カカたんの熱い夜2
 
 
 

 

どさどさどさ

「わーーーーっ。」

雪崩おちてきたのは、オレが押し込んでいたカカたんベッドカバーとクッション。ただでさえ一杯の押し入れに慌てて詰め込んだのが悪かった。最後に突っ込んだベッドカバーとクッションが致命的っていうか、閉め切れなかった襖をじわじわ圧迫してついに限界を突破したのだ。そのカバーとクッションの上に今度は大小様々なカカたんグッズが転がり落ちて来る。

「ぎゃ〜〜〜っ。」

あわあわと両腕を振り回すがなんの足しにもならない。カカたん達はクッションの上でバウンドしてコロコロ目の前に転がってきた。

「わーっわーっわーっ。」

あっちにもカカたん、こっちにもカカたん、カカシさんがぽかんとした顔でそれを見ている。
オレは泣きたくなった。せっかく両想いになれたのに、これで失恋決定だ。だってこんなカカたんだらけなんて、今、カカシさん、絶対引いてる。コイツ変態、とか思ってる。転がってきたカカたんを体で覆い隠しながら、数が多いから無駄なんだけれど、それでもカカたん達を抱きしめてオレは俯いた。

あ、どうしよう。マジで涙出てきた。一度夢みちまったから立ち直れねぇ。

膝元に転がるカカたんぬいぐるみがじわりと滲んだ。だめだ、泣いちまったらますます引かれる。いい年した男がぬいぐるみやフィギュア集めているだけでなく、ベソかくなんてみっともねぇ。だけど一度壊れた涙腺は全然言う事をきいてくれなくて唇を噛み締めた、その時だ。もふっと柔らかい物が頭を叩いた。

もふもふもふ

柔らかい物はオレの頭の上に居座っている。おそるおそる目をあげると、カカシさんの笑顔があった。カカたんのぬいぐるみ、オレがいつも膝にのせている奴を手にもってオレの頭をもふもふしている。

「イルたん、泣いちゃダメダメ。」

ぬいぐるみがそう言った。じゃなくて、カカシさんだ。ちょっとトーンを高くした作り声を出してぬいぐるみを小さく振る。

「カカたんの仲間がいっぱいで嬉しい。」

え?

引いてないのかな。オレのこと、気持ち悪いとか思ってない?カカシさんはにこにこしている。

「あの…」
「なぁに?イルたん。」

ぬいぐるみが答える。

「あの、オレのこと…」

うんうん、とぬいぐるみが縦に振られる。

「オレのこと、変、とか思いませんか…?」
「なぁぜ?」
「だって…」

オレはおずおずと体を起こした。

「イイ年した男がぬいぐるみとかフィギュアとか集めてて…」
「だって、オレのこと、好きでいてくれたからなんでしょう?」

今度は低く優しい声だ。カカシさんの手がオレの頬を撫でる。

「泣かないで。オレはすごく嬉しいんだから。」

溢れた涙を拭ってくれる。

「こんなに想われてたのかって、嬉しくてどきどきする。」

嫌わない?オレのこと、嫌いにならない?
オレはたぶん縋るような目をしちまったのかもしれない。ふっとカカシさんの目の色が変わった。なんつーか、すごく優しい目から獰猛な獣みたいな目に。

ふわ、と体が浮いたな、って思ったらオレはベッドの上で、それから先はよく覚えていない。オレの中を嵐が吹き荒れたみたいな、体中撫でられ吸われ、人様に晒せるような場所じゃないところを舐められ吸い上げられ出たモノを飲み込まれ、その奥にあるそれこそ普通は己の手しか触らないところをほぐされ舐められ吸われ、怖いやら気持ちいいやら恥ずかしいやらでオレの頭は真っ白だ。
わけがわからなくてひぃひぃ泣いていたら、可愛い可愛いと耳元で繰り返された。オレみたいなゴツイ男に可愛いなんて薄ら寒いけど、カカシさんに言われるとすごく嬉しい。幸せで嬉しくて、思わずへへ、と笑った。そうしたらカカシさんが一瞬動きとめて、目がすっごいマジになって、オレの太もも両手で大開にする。わぁ、と驚く間もなくさっきまで舌を入れられたり指を入れられたりしていた後ろに熱くてつるりとした感触があたった。そしてずぶり、とオレの中に入ってきた。そのままずずっと奥に進んで来る。背筋を伝って脳天貫かれたみたいな衝撃だった。熱くて固いものがオレの中を一杯にしていく。痛くはなかったけど苦しくて熱くて、なにより怖かった。全く知らない感覚がオレの体を支配していく。オレの中に入ってきた熱い塊は容赦なく動き始めた。奥を突かれる衝撃と体の中を擦られる感覚、それが快感なのか何なのかわからないまま、オレは目の前の体にしがみついた。意識なんて保ってられない。メチャクチャに混乱したまま、オレはたぶん、怖いとか助けてとか叫んでいたと思う。どこか遠くに自分の声を聞いているような感じで、でも体を貫く熱はあまりに強烈で、オレは悲鳴を上げ続けた。オレが泣き叫べば叫ぶ程、なんだかカカシさんの動きは激しさを増す。体の中のカカシさんに擦られ突き上げられ、奥底から何かがせり上がってきた。熱くてどろどろと溶けそうな、それでいて痺れるようなそれはオレの全身をかけめぐり目の前がチカチカしてくる。

