三分間
その2
 


はたけカカシは食えない男だ。飄々として本心を見せず、したたかで抜け目ない本性を柔らかな物腰で隠している。
ササギは昔からカカシが嫌いだった。だから、里に帰って、カカシがうみのイルカを手に入れたとわかった時には、怒りと悔しさで目の前が赤く染まった。
本来、うみのイルカはササギのものだったはずなのだ。十代の頃から手懐けて、受付勤務になってからも癒しだの天使だのと騒ぐ連中を影で牽制してきた。女の心配はしていなかった。イルカは奥手だし、万が一虫が付いたとしても、強引に抱いて男の味を覚えさせればいい。
そうやって周到にイルカを手に入れる準備をしてきたというのに、三年の長期任務に水を差された。まさかその間に横からかっさらわれるとは。しかもかっさらった相手は大嫌いな写輪眼のカカシだ。忍としても目障りでたまらなかったというのにイルカまで持って行かれて、ササギは憎しみをつのらせた。
だが、これで奴の鼻をあかしてやれる。今、イルカはササギの手の中だ。ササギは満足そうに目の前に転がるイルカを眺めた。

「なにが里の誉れだ、看板忍者だ。あんな奴よりオレの方がよっぽどお前を大事にしてやれるぞ。」

傍らにしゃがんで頬を撫でようとするが、イルカはふい、と顔をそむける。やれやれ、とササギは鷹揚に肩を竦めてみせた。

「いい加減目ぇ覚ませよイルカ。貰い物の写輪眼がなきゃ何にも出来ねぇ奴だろうが。お前は写輪眼ブランドに誤摩化されているだけなんだよ。」

くい、とイルカの顎を掴んで自分の方を向かせた。

「奴は白い牙の息子だの四代目の愛弟子だのとお飾りだけは一流だからな。ブランド志向の強いこの里だから評価されてるようなもんだ。だが写輪眼抜きならオレの方が優秀さ。実力主義の里に行けばオレがトップだ。」
「里抜けの理由はそんなくだらない妄想ですか。」

キッと黒い瞳が睨み上げて来た。

「何?」
「お笑いぐさだと言っているんです。写輪眼抜きならあなたの方が優秀?とんだ戯れ言ですね。」

顎を掴まれたまま真っ直ぐな視線がササギを射抜く。

「写輪眼がなくったってあの人は里の看板忍者です。ましてや、あの人以外の誰が写輪眼を使いこなせますか。カカシさんだから使えるんです。実力主義の里ならあなたがトップ?じゃあ、何故木の葉の里でトップクラスに入れないんです?ここは十分実力主義の里ですよ?」

バシ、とイルカの頬が鳴った。

「おい、あんまり図にのるな。」
ササギは凄まじい形相でイルカを見下ろした。

「切り刻まれたいか。」

それからフッと表情を和らげる。

「なぁイルカ、オレを怒らせるなよ。でないと可愛いお前を殺しちまう。」
柔らかい表情とは裏腹にササギは顎を掴む手に力を込めた。イルカが苦しそうに眉を寄せる。
「優しくしてやりたいんだよ、お前には。」
力を緩め、親指で頬を撫でた。だが、イルカは激しく顔を振って拒絶する。

「触るな。オレに優しくしてくれるのはあの人だけでいい。お前なんかに触られたくない。」

ササギの目に冷たい光が宿った。周囲の空気が重く変わる。半身を起こしていたイルカをドサッと草の上に突き倒す。

「写輪眼のイロをなぶりつくしてから殺すのも一興かな。」

スラ、とクナイを取り出した。闇の中でクナイが鈍く光る。

「ヤツの泣きっ面を見るのも楽しかろう。」
「だとよ、カカシ。」

ふいに木の陰から声が落ちて来た。ぎくり、とササギは動きを止める。

「や〜ね〜、へんた〜い。」
「お前ぇに人徳がねぇんだよ。」
「ひどい、髭、友達じゃないのっ。」
「気持ちわるいこと言うんじゃねぇっ。」
「なっ何だっ。」

ササギの前に二つの影がすとん、と降り立った。一つはスラリとした、もう一つはがっしりとした体つきだ。闇の中からスラリとした影が一歩踏み出して来た。キラリ、と銀髪が光る。

