畳に沈んだまま固く誓う男の上に、風にのった花びらがはらりと落ちた。
今日もよい桜日和である。
**********
………どこがしっぽり、どこが風情…一応、「おとな」なシーン、あったってことで…オケ?(うっ、視線が刺さる…)次は帯ゴマプレイだなっ(まだやる気か…)