「カカシさん、怖いよぅ…」

思わず助けを求めたらカカシさんがひゅっと息を飲むのが聞こえた。次の瞬間、ズンと深く奥を突かれる。衝撃にのけぞるオレの唇をカカシさんの唇が塞いで、中に入っている熱がもっと奥に捻り込まれた。同時に熱くて固い体がぎゅうっと密着してくる。オレのモノはカカシさんの腹で押しつぶされて、体の奥深く抉られて、目の前で真っ白い火花が散った。

あぁ、幸せだ…

なんだかそんな言葉が浮かんで、オレの意識はぷっつり途切れた。









誰かが撫でてくれている。優しい手、ふっと我に帰った。最初、自分がどこにいるのかよくわからずに目をぱちぱちさせる。

「イルカ先生、大丈夫?」

ハッと横をみるとカカシさんがいた。あ、オレを撫でてくれているのはカカシさんだったのか。カカシさんはなんだか困ったように眉をさげてオレを見ている。ハタとさっきまでのことが蘇って顔が熱くなった。オレってすっげぇみっともなかったんじゃないか?いい年して怖いだの助けてだの、乙女じゃあるまいし寒すぎるだろう。わ〜、もしかしてカカシさん、ドン引いたんじゃ。
ひくり、と引き攣ったら、カカシさんがオレの額にキスしてきた。

「無理させてごめんね。オレ、がっついちゃって。でもセンセが可愛いんだもん。」

カカシさんがうっとりしている。見間違いじゃないよな、確かにこの人、オレにうっとりした顔向けてるよな。
っつか、可愛いって,可愛いって、マジですか、カカシさん。どうみたってもっさいオレに可愛いって言葉は似つかわしくない。だってオレだぞ?木の葉の里人百人に聞いたって可愛いって台詞はでてこねぇぞ。でもこの人、さっきからずっとオレのこと、可愛いって言ってくれるよな。本気でそう思ってくれてるなら嬉しい、なんて考える時点でオレも相当イッちまってる。額から頬から、キスしてくれるカカシさんにどんな顔していいかわかんなくてオロオロしていたら、水持って来るから待っててね、と唇にキスされた。
うわ〜〜〜、頭が冷えてからのキスって、恥ずかしいっつーか、幸せすぎるんですけど〜〜。
ベッドから降りて台所へ向かうカカシさんをオレはぽぅっと眺める。オレや同僚達の裸と違って、あ、同僚達っつーのは、そりゃ、男同士だから職員旅行で大浴場入ったりとか、教師になる前は前線任務で川で水浴びとかしてたから知ってるってわけだけど、カカシさんの裸体はオレが見たどんな男のものよりも美しく立派だった。こう、しなやかな獣って感じだよな、この人の体は。
わ〜、こんな見事な体の持ち主の前じゃオレなんて恥ずかしすぎる。でも可愛いって言ってくれたしっ。

カカシさんはグラスに水を入れてすぐに戻ってきた。
きゃ〜〜、カカシさん、前前、前かくしてない〜〜っ。っつか、立派なんですけど。臨戦態勢じゃないのに素晴らしいんですけど。
オレは真っ赤になって顔を覆った。でもやっぱり見たくて指の間からじーっと見つめたら、カカシさんがぷっと吹き出した。