「はっはたけカカシっ。」
「や、お友達さん。ずいぶんなこと、企んでくれたじゃないの。」

相変わらずのとぼけた口調が忌々しい。ササギの足下でイルカが身を捩って叫んだ。

「カカシさんっ、アスマ先生っ。」
「はい、遅くなってごめーんね、イルカ先生。」

カカシがにこり、と目を細めた。よぉ、と大柄な影も片手をあげて前へ出てくる。

「何故…」
「お仲間はこねぇぞ。」

呆然とするササギにくわえ煙草の男がにやり、と笑った。

「悪あがきはやめるこった。お前の動向なんざ、里に帰る前から情報部が掴んでるぜ。」
「ま、アンタが浮かれて動いてくれたおかげで、全員連行させてもらえたけどね。」

いつの間にか周囲を暗部で固められている。アスマがふぅ、と煙を吐いた。

「里の情報部をナメすぎたな。カカシのお友達さんよ。」
「ちょっと、その呼び方、やめてくんない?オレ、コイツと友達だった覚えないからね。」
「あぁ?お友達なんだろ?コイツ、そう言ってたじゃないか。」

アスマがササギを指差してくる。カカシが口布の上から顔をしかめるのが見えた。

「自称お友達なんてろくなもんじゃなーいよ。」
「おめぇもさっき、オレの友達だとかぬかしてたなぁ。」
「もう髭、照れなくていいって〜。」

緊張感のかけらもない。ササギの顔が怒りで真っ赤になった。

「きっ貴様らぁ。」

バカにしやがって、コイツらはいつもそうなのだ。余裕しゃくしゃくの顔でこっちを小馬鹿にしてきやがる。ササギはガッとイルカを引き上げるとクナイを首筋に押し当てた。

「オレを拘束できるもんならやってみやがれ。そんときゃコイツの首は胴体から離れてるだろうよ、それでもいいのか、え?写輪眼様よぉ。」
「カッカカシさんっ。」

イルカはもがくこともできない。特殊な拘束具で縛られているのだ。カカシがスッと目を細めた。

「お前、死ぬよ?」

だがササギは高笑いした。

「あぁ、てめぇはオレを殺せるだろうよ。だがなぁ、そんときゃ愛しいイルカ先生と黄泉の道行きだ。そのくらいの力はオレにもあるさ。」

カカシは黙ってササギを見ている。何の感情の揺れも感じさせない態度だ。それが更にササギの怒りを煽った。

「さぁ、暗部を引かせろ。コイツを殺されたくなかったらな。」

ぐっとクナイに力をこめる。

「どっちみち捕まったらオレはおしまいだ。ならここでイルカを殺しても同じなんだよ。」

そうだ、もう逃げ場はない。ただ捕まるくらいならイルカを殺してしまおう。ササギがそのままクナイをイルカの首に突き立てようとした時、カカシの片手がすっとあがった。

「引け。」

ふっと暗部達の気配がなくなる。カカシが正面からササギを見据えた。

「暗部は引いた。イルカ先生を離せ。」

一瞬、ササギは唖然とした。あの写輪眼がたかが情人一人のために。笑いがこみ上げてくる。

「バッカじゃねーの、カカシ。」

ケタケタとササギは声をあげて笑った。

「すっかり腑抜けじゃねーの。天下の写輪眼様が。」

ササギは己の勝利を確信した。イルカが手のうちにあるかぎり、自分の勝ちだ。ぐい、とイルカの顔を上向けにして、更にクナイを押し当てる。

「そんじゃあ、お言葉に甘えて、今度はその写輪眼、えぐり出してもらおうか。」

可笑しくてたまらない。

「ほれ、さっさとえぐり出しな。でないと愛しいイルカ先生が死ぬぞ。」

締め上げる腕の中でイルカが騒いだ。

「ダメです、カカシさん。オレはどうなってもいい。あなたの足枷になるなんて真っ平だ。」
「へいへい、どんどん喚け、イルカ先生よぉ。喚くだけ写輪眼はがんじがらめって寸法だ。」

ケヒャヒャ、とササギは笑う。だが、カカシは表情を変えない。何余裕ぶっこいてんだか、ササギはむかついた。最後までカッコつけやがって、とことん気に入らない男だ。

「早くしろ、とっとと目玉、くりぬきやがれ。」

スゥ、とカカシの右手が顔に伸びた。イルカが悲鳴をあげる。

「やめてくれカカシさんっ。」
「ハッハァーッ。」

ササギは歓喜した。これで写輪眼様もおしまいだ。

だが、カカシの手はするりと口布を下ろしただけだった。端正な顔が露になる。カカシがニヤリ、と人の悪い笑みを浮かべた。ただそれは一瞬のことで、すぐに極悪な笑みはこの世の終わりのような悲しげな表情に変わる。

