「うわぁっ」



次の瞬間、クラピカはレオリオに押し倒されていた。
というより、押しつぶされていた。

床にひっくりかえったクラピカの上でレオリオは正体を無くしている。
キスしようと下を向いたのがいけなかった。
酔いが一挙にまわり、そのまま昏倒してしまったのである。

「いたたた」

後頭部をさすりながらクラピカはようやくレオリオの下からはい出した。

「大丈夫か、レオリオ」

声をかけるが、反応はない。急性アルコール中毒ではあるまいな、と様子をうかがい 、
大事ないことを確かめたクラピカは、レオリオの顔をのぞきこんだ。
ぽかりと口をあけ、邪気の無い顔である。

「しょうのない男だな」

ふっと笑みをもらし、眠っている男の鼻をつまむ。
レオリオはふがふがと鼻をならし、またぽかりと口をあけて眠り込んだ。

「いい男が台無しだぞ。ほんとうにお前は・・・」

そっとまぶたに口付けると耳もとにささやいた。

「そんなお前にわたしは心底惚れている・・・」




身長193cmの男は体がふわりと浮くのを感じた。
なんだかとても嬉しいことを聞いたような気がしてうっとりしていると、誰かが自分
を抱き上げたのである。

んっとによぉ、おれより20cmもちびのくせして、ばか力だけはありやがる。
今夜はおれがお前を姫だきしてベッドへ運ぶ予定だったのになぁ、
肝心要で酔いつぶ れた自分が情けなくなってくる。
しかし、体が動かない。

そうこうするうち優しくベッドに寝かされて、上着を脱がされネクタイもはずされた。
相変わらずまめな奴だよな、などどぼんやり考えていると、首まわりをゆるめられ、
レオリオはほっと息をついた。

「どうした、気分が悪いのか」

クラピカが心配そうに尋ねるが、レオリオは返事どころか目を開ける事さえできない。
レオリオは焦った。
今、なにか言わないと、まめなくせどこか鈍いクラピカのことだ、ゆっくり休めとか
なんとか言って部屋を出ていくに違いない。

そりゃあんまり今夜のおれが哀れだぜ。

そう思うのだが口からでるのはうーむ、うーむといううなり声だけである。
ふいっと、クラピカの気配が消えた。

ああ、いっちまいやがった・・・

体が沈み込む ような失望感に打ちのめされていると、再びクラピカの香りにつつまれた。
おやっと思う間もなく、唇に柔らかいものが押し当てられる。
つづいて、冷たい水が口の中にながれこんだ。
二度、三度、クラピカの唇がレオリオをつつみ、喉を潤してくれる。
レオリオは柔らかい恋人の唇と、そそがれる甘露を味わった。
自然と笑みがうかぶ。

「夢を・・・見ているのか・・」

愛おしそうにクラピカはレオリオの髪に指をさしいれる。
そして、深くくちづけた。
クラピカの温もりにつつまれて、レオリオは安らかな眠りにおちていった。

・・・たまには酔いつぶれるのも悪くねぇな、 などと、不謹慎なことを考えながら。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



夕べおれは・・・


翌朝、二日酔いの頭をかかえながら、レオリオは記憶をたどっていた。
意地になって千人斬りの話をしたまでは、はっきりしている。
自分の話しに苛立ちを隠そうともせず、にらみつけていた愛らしい瞳。
だがその後は、痛む頭のどこを探っても記憶が全くないのだ。

「情けねぇ・・・」

しかし、押し付けた枕の上で、疼く頭を押さえつつゆっくりと寝返りをうつと、
かすかにクラピカのにおいが、ぬくもりが残っていた。

「クラピ・・・カ?」

レオリオはシーツに顔をうめ、クラピカの残り香を吸い込んだ。

「添い寝してくれてたのか?、クラピカ」

嬉しそうに一人つぶやく。それにしても、もったいないことした。
ねむりこんじまうなんて、と、喜び半分、くやしさ半分でころがっていると、
勢いよ くドアが開いてお子さまコンビが飛び込んできた。

「話の続き聞いてやるぜぇ」
「レオリオ、ねぇ、レオリオ」
「だーっ耳もとで!!!!」

怒鳴ろうとしてそのまま頭を抱え込む。そしてささやくようにお願いした。

「耳もとで騒がないで下さい・・・」

青い顔でうずくまっているところに、クラピカが朝食を運んできた。

「二日酔いか、当然だな、調子にのって飲むからだ。 ゴン、キルア、過ぎたる飲酒のよい教訓だ。
この男を見ていると節度は美徳だと実感できる」

へらねぇ口っ、ほんとかわいげの無ぇと、心の中で文句をつぶやいたとき、クラピカ
がお子さまコンビに果物を買ってくるよう頼み、ベッドへトン、と腰をおろした。
そ して・・・


クラピカが食事を食べさせてくれた。
飲み物を抱きかかえて飲ませてくれた。
果物をむいてくれた。
優しくさすってくれた。


・・・おれ、夕べ怒らせたんじゃなかったっけ?。


合点がいかないことに、以来、いくらレオリオが千人斬りの話をしても、クラピカは
にこにこ笑って聞くようになったのである。

その理由はクラピカが大事に心の宝箱にしまっている。
レオリオの口説き文句とともに。



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レオリオ編、終了です。で、クラピカ編に続きます。いや〜、酒のんで何いちゃついてやがる、コノヤローってなもんですね。
はっはっはっ、「ウォンブル」さんで読まれた方、本買って下さった方はもう御存じでしょーが、クラピカ編はもっと甘いぞ。
しっかし、二日酔いってキツイですよね。飲み過ぎた時はもう一生酒なんか飲むもんか、って決意するんですけどねぇ。
なんで忘れちゃうんですかねぇ、人間って弱い…(いや、弱いのはお前の心だろう、ってなキツイお言葉はなしよ)