「いい加減にしてよねーーーっ。」

ぶん、と円座が宙を飛ぶ。それを国光はなんなく受けた。

「毎日毎日、うっとーしーったらっ。」

軟禁状態になって四日目の朝だ。

「黙−ったまま一日中張り付いてさ、なんだよ、監視するならもっと賢くやればっ?」
「監視とは心外だ。」

国光は表情一つ変えず、受け止めた円座を脇に置く。

「当主みずからが御渡り様をお守り申し上げているだけだ。」
「なっ…」

しゃあしゃあと嘯く国光に、不二はいよいよ激昂した。

「根暗っ、変態っ。」

脇息が飛んだ。国光は片手で払う。板戸にぶつかった脇息はがたん、と派手な音を立てた。

「出てけっバカっ。」

国光はじっと不二を見たまま平然としている。

「君の顔なんか見たくもないよっ、出てけっ。」

国光は動かない。不二は爆発した。

「嫌いなヤツと一緒の部屋にいたくないんだよっ、出てい…」

最後まで言えずに不二は息を飲んだ。すさまじい殺気が国光から迸ったのだ。眼光で金縛りにされたように不二は動けない。

「不二は…」

国光の声が低く響いた。怒りを押し殺した声だ。

「不二はおれが嫌いか。」

不二は声が出なかった。全身が竦む。

「手塚ならば不二は…」

ぐっと国光の拳が握られた。

「不二は…」
「…あ…」

ふいっと殺気が霧散した。国光が不二から目をそらす。そして踵を返すと戸口から出て行った。不二は国光の消えた戸口を眺め突っ立ったままだ。部屋の中がシン、となる。張り詰めた糸が切れたように、不二はへなへなと座り込んだ。体から力が抜けていく。

「国光…」

怒っていた。国光がキスしてきた時も炎のような怒りを感じたが、今日感じたのは冷たい怒りだ。まるで冷水を浴びせられたような気がした。

嫌いだ、なんて言ったから…?

国光が自分を求めているのは知っている。それを承知でひどいことを言った。

「でも、国光が悪いんじゃないか…」

ぽつっと不二は、誰に言うともなく呟く。

国光が悪いんだ。こんなところに閉じ込めて、一日中張り付いて監視して、だからこの二日、一度も元の世界に帰れなかったんだ。

そのことを考えると、不二の胸は不安で押しつぶされそうになる。国光に閉じ込められることになった朝以来、翌日も翌々日も不二に変化は訪れなかった。今日変化がなかったら、三日連続帰れないことになる。直衣を着せられたからダメなのかと思って、昨日からジャージを着たままだが、何かがおこる兆しはまったくない。第一、はじめて元の世界に帰ったときは、不二は黄色地の直垂を着ていた。服は関係ないとわかってはいるのだ。

このまま鎌倉時代に取り残される?

ぶるっと不二は体を震わせた。

大丈夫、まだ大丈夫…

不二はポケットの携帯を握り締める。携帯の日付は不二が鎌倉時代にやってきた、三月二十九日、午前十時から動いていない。バッテリーもフルのままだ。

きっと帰れる。

携帯が元の世界と繋がっているかぎり、自分は必ず帰れるのだ、不二は不安を払うように携帯を胸にあてた。

帰るんだ…









くらり、と床が歪んだ。独特の浮遊感。白い閃光。

不二はほっと安堵しながら目を閉じる。


ああ、今度こそ…


☆☆☆☆☆☆☆
まだ揉めてます。最近、細切れアップだなぁ…忙しいんだよ、ちょっと(くすん)