「イルカ先生。」

切なげな声が響いた。

「オレ、すごくショックです。」

カカシは辛そうに胸を押さえる。

「ササギは友人だって、昔からの友達だって言ってくれてたのに、ホントはあんな風に思われていたんですね。信じていたのに…」

ササギは唖然としたままカカシを凝視した。そこにいるのは悲嘆にくれる美青年だ。切々と胸の内を訴える銀髪の美青年の隣で、猿飛アスマがやはりあんぐりと口を開けたまま呆けている。

「あぁ、でも、そんなもんなのかもしれない。機械人形のように任務をこなすだけのオレなんて、やっぱり人間としてダメなんです。そんなオレに友達なんかが出来るわけがない。」

白皙の美青年は弱々しく肩を震わせ俯いた。

「こんな人殺しの出来損ない、幸せになる資格なんてないんだ。でも…」

ふっと顔をあげ、唯一露になった右目を潤ませる。

「……友達が出来たって夢をみられたから、それだけでもよかったんだよね。」

美青年はそれはそれは儚げに微笑んだ。

「ねぇ、イルカせんせ…」

弱々しい声が呼びかける。

「先生まで行っちゃうの?」

透明な悲しみをたたえ青年はただイルカを見つめる。

「オレが出来損ないだから?」

諦めきった笑み、ぴくり、とイルカの体が揺れた。

「オレはまたひとりぼっちになっちゃうの?」

濃紺の瞳にすきとおった涙の粒が宿る。まるで青い宝石の上に滴り落ちた神々の泉の一雫のようだ。その雫が銀のまつげを揺らしてぽろり、とこぼれ落ちた。



「せんせ…」




静まり返った森に突然、ゴゴゴゴ、と地の底から響くような地鳴りが沸き起こった。眠っていた鳥達がバサバサといっせいに飛び立つ。

「……なっ何だっ。」

ぎょっと辺りを見回したササギは今度こそ驚愕で動けなくなった。
腕の中に拘束しているうみのイルカの体から青白い炎が立ち上っているではないか。ぶちぶちぶち、と鈍い音がして、拘束具がイルカの足下に散らばった。すべてずたずたに引きちぎられている。ゆっくりとイルカが斜め後ろに顔を向けた。

「おい…」

ギロリ、とササギを睨みつける。その殺気にササギは飛び退ろうとするが、クナイを持つ腕をガシリ、と掴まれた。めきめき、と骨がきしむ。凄まじい力だ。クナイを突き立てようにもびくとも動かせない。

「てめぇ、よくも…」

ギラギラと黒い目をぎらつかせたイルカが低く唸った。

「よくもオレの可愛い男を泣かせてくれたな…」
「ひっ…」

ぐぐぐ、と腕を引きはがされ、イルカが正面からササギを見据えて来た。

「大事な男をコケにしてくれた礼、たっぷりと返してやるぜ。」

メキ、と嫌な音が響いた。腕の骨を砕かれたのだ。ササギは痛みに悲鳴をあげ草むらにころがった。逃れようとササギは必死で身を捩る。

「お〜っと。」

ゴッ、と肩を足で踏みつけられた。かがみ込んだイルカが見下ろしてくる。

「逃げようったってそうはいかねぇ。」

イルカは上からすっと顔を近づけニィ、と白い歯をみせた。

「なぶりつくして殺すのも一興、だったか?なぁ、ササギ上忍さんよ。」

はじめて見るイルカの酷薄な笑みに、ササギは全身の血が凍り付くのを感じた。

















「あ〜、はじまっちゃったねぇ。」

唖然としたままのアスマの横で、カカシがのんびりと言った。先程の儚げな風情は微塵もない。

「え…おい、ありゃ…」

どうなっているんだ、という問いをアスマは飲み込んだ。ガッ、ゴッ、という破壊音と悲鳴が響く中、カカシがベストの下からカップラーメンを取り出したのだ。

「おっおい…」
「ん〜?」

しゃがんだカカシは、今度は水遁で水の球をつくると火遁を組み合わせお湯を沸かしている。あまりの器用さに驚きよりも呆れが先にたつが、それよりも問題は今何故カップラーメンか、である。

