クラピがはじめてスイカを食べたこと





夏のはじめのある昼下がり、庭のけやきの緑の木陰。
小さなクラピは絵本を読む。レオリオも本を読む。
さやさやと、木の葉が揺れた。突然クラピが顔をあげ、レオリオに呼び掛ける。


「レオパパ、見てくれ。文献にある、スイカは赤くて甘いらしい。それにほら、ここに図解があるだろう。まったく図解とは便利なものだな。見知らぬものの色、形状を、より正確に把握できる。だが、レオパパ、ここが肝心。」


クラピは大きく息を吸った。大真面目な顔をする。


「いかんせん、資料だけでは質感、糖度を推測しがたい。想像の域を出られない。まあ、それはやむおえまい。いや、べつに食したい、などと考えているわけではないのだぞ。そんな子供じみた考えなぞ、このクラピカには無縁のものだ。だか、このスイカというもの、我々がすむ地域での入手は可能だと書いてある。ならばレオパパ、スイカなるものを購入し、食してみるのもよい体験だ。」


みると絵本に大きなスイカの絵があって、隣のページはおいしそうにたべる子供達。


小さなクラピはスイカを知らない。一度も食べたことがない。
黒い瞳のレオリオは、くすっと笑って絵本を返す。


「そうだな、クラピカ。実物をたべてみるのが一番だな」


クラピはすっかり嬉しくなって、にこにこしながら絵本を眺めた。





その次の日にレオリオは、冷やしたスイカを買ってきた。


「クラピカ、スイカだ。ほら、取れよ。」


冷やしたスイカを差し出され、小さなクラピの目が輝いた。


「レオパパ、クラピカが食べてもいいのか」
「クラピカのために買ってきた。」
「全部クラピカが食べてもよいのか」
「ああ、全部お前のスイカだ。いっぺんに食べるとハラこわすから、ちょっとずつ食べような」


嬉しくて、クラピは頬が真っ赤になった。
そしてあんぐり口をあけ、まるごとすいかにかぶりつく。そのまま目を白黒させた。

レオリオは慌ててクラピとスイカを離した。そして笑ってクラピを抱くと、半ベソかいてるほっぺを拭いた。


「クラピカ、スイカは切って食べような。」


包丁とってレオリオは、丸いスイカを二つに切った。
緑に黒の縞縞の、大きなスイカが二つに割れた。
中は真っ赤、真っ赤なスイカ。
それをもひとつ半分の、お月様の形に切って、小さなクラピはスイカを食べた。
甘い汁が口一杯。
冷たいスイカの実を噛むと、しゃりしゃりしゃりしゃり音がした。
黒くて小さなスイカの種は、庭に向かってぷぷっと飛ばした。
レオリオの種は遠くへ飛んだ。
クラピの種は近くに落ちた。
小さなクラピはレオリオに聞いた。


「レオパパ、スイカの種は芽をだすだろうか。」
「ああ、そうだな、だすかもな。」
「では、レオパパ、庭がスイカの畑になるな。」


レオリオは少し困った顔。
小さなクラピはスイカを頬ばり、ぷぷっと種を庭に飛ばした。



その夜、クラピは夢を見た。

飛ばした種が芽をだして、庭一面がスイカの畑。
大きなスイカがごろごろなった。
小さなクラピは嬉しくて、一生懸命レオリオを呼んだ。


「みてみろ、レオパパ、スイカが一杯。」


小さな両手をぱちぱちいわせ、クラピはスイカの畑を走った。




にこにこ笑ったクラピの寝顔。窓の外には今日食べた、スイカの形のお月様。 眠るクラピを照らしている。
そっと布団をかけてやり、黒い瞳のレオリオは、額に優しいキスをした。


小さなクラピ、よい夢を。



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サカモトエデンのカミンさんのイラストがあんまり可愛かったので無理矢理押し付けちまったお話に加筆修正したものです。カミンさんのサイトはずいぶん前に閉鎖されたのですが、カミンさん、あのイラストくだせぇ〜〜。素敵な絵を描かれる方だったので、なくなってしまって号泣したものです(今でも涙)この話がきっかけで「小さなクラピ」ができたようなもの。次は「クラピが綿飴を食べたこと」の予定。(言っといて忘れるなよな、オレ。ちゃんと書け)