「センセのえっち。」
あ、バレてる。

「起きられる?」

そう言ってカカシさんはくすくす笑いのままオレを抱き起こしてくれた。素肌が密着してオレの顔はまた熱くなる。目の前にぶらぶら、見えてるし。

「すっすみません…」

掠れ声でお礼いってコップを受け取り水を口に含んで、そのままブッと吹きそうになった。

カカたんグラス〜〜〜っ

忘れてたっ。グラスとか茶碗はそのままにしてたんだった。ちら、と見上げるとカカシさんが楽しそうな顔をしている。吹きそうになった水をなんとか飲み込み、ついでにコップに残った水も飲み干した。
いやもう、ここまでカカたんグッズ見られたら今更だもんな。でもなんとなくいたたまれない気分でいたら、カカシさんがひょい、と右手をオレの前にかざした。へ?と目を瞬かせると人差し指をちょいちょいと動かす。
そこにはカカたん指人形が。そう、オレが毎晩、一人芝居やっていたお相手だ。

「あっあのっ…」

なんだか後ろめたいような気がしておたついていると、カカシさんがどこか人の悪い笑みを浮かべる。

「オレとカカたん、二人で悪戯してい〜い?」

ぴょいぴょい、と指人形が動く。固まったままのオレの手からコップを取り、カカたんが目の前で揺れた。

「そのまま座って見てて。今度はオレが気持ちよくしてあげる。」

トーンの高い作り声がそう言う。思わず尻で後ずさったオレの体をカカシさんの左手ががっちりと拘束してきた。右手の人差し指にはめた「カカたん指人形」が目の前に迫って来る。

それから何があったかって、そらもう、新しい世界へが開けたっつーか、強引に開かされたっつーか、とても口では言えないことをされたとだけしか…
だっだけどっ、オレはゼッテー変態じゃねーからなっ。成り行きだったんだ、成り行き。でなきゃ一生あんなセックスとは縁がなかった、そう断言できる。断言させてくれ。

……まぁ、後の祭りだがな。

そんなこんなで結局オレは途中で意識を失っちまって、たまに目覚めると揺さぶられてる最中で、とにかく滅茶苦茶にされたとしか言い様がない。
あ、しまった。これだけすごいセックスしたらホントに太陽って黄色く見えるんだろうか。確かめる余裕なかったな。まぁ、次の機会にでも確認してみようと思う。思い出す余裕があれば、の話だけどな。








三日、ご褒美の休暇とは別に、とりあえずもらっていた休暇は三日だった。その間何をしていたかっていうと、ずっとセックスしていた。
なんつーか、あの人、マジ絶倫だよ…
オレ、よく死ななかったと思う。最初の夜があけて目がさめたら一緒に風呂に入って、オレは腰が立たなくなってたからカカシさんが抱いていれてくれたんだけど、よれよれの状態で風呂に入って人心地ついたなって思った途端、襲いかかられた。お湯の中であんあん言わされて、湯あたりと疲れで意識を飛ばしたら、さすがにベッドで介抱されたけど、おじやとか作ってもらって食べて、やっと人心地ついたらまた襲われた。
それからは同じ事の繰り返しっていうか、食べて回復したら襲われて、風呂はいって綺麗になったらまたまた襲われて、それが気持ちいいもんだから始末におえない。でも流石に三日目が明ける頃にはオレはフラフラで芽の下にはくっきりクマだ。

「今日まで休みなさいよ。もう襲わないから。」

カカシさんはそう言ったけど、そんな鼻の下伸ばしまくった顔で言われても信用できない。片思いが長過ぎてタガがはずれたんだとかなんとか言い訳してたけど。
でも、あんだけ出しといて何でこの人、つやつやしてんだ。とにかく、絶対出勤しないとやばいから、と言って起き上がったオレは自分でもえらいと思う。まぁ、暗部特製兵糧丸ってのをもらって飲んだけどさ。確かに効くわ、アレ。普通の状態で飲んだら中忍のオレなんて鼻血ふくんじゃねーの?