「……何やってんだ?」
「え?カップラーメン作ってる。」

なかほどまで蓋をめくったカップ麺の容器に沸かしたお湯を注ぎながらカカシは当然のように答えた。

「いや、じゃなくてだな…」

見りゃわかる、そんなこと…

一瞬意識が現実を拒否したアスマだが、イルカの怒声に引き戻された。

「ダイナミックエントリーッ。」
ゴッという鈍い音とともに凄まじい悲鳴があがった。

「もう、イルカ先生ってば、激眉の必殺技なんか使っちゃって。」

でもアレ、効くからね〜、とカップラーメンの蓋を押さえながらカカシが肩を竦める。アスマは暴れるイルカとカップの蓋をのんびり押さえるカカシを交互に眺めた。視線に気付いたのか、カカシがちらり、とアスマを見上げる。

「ねーアスマ、カップラーメンを美味しく食べるコツ、教えてあげようか。」

ぐあっ、とまた悲鳴があがって殴り飛ばされたササギが足下まで転がって来た。カカシはひょい、とカップを持ち上げそれを避ける。

「あのね、表示された時間が三分なら、だいたい二分半で食べ始めたほうがいいのよ。」
「カッカカシッ、頼むっ、やめさせてくれっ。」

足下のササギがすがりついてきた。それをイルカが再び蹴り飛ばす。

「人の男呼び捨てにすんじゃねーよ、っつか触んなオラァ。」

ササギは木の根元に叩き付けられる。カカシはまた、大事そうにカップラーメンを置いた。

「ほら、食べ始めは熱いからさ、フーフーしながら啜るじゃない。表示時間どおりだと麺がのびちゃうわけ。そこを早めに食べ始めるとね、丁度の温度の時に麺の固さの具合がいいんだわ。」
「やっやめてくれぇっ。」
「てめぇ、どさくさにまぎれてオレの男に触ろうとしやがったろ、えぇっ?」
「ひぃぃぃっ」

ガッ、ゴッ、という音の合間に凄まじい悲鳴が混じる。流石にアスマは青くなった。

「おっおい、カカシ、止めさせねぇと、あれじゃ殺しちまうぞ。」

チラ、とカカシは惨劇の行われている方へ目をやる。

「ん〜、まぁ、後ちょっとだし、そのくらい持つでしょ。」

視線はすでにカップラーメンだ。

「だけどよ…」
「今出ていったらアスマ、アンタも敵と見なされてやられちゃうよ。あの状態のイルカ先生に近づけるのは、あの人の『可愛いオレ』だけだからねぇ。」

ちなみにガイで試したら一発で吹っ飛ばされたから、とカカシは涼しい顔で言う。アスマは呆然と、普段温厚なアカデミー教師の凶行を見つめた。いったい何が起こっているのだ。だいたい、あのチャクラの凄まじさは火影をも凌ぐ勢いだ。

「っと、そろそろかな。」

カカシがカップラーメンの蓋をはずしてすっと立ち上がった。手には箸を握っている。いつのまにか森は再び静まり返っていた。どこかぼんやりとイルカが立っている。足下に転がるササギはピクリともしない。

「イルカ先生。」

がくり、と膝をつきそうになったイルカをカカシが支えた。カップラーメンの汁を一滴も零さず瞬時に移動するとは流石写輪眼のカカシである。カカシはゆっくりとイルカを座らせた。

「はい、せんせ。大好きなシーフード味ですよ。」
「……カカシ…さん…」
「ん、疲れたでしょ。」

イルカを胸に抱き込むようにしてカカシはカップラーメンを口に運んでやる。イルカはズルズルと麺をすすり汁まで飲み干した。そしてほんわりと幸せそうに笑う。

「カカシさん、オレがいますからね。」
「うん。」
「ずっとずっと、何があってもオレが一緒にいますから…」
「うん。」

もう一度ほわり、と笑うとイルカは意識を失った。それをカカシはぎゅっと抱きしめる。

「うん…イルカせんせ…」

カカシの口元にも笑みが浮かんでいる。胸に抱き込んだイルカに頬をよせ小さく囁いた。

「大好き、イルカせんせ…」




「あ〜、取り込み中悪いがな。」

ようやく我に帰ったらしいアスマが横に立った。

「カカシ、これぁどういうこった。」
「ん〜、なんていうんだろねぇ。」

空を見上げるようにしてしばし考え込んだカカシは大真面目に答えた。

「史上最強、カップ麺忍者。」
「はぁ?」
「だからね、この異様な強さ、維持できるの三分間だけなのよ。それ過ぎるとセンセ、動けなくなっちゃうから、使いどころのタイミングが難しいんだけど。」

