海と空と教室と6
 


            空、緑、そして笑顔

「イルカ先生ー、ほら、大収穫。」
「うわ、カカシさん、年々腕あげてますね。」

かご一杯の茄子やキュウリを見て、縁側に出てきたイルカ先生が顔をほころばせた。オレとお揃いの紺の作務衣を着て髪を肩のあたりでくくったイルカ先生は年をくってもイイ男だ。

「浅漬けにしてナルトに持っていってやりましょうか。」
「そうね、アイツ、いまだに野菜嫌いだから。」

ナルトが七代目火影に就任すると同時に、イルカ先生もアカデミー校長を引退して、オレ達は町中の一軒家に移った。里のはずれの静かな場所を希望したんだけど、何かあったら心配だからって皆から大反対されて、結局アカデミーの近くに住んでいる。
まぁ、イルカ先生にとっては、ここだといつもアカデミー生とふれあえるからかえってよかったかもしれない。そしてオレはといえば、最近家庭菜園に凝っている。

「護衛の暗部さん達にもお裾分けできますね。」
「ん、ここの警護してるときって暇だろうしねぇ。」

心配性のテンゾウがいまだに護衛をつけている。オレ達、もうすっかり引退した身なんだけどねぇ。まぁ、オレの目にはまだ写輪眼が埋まっているし、オレもイルカ先生も機密だらけの体だからしょうがないんだけど。



ナルトが七代目になってさらに十年、オレの髪は銀からすっかり白になったし、イルカ先生の黒髪も半分以上白くなってる。引退したといっても、オレもイルカ先生も相変わらずご意見番だの何だのと引っ張りだされて、アレコレ仕事をさせられていた。

『先生達のボケ防止だってばよ。』

ナルトの奴、うまい事言って。ニシシ、と笑う顔はいくつになっても悪戯小僧のまんまだ。
相変わらず忙しい毎日ではあるが、それでも火影でいたときにくらべて格段に自由だし気楽だ。なにより、イルカ先生と一緒に買い物してご飯作って食べて、なにげない毎日を過ごす事が出来る。

「今年はとうもろこしも植えたんですよ。」
「お、楽しみですねー。オレ、茹でたのに醤油ぬって、焼いてから食べるの好きなんです。」
「あぁ、お祭りっぽい匂いがするからでしょ。」

あはは、と笑いながら縁側に座ると先生が冷たい麦茶をお盆にのせてきてくれた。ぐっと一息に飲んで庭に目をやると、赤や黄色のグラジオラスが鮮やかだ。

「綺麗に咲きましたね。」
「えぇ、子供達がくれた球根、うまく育ってくれてよかったです。」

何気ない会話に心が満たされる。綺麗だと思った事、嬉しいと思った事、暗い何かを押し込めるためではなく、心に浮かんだ美しい事をそのまま言葉にできる日々だ。

「センセ、今日は何食べましょうか。」
「ん〜、野菜は茄子とキュウリですよね、豚肉の冷しゃぶ〜、かな?」
「このお肉スキーめ。」

麦茶のおかわりをして、涼しくなったら買い物に出ようと言って、オレ達は空を見上げた。夏の空はどこまでも高くて青い。白い雲がゆっくりと流れている。
幸せ〜、って小さく呟いたら、隣のイルカ先生がクスリと笑って、オレの手を握ってくれた。オレもきゅっと握り返す。

世界はあの日みた海と空みたいにキラキラと輝いていた。



二人、幸せな老後を過ごしてます。企画ペーパーでありながら駆け足で老後までってどんなだ…このまま二人揃って年老いて、年寄りだけどイチャイチャしてて、老衰で人生終えることと思います。