誕生日



手塚はキスが好き。

部活が終わった後の部室で、校舎の片隅で、屋上に続く階段の踊り場で、桜並木の奥で、手塚は僕を抱きしめてキスをしてくる。手塚は僕を離さない。僕を深く甘く貪ってくる。

手塚のキスが好き。

柔らかく啄んでくる唇が、探るように入ってくる舌がとても好き
手塚の舌は別の生き物みたい。僕の舌をからめとって、中をかきまわして、くちゅくちゅにする。そんなふうにされたら、もう頭の芯がぽうっとしてとろけそうになって、足ががくがくして立っていられなくなって、体中が熱く燃えるようで…



でもそれだけ。



手塚は何もしてこない。手塚はキスしかしないのだ。

僕はもう子供じゃない。大人ってわけでもないけど、何も知らない子供でもないんだ。それとも僕には魅力ない?ねぇ、手塚、僕に触りたくはないの?


☆☆☆☆☆


不二周助は居間のソファにむっつりと転がっていた。

手塚とケンカした…

原因なんて人に言うのも憚られる。いつものように濃厚なキスをして、体がかぁっと熱くなって、つまるところ、エッチしたい気分になって。だのに手塚は絶対にだめだというもんだから。

手塚は僕に興味ないんだっ。

そう叫んで逃げ帰ってきた。

「手塚のオタンコナス…」

不二は小さく呟いた。クッションを抱き締める。秋の午後の陽が部屋の奥まで射していた。誰もいない休日の午後、本当ならば自分も手塚とすごしているはずの日曜の午後…

オレ達はまだ中学生だ、そういうことは大人になってからだろう。

手塚の声はひどく冷静だった。しかし、不二は知っている。

君だって熱くなってるくせに…

男同士、身体の作りは同じだ。キスして体をすり寄せていればいやでもわかる。それなのに、体は昂っているくせに手塚は頑としてそれ以上しかけてこないのだ。それどころか、不二が仕掛けると引き剥がすように体を離す。


オレ達はまだ中学生だ。


「だからなんなのさ。」

不二は向いの椅子にクッションを投げつけた。

「手塚の見栄っ張り、むっつりスケベ、トーヘンボクっ。」

罵ったところで肝心の手塚はいない。力なく不二はソファに沈みこんだ。

僕が男だからかなぁ…

片思いで伝わることがないと諦めていた手塚への恋、それが、手塚も同じように自分を好いてくれていたと知った時にはもう死んでもいい、と思ってしまった。もう、これ以上、何も望むものなどないと。しかし、人間とは欲深くできている。想いが通じれば触れたいとおもい、触れればもっと先の事を望む。不二はそれが悪いことだとは思えない。しかも、至極真っ当な中学生としては、「その先の事」に大いなる興味関心を向けるのは当然のことだろう。

手塚、今頃になって、やっぱり女の子がよかった、なんて後悔してるとか…

いや、それはないだろうと不二は首を振る。もしそうならば、あんなにもしつこくキスしてきたりはすまい。そう、手塚のキスは本当にしつこくていやらしくて、だから余計にその先を拒絶する手塚がわからない。

やめよ…

堂々回りにくたびれて、不二はテープルの上に目をうつした。新聞や雑誌が無造作に置いてある。何気なく、その雑誌を手にとった。

『秋の新作、バッグ、靴特集』

姉の由美子の買ったものだろう。にっこり笑った女性モデルの表紙に黒々とした文字がのっかっている。

『定番の服にワンポイントテクニック、秋のお洒落はこれできまり』

不二は呆れ気味にページをめくってみた。女ってわからない。こんなものに八百九十円もだすなんて。ページには色とりどりの服をまとったモデルがポーズをとっている。

「同じ服着たって、モデルみたいになれるわけないじゃない。」

由美子が聞いたら確実に殺されそうなセリフを吐きながら、不二はページをめくっていった。

『特集、奥手な彼氏、攻略法』

ん、と不二の手がとまった。

『愛されて大事にされて、でも女はそれじゃ我慢できない。』

不二はしっかりと雑誌を持ち直す。

『結婚するまで大事にしたい、もー勘違い彼氏、なんとかして』
『キスは大好き、でもどうしてそれ以上何もしてこないの』
『奥手で初心な彼、でも慣れてる女って思われたくない』


不二は真剣に読み始めた。しばらく後、雑誌から顔をあげた不二の口元には怪しい笑みが浮かんでいた。


☆☆☆☆☆


「ね、手塚。手塚の誕生日の前の日曜日、開いてる?」


翌日、朝一番に不二は教室の前で手塚をつかまえた。上機嫌である。手塚は拍子抜けした。内心、昨日の気まずいやりとりで機嫌を損ねた不二をどうやって宥めようかと思案していたのである。

「日曜…あ…ああ、開いているが…」

戸惑い気味に手塚は答えた。不二の上機嫌はある意味恐い。経験上、手塚はそのことを熟知していた。

「よかったー。だってさ、手塚の誕生日、平日だからあんまり一緒にいられないじゃない。」

手塚は目を見開いた。

そうか、誕生日か。

不二は嬉しそうに続けた。

「だから、その前の休みは君と一緒に過ごしたくて。」

クスッと笑って不二は手塚の耳元に口を寄せた。

「昨日はあんなこと言ってごめんね、手塚。」

それから不二はくるりと踵をかえして駆け去った。手塚はぼうっとその後ろ姿を見送る。茶色い髪がガラス越しの朝日に透けた。

誕生日に…

ゆるみそうになる口元を手塚は押さえた。耳元にまだ不二の吐息の感触が残っているようだ。ひとりぼんやり廊下に立ち尽くす。後ろでは級友が日直ノートを渡してもいいものかどうか逡巡していたが、手塚は始業のベルが鳴るまで気がつかなかった。


☆☆☆☆☆


『ポイントその1・奥手な彼は結構こだわり派、記念日やイベントを活用するのがGOOD、自然な流れでエッチに持ち込む。彼の誕生日とかに照準をあわせてまずは二人きりになるチャンスを。』

まずは第一段階クリア、

その頃、教室では不二がうしっ、とばかりに拳を握っていた。

『ポイントその2・意外に知らない体の秘密。スポーツの後はエッチな気分になりやすい?運動後の体の状態は性的に興奮したときとほぼ同じ、テニスなど屋外スポーツに彼を誘って気分をハイに。』

そんなの僕のホームグラウンドじゃない、

ふふふふ〜、といつもに増して不二は笑みをたたえる。そんな不二の様子を隣の席から菊丸が気味悪そうにうかがっていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

あ〜、やばいやばい、十月終わるとこだったよ。手塚の誕生日月間っていいながらさぼっていたわしら。ぎりっぎりでアップです。え?やばいってんなら何で全部アップしないのかって…いや、ラスト、今から書くし…明日から十一月だけどぉ〜とりあえず十月中にアップしたから…あ…あはははは〜。えとね、来週中には全部アップするっつーことで、許せ、手塚よ。さて、漫画じゃ全然いい思いしてない手塚、今回はいい目にあえるのか、しっかし、わしらだしなぁ、書いてンのが。秋なのにしっとりもしんみりもしないわしら、一度気合いいれなおしてこ〜〜いっ(ふせ〜〜〜)