ますますわからん、といった顔のアスマにカカシは肩を竦めた。

「どうもねぇ、オレの心が傷ついたって思うとスイッチ入っちゃうみたいね。」

あっけにとられるアスマにふふ、と笑う。

「暴走するくらい、オレのこと、愛してくれてるんだよねぇ。」
嬉しいじゃない、とカカシは抱き込んだイルカに頬ずりした。

「オレって幸せ者だぁよね〜。」

ぶちゅっと口づけそうな勢いだ。ガン、とアスマが蹴りを入れた。

「いったいじゃない、髭。」

大仰に顔をしかめてみせたカカシは、すぐにフフン、と鼻で笑う。

「な〜に、うらやまし〜?だぁよね〜、お前、紅の尻に敷かれてばっかだもんね〜。」
「じゃねぇよ、オイ、ありゃ中忍の出せる力じゃねぇだろ。」
「だ〜から〜、愛なの愛、イルカ先生のオレに対する愛情が噴出してああなっちゃうのよ。」

すりすり頬ずりを再開する。アスマがげんなりと力を抜いた。やれやれ、といった風情で煙草を取り出す。

「まぁ、お前がそう言うんならそーなんだろうよ。」

煙草に火をつけ煙を吐いたあと、ふと気付いたような顔になった。

「あぁ、そういやイルカのやつ、妙な事いってなかったか?」
「ん?」
「おめぇが繊細だのガラス細工だの…」
「ああ、それ。」

こともなげにカカシは言った。

「この人口説き落とすときにちょっとね、大事な人はみんな死んじゃいました〜、的なところを強調してみました。」
「はぁ?」
「ついでに、忍として一流ゆえの孤独、みたいな?」
「はいぃ?」
「だって、そうでもしなきゃ、お固いこの人、落とせないでしょーが。」
「……外道っ。」

呆れ顔のアスマにカカシはにんまりしてみせる。幼い頃から妬みや中傷の渦巻く中で育ったこの男は本当にしたたかだ。その男が欲しいものを手に入れるのに、手段を選ぼうはずがない。

「いいの、オレ達幸せなんだから。」

蕩けそうな顔でイルカを抱きしめたカカシは、ハタと顔を上げた。

「あ、このこと、第一級の機密事項だからね。知ってんのは火影様とガイと紅とアンタで四人目。」
「げっ。」

面倒事の予感にアスマはおののいた。だがカカシはしれっと言い放つ。

「なにせイルカ先生の身を守る最終手段だからね、オレのいないときはよろしく頼むよ。あ、そうだ、テンゾウも引っ張り込んでおかなきゃ。」

くっくっ、とカカシは楽しそうに肩を揺らした。

「ホント、オレって友達少ない〜、さみしーことったら。」
「人巻き込んでおいて何ぬかしやがる。」

がっくりと肩を落としたアスマはくわえ煙草のまま煙を吐き出した。カカシは笑みを隠すように口布をあげる。人間、一生のうち、友と呼べる仲間を一人でも持てたら恩の字だ。なのに忍びである自分が、しかも写輪眼保持者であるにもかかわらず、秘密を共有できる仲間を四人も五人も得られた事自体、奇跡に近い。なにせ嫌になるくらい様々な思惑を持つ人間が群がってくるのだ。そんなカカシが友だけでなく、愛しい伴侶まで手に入れたのだから、やはり果報者と言うべきだろう。

「んふふ〜、イルカ先生しばらく動けないし、存分にいちゃいちゃしちゃおうっと。」

ぶちゅ、と頬にキスしてから、カカシはピュイ、と指を鳴らした。引いていた暗部達が姿を現す。

「そこに落ちてるもん、持って帰ってイビキに渡してくれる?」

暗部達はボロボロにされたササギの体とともに音もなく消えた。カカシは意識のないイルカを背におんぶすると立ち上がる。

「さ、帰りますか。」
「おぅよ。」

くわえ煙草の友人は大柄な体に似合わず軽やかに地面を蹴った。
口は悪いが気のいいこの男はまだ知らない。今後、カカシにお友達認定された全員がこの最強の三分間に巻き込まれる運命にあるとは。神ならぬ身の知る由もなかった。




三分間、最初はウルトラ◯ンにしようかと思ったけど、やっぱイルカせんせならラーメンでしょ〜、ってことで最強にして最凶のカップラーメン忍者に。「よくもオレの可愛い男を泣かせてくれたな」と凄むイルカ先生を書きたくなったのが運のツキ…どうしてこう、お笑いばっかなんでしょうねっ、いやもう、開き直ってるけど。おそらく、「もう、カカシさんってば」って乙女セリフを見た途端、全てを悟ってくださった同志も多い事かと…ふっふはははは〜(笑って逃げる)