節分会
 


「はい、結構です。お疲れさまでした。」

受付の癒しと呼ばれる中忍、うみのイルカが強ばった顔を上げる。

「ど〜も。」

仲間思いで気さくだと評判の里一番の忍び、はたけカカシの返答は素っ気ない。ピンと張りつめた空気に受付所はシン、と静まり返った。ここ数年続いている受付所での風景だ。運悪く居合わせた忍び達は嵐が通り過ぎるのを息を潜めて待った。このまま里の誉れと称される写輪眼のカカシがドアの外へ出て行ってくれれば、重苦しい空気から解放される。だがここで、事務手続きや任務内容の照会なんぞが入ろうものなら、更に重苦しさを増す空気に耐えなければならない。身動きがとれないまま受付所にいる全員が祈るような眼差しを原因たる二人に向けた、その時だ。

「ええい、うっとーーしーーっ。」
バーン、と受付カウンターが派手に鳴った。

「もーー我慢も限界だ。毎度毎度、いったい何なんだいお前達はっ。」
「五代目。」

里の長である女傑の一喝に、しかし二人は動じる気配もみせない。

「オレは任務報告書を出しただけですが何か?」
「火影様、不備がありましたでしょうか。」
「……こういう時だけは息がぴったりじゃないかい。」

五代目火影、綱手はこめかみを押さえ顔をしかめた。

「ったく、何でそう仲が悪いかねぇ。どっちもナルトの恩師だろう?少しは歩み寄れんのか。」
「おっしゃる意味がわかりかねます。」

眉一つ動かさず中忍が答える。

「歩み寄るも何も、トラブルでもありましたっけ?」

上忍はいつもの飄々とした口調で肩を竦めた。

「んじゃ、用がないならオレはこれで。」

さっさと踵を返した写輪眼は受付所を出て行った。件の中忍はすでに受付事務の仕事を再開している。はぁ、と綱手はため息をついてその様を眺めた。

「まったく、なんとかならんもんかねぇ、お前らは。」

黒髪の中忍の肩が僅かに揺れたように見えた。






☆☆☆☆☆


 

「うぇ〜〜っ、マッマジですかっ。」
「S級任務のがましっつか、バレたらオレら、カカシさんに殺されます〜。」

悲鳴をあげたのはイズモとコテツ、五代目綱手付きの中忍だ。

「やっかましいっ。」

怒鳴ったのは、もちろん木の葉の里の五代目火影である。

「カカシカカシっていちいちビビるんじゃないよっ、相手は生っ白い肌の青二才じゃないかっ。」
「んな無茶な。」

綱手に青二才呼ばわりされたその男は、おそらく指一本で自分達を瞬殺することができるだろう。イズモとコテツは震え上がった。

「写輪眼のカカシに変化してイルカと仲良くなるなんて無理に決まってます〜〜っ。」

二人は極秘任務と称して火影の執務室に拘束され、とてつもない無理難題を押し付けられているところだった。

「だいいち、オレら、カカシさんの顔知りませんし。」
「イルカだって中忍ですよ、絶対変化、気付きますって。」
「なぁに、案ずるな。」

半泣きの二人に綱手はカラカラと笑って見せた。

「カカシの小僧の素顔なんざとっくに承知さ。このアタシが変化を固定してやるんだからイルカにバレるわきゃないだろう?」
「しっしかし、カカシさんに見つかったら。」
「二日ばかり任務に出しときゃ大丈夫だよ。」
「ですが、やはり…」
「えぇぃっ、ごちゃごちゃと、往生際の悪いっ。」

ガン、と執務机が鳴った。

「たかが飲み会のときにカカシの振りするだけだろうが。それで受付所が平和になるんだ。お前らの犠牲なんざ安いもんじゃないか。」
「ぎっ犠牲って言った、犠牲ってっ。」
「やっぱオレら、生け贄なんだっ。」
「あ〜、いや、なんていうか、ほれ。」

ガタガタ震え始めた二人を宥めるように火影はひらひら手を振った。

「言葉のあやだ言葉の。大丈夫だって、アタシが横についていてやる。いいか、詳細はこうだ。」

綱手は両手を顔の前で組む。

「節分を口実に上忍、中忍、無礼講の飲み会を開く。まぁ、当然カカシの小僧には前日くらいから任務を与えて里から追い出しておくから問題ない。そこでだ。」

にんまりと口の端を上げた。

「宴会の半ばでアタシが隣にイルカを横に呼ぶ。ある程度飲ませて酔わせておくから、合図したら入ってきな。なぁに、任務が早く終わったとか何とか言ってイルカの横に座れ。ちょいと優しい態度で話をすりゃそれでいい。」
「それで何が変わるんです?」

イズモが半泣きのまま首を傾げた。

「バカだねぇ、少し考えりゃわかるじゃないか。」

ふっふっふ、と綱手が怪しい笑い声をあげた。

「なんだかんだといってカカシは里の看板上忍だ。それが自分から歩み寄ってきたとしたら、あの律儀なイルカが無視できると思うか?当然、翌日から受付での態度が軟化するだろうが。まぁ、そんなイルカにカカシもツンケンするほどガキじゃあるまい。」

要はきっかけだ、と綱手はにっこりする。

「変化はアタシが固定してやるし、飲み会でイルカと仲良く話をするだけだ。たいしたことじゃないだろう?要はあいつらにバレさえしなきゃいいのさ。」
「は…はぁ…」
「引き受けるな、お前達」

イズモとコテツはようやく頷いた。

「よし、決まりだ。男に二言はないとみた。」
「しっしかし、何故我々二人なんですか?カカシさんに変化するなら一人で…」

おそるおそるコテツが質問する。途端に綱手の表情が変わった。なんというか、極悪な面相、というやつか。

「一回で成功するとは限らんだろうが。」

「……えっ。」

「節分の飲み会で失敗したら、次の手を打たねばならん。そうしたらイルカ役も必要になるだろうが。それにな、敵はあのカカシだ。どんな不測の事態が起こるやもしれん。」

「えええっ。」
「はっ話がちが…」

「やかましいっ、男が一度引き受けたからにはゴタゴタ言うんじゃないっ。バレたら水の泡だからね。これからお前達、カカシとイルカになりきる特訓だよ。シズネッ、用意しなっ。」

「「えええええーーーっ。」」

「いいか、極秘ってことを忘れるな。失敗したら死ぬぞ。なんたって写輪眼のカカシが相手だ。」

話がちっがーーーうっ

イズモとコテツの悲鳴が執務室の外に漏れる事はなかった。



一応短編予定で。節分会。仲の悪い?カカイル…?イズモとコテツがひどい目にあうことだけは確定。