それいけ、バカップル5
夜中にふと目が覚めた。
腕の中で眠っているはずの恋人の姿がなかった。
水でも飲みにいったか…?
レオリオはベッドから降りた。僅かに開いたドアの隙間から、居間の灯りが漏れている。なんとなくドアへ歩み寄ると押し殺したクラピカの声がした。
電話?こんな夜中に?
時計は夜中の二時をさしている。仕事の依頼だろうか、耳を澄ましたレオリオは次の瞬間、凍り付いた。
「そうだ。心の奥底に沈んだ憎しみが共鳴して融合するのだ。」
囁くような、しかし、はっきりとしたクラピカの声。
憎しみ?融合?何のことだ…
レオリオの心臓が早鐘を打ち始めた。クラピカの言葉がとぎれとぎれに聞こえてくる。
「…たとえそれが邪悪なものでも……殺されたから……憎しみは消えない…」
なんだ、何をいっているんだ、クラピカ…
血の気が引いていく。レオリオの喉がごくりとなった。
そういえば、今回はやけに上機嫌で帰ってきた。居合わせた悪友どもにも笑いかける程。土産といって大量のアニメグッズをとりだしたが、あれは何かの予兆だったのか。クラピカ、何をしようとしているんだ…
「…ああ…そう…心の底の憎しみが命を奪う……己のやったことを忘れてはいない…」
いけない、クラピカっ。
レオリオの背中を冷たいものが流れた。クラピカは怒りと憎しみに我を忘れてとんでもないことをやろうとしている。
だめだ、だめだクラピカ。人の心を忘れちゃいけないっ。
「……融合して強大な力を得られる…」
「クラピカーーーッ」
レオリオは飛び出していた。電話の受話器を持ったまま、目を見開くクラピカを抱きしめる。
「クラピカ、いけねぇっ。何があったのか知らんが、お前、人の心を捨てる気かっ。」
レオリオは必死だった。おそらく旅団か緋の目がらみで何かあったに違いない。クラピカを止めなければ。
「強くなったって、目的をはたしたって、それじゃ何にもなんねぇだろうっ。お前がお前でなくなっちまったら…」
「あ…すまない、なんか…いや、わからんがまたかける。」
「馬鹿やろうっ。まだそんな電話…」
「そうだ、ガメラ3だぞ、金子修介監督のやつだ、じゃ、また。」
「ガメラなんかガメラ…は…?ガメラ……?」
チン、と音を立ててクラピカは部屋の旧式電話の受話器をおいた。レオリオはクラピカの首筋から顔をあげる。
「………ガメラ?」
「違う。ガメラ3だ。」
「え〜っと…あの…」
「だから、ガメラ3の話をバショウとしていたんだ。」
「……………は?」
「時差があるからしょうがないだろう。ファックス付きの電話に早くかえろ。不便でかなわん。」
「あの〜、さっきの…融合とか…」
「ガメラ3をみたら教えると約束していたからな。バショウの都合のいい時間が午前中だったから、今電話したんだ。それがどうかしたか?」
いや、どうかしたかといわれても…
「なにを一人でわめいていたんだ?」
レオリオはへなへなと座り込んだ。クラピカはあきれ顔で笑った。
「ははあ、恐い夢でも見たか。案外子供だなぁ、お前も。」
ほら、一緒に寝てやるから、と手を取られて、レオリオは素直に従った。もう、反論する元気もなかった。
しかし、レオリオはふと思う。自分は心の奥底にいつも不安をかかえているのだろう。クラピカを失う恐怖を。今の電話は確かに恐い夢のようなものかもしれない。ベッドにもぐると愛しい人が無邪気に言った。
「明日、お前にもガメラ3の話してやるからすねるな。」
人の気も知らねぇで…
レオリオは恋人の柔らかい頬に鼻先をすり寄せた。クスクス笑いが聞こえる。
恐い夢が現実にならないように…レオリオには祈ることしかできない。クラピカを両手に抱き込んで、レオリオは静かに目を閉じた。
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おお、今回、シリアスじゃあないか、バカップル。ま、たまにはね。
金子修○監督、大好きなんです。ゴジラvsモスラvsキングギドラ、名作だったぞぉぉぉぉっ。