それいけ、バカップル3




ある日、レオリオはカップボードの中に見なれない人形を二体みつけた。

一体は腕を組んで立つ黒髪の若い男、もう一体は片手を下に突き出すようにして身構えた灰色の髪のやはり若い男。どちらも黒の上下に深緑のベストを着た7〜8センチの人形だ。クラピカのマグカップの横にちょこりとおいてあった。

「クラピカにこんな趣味あったか?」

首をひねりながら、レオリオは人形を手に取った。見れば見る程、変な人形だ。おまけに変な顔をしている。

「あ、見つかったか。」

振り向くと、クラピカがにこにこ笑って立っていた。見つかったかも何も、こんなところに置いてあれば見つけるなというほうが無理なように思えるが、要するにクラピカはこの人形をレオリオに見つけて欲しかったのだろう。

「あ〜、やっぱお前のか?クラピカ。」

嫌な予感がする。レオリオは恐る恐る聞いてみた。

「な…何なんだ、こりゃ。」
「カカシ先生とイルカ先生のフィギュアだ。」
「…………は?」

レオリオの脳裏に忘れ去ってしまいたい記憶がフラッシュバックした。
そういえば数日前、田畑の人形と海洋哺乳動物の愛についてクラピカに熱弁を振るわれたような気がする。ビシリ、と固まったレオリオの様子を気にとめるふうもなく、クラピカは得意そうにいった。

「いいだろう?今度はハンゾーが送ってくれたんだ。同じ忍者として、あいつも無関心ではいられないようだぞ。」


無関心でいられないって…だって、だって、アニメだろう…


心の叫びを声に出せず、ただ呆然とするレオリオの手から人形を受け取ると、上機嫌でクラピカは説明をはじめた。

「こっちがカカシ先生だ。雷切のポーズでな、かっこいいだろう?中に小さな菓子とアニメイラストが入っていたのだがな。」
「………かっこいい……?」


目、たれてるじゃねぇか、この人形…


レオリオはまじまじとクラピカの手の中の人形を見つめた。


これをかっこいいというのか、お前は、クラピカ。


「それでだ、レオリオ。そのイラストに添えられた文句がまたいいのだぞ。『オレが写輪眼だけでこの世界を生き抜いてきたと思うか』う〜ん、一度このように言ってみたいものだな。『私が緋の目だけでこの世界を生き抜いてきたと思うか』うん、なかなかだ。どう思う?レオリオ」


いつ、誰に言う気だ、クラピカ…


レオリオは心の中で突っ込みつつ、もう一体の人形に目を移した。


「あ、それはイルカ先生だ。そのイラストの文句はだな。」


いや、べつに聞きたくねぇ…


「おい、聞いているのか、レオリオ。」
「……はいはい、聞いてるって…」


レオリオは諦めた。こうなったらもう誰もクラピカを止められない。


あのクソつるっぱげ忍者、余計なものをクラピカに送りやがって。
怒りの鉾先はハンゾーに向くが、所詮、ここにはいない人間だ。怒りをぶつける手段がない。クラピカは嬉々として続ける。

「たしか『ナルト、お前には負けられないな!』だった。十二才の子供に、イルカ先生も大人気ないこと言うもんだ。」

あっはっは、とクラピカは豪快に笑う。力なく笑い返しながらレオリオは固く決意していた。何があってもクラピカをハンゾーだのバショウだのがいるあの国にやるものか。オレの愛しい恋人の心を奪いやがって、絶対絶対ゆるさねぇ。


「あ、ところで、レオリオ。私達によく似た人形もあの国では売られているそうだぞ。なかなか人気があるという話だが。」
「………へー。」


ちょっとは見直してやってもいいかな、などと思い返したレオリオの気分は、次の瞬間、打ち砕かれた。

「お前によく似た人形だけはすぐに販売されなくなったそうだ。人気がなかったとバショウが言っていたな。」

私に似た金髪の人形は人気があるらしいから送ってもらおうかな、などとクラピカは呑気に笑う。

そーかいそーかい、やっぱあの国は徹底的にオレの敵だ。オレは絶対あの国からクラピカの心を取り戻すんだ。
悲壮な決意を固めるレオリオの後ろで、クラピカはイルカとカカシの人形をカップボードに飾りなおしている。道は遠く、そして険しい。


がんばれ、レオリオ、負けるな、レオリオ、レオリオ、ファイトッ。


自分自身にエールを送りつつ、レオリオはクラピカを黙って抱きしめた。


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レオリオ君、苦労してます。そして、彼の受難はまだまだ続く。ちなみにレオリオ、人形についていたラムネ菓子をクラピカさんからもらって食べたそうです。木の葉のマークがついた十円玉くらいのラムネがはいってるんだよね、あれ。