そんなこんなでオレとカカシさんは目出たく恋人同士だ。しかもとっても仲睦まじい。
外じゃ相変わらず表情を隠しちゃう人で、ぶっきらぼうな口調も変わらないけど、あの人はオレにメロメロだし、オレもあの人なしじゃもう生きていけない。
ただなぁ、あの人、妙なモンに目覚めちまったようで…



「おぉ、イルカ、よいところにおった。」
「ホムラ様。」

なにやら企画書みたいなものをホムラ様から渡される。

「木の葉のゆるキャラグッズに新しい案が提出されてな。早速企画会議を設けてくれ。」

カカたん関係の元締めはホムラ様だ。この人は固いイメージとは裏腹に、なかなかの商売人なのだ。
そしてオレは企業と里の事務方合同の「カカたん制作委員会」とホムラ様の仲介役を押し付けられている。それもこれもホムラ様が強面だからなんだけど、ほとんどボランティアみたいなこの仕事、オレとカカシさんの恋の橋渡しになってくれたことだしってんで快く引き受けている。

「わかりました。日程が決まり次第お知らせします。」
「うむ、最近はあのカカシが非常に協力的でな、あやつ、なかなかにいい案を出しおる。」

ぎく、と嫌な予感がした。手渡された企画書には「立案者 はたけカカシ」との文字が。ホムラ様が上機嫌で指差した。

「カカたん筆とは盲点じゃったわい。ボールペンだの鉛筆だのキャップだのは思いつくがの、筆の毛の部分をカカたんの髪の毛にみたてるとは斬新、水洗いして汚れ落ちのいい素材を選ぶところが肝心との注意書きまである。さすが、写輪眼のカカシの名前は伊達ではないな。相変わらずぬかりのない奴じゃ。」
「………」

やばい、筆、そうきたかっ。

「ほれ、こっちなど、子供用おもちゃなんじゃが、これがまたよう考えておる。確かに、おさない子供は玩具を口にいれるからの。強度と防水は重要じゃな。怪我をせぬようつるりとしたデザインのカカたんこけしとは、いやはや、考えつかなんだ。これなど、うまくすればグッドデザイン賞ものじゃと思わぬか?」

指差された部分をみると、火の国伝統玩具とカカたんグッズのコラボレーション、などとぶちあげてある。でも、これ、これって、つるりとしていて防水で、しかもなに?スイッチをいれるとブルブル震えるだとぉ?

間違いない、奴はこれを使う気満々だ。
そう、初めてのあの夜以来、オレの大事な恋人であり、里の誉れと名高いかの上忍は、カカたんグッズを使って遊ぶことを覚えてしまった。もちろん、大人の遊びって意味でだ。
新しいグッズ企画の筆にコケシ、しかも電動ブルブル機能つきなんて、うわ〜〜っ、本来の用途をはずれた使い方しちゃいけないんだぞ、って言っても無駄か。もともと向学心っていうか、向上心旺盛な人なんだけど、こんな方面にまでそれを発揮してきやがる。
オレだって夜の遊びは気持ちいいし大好きだけど、でもな、モノには限度ってもんがあるんだ。しかもこれが通って商品化された日にゃあ、盛り上がって朝までフルコース決定、どーしよーーっ。
だが、オレには商品化を阻止する力はないし、ましてや銀髪の恋人の暴走をとどめる術も持たない。ひくり、と口元を引き攣らせるオレには気付かず、では頼んだぞ、とホムラ様は機嫌良く歩み去った。
うぅ、結局覚悟決めなきゃいけないんだな、オレ。
はぁ、とため息をついてオレは事務所に足を向ける。まぁ、いっか。日々、カカシさんとオレはラブラブで、なんだかんだといっても幸せなのは間違いない。胸を焦がす想いを封印しつづけなきゃいけなかったあの日々を思えば、夜の暴走だって幸せな悩みに違いない。

「とっとと仕事終えて晩飯のおかず、買いに行くかな。」

ついさっき、任務終了と帰還の報告があった。そろそろ職員室に迎えが来る頃だろう。銀髪の愛しい人の笑顔を思い浮かべ、オレは足を速める。
ちらりとみやった窓の外には冬枯れた木々、もう木枯らしの吹く季節だ。夏の終わりに手に入れた大切な人と温め合える幸せをオレは改めて噛み締めていた。


 
 
 

え〜、あの〜、そのぉ〜、目覚めました、妙な方向へ。カカたんグッズで何して遊んだかは、オフ本の方になります。続編「髭まで愛して」はオフ本書き下ろしとなっています…っつか、何だ髭までって…要はアホな本だということです。髭にギャップ萌えしちゃうカカシさんのお話しです(汗)