ピカデレラ......その2
お城では美しいもみあげのレオリオ王子がうんざりした顔で座っておりました。
街の娘達や近隣のお姫さまたちはそれぞれに着飾っているのですが、レオリオ王子の目には入りません。
なにより王子を辟易させたのは、もみあげにリボンをむすんだ娘達でした。これみよがしに強靱な肉体と見事なもみあげを誇示されてレオリオ王子はすっかり参ってしまいました。
「くそっ、この町にゃまともな女はいねぇのか。おれ好みのグラマー美人とかよ。」
王子の関心がむかないことにしびれをきらしたのか、突然、上の娘のウボォが吠えはじめました。下の娘のバショウは訳のわからない歌を唸りはじめます。たまらずレオリオ王子は庭に逃げ出しました。
と、お城の庭の植え込みの側で、丁度ピカデレラがドレスに足をとられてよろけていました。
「おい、あぶねぇな。」
レオリオ王子はころびそうになったピカデレラの腕をとりました。
「大丈夫か、気をつけろ。」
「す…すまない。慣れぬ服ゆえ、迷惑をかけた。」
見上げてきたピカデレラを見て、レオリオ王子はどきりとしました。大きく澄んだ瞳をしています。これまでみてきたどんなグラマー美人にもこれほど心を揺さぶられたことはありませんでした。どぎまぎしながら王子は名乗りました。
「お…おれはこの城の、いちおー王子やってるレオリオってんだが…」
「そうか、お前がこの『ぶとうかい』の主催者か。ならばかなりつかえるはずだな。丁度よい。手合わせ願おう。」
「えっ。」
レオリオ王子はうろたえました。
「その、いきなり手合わせって、おれ達まだ会ったばっかで、いや、そりゃおれとしちゃ嬉しいが、その…」
真っ赤になったレオリオ王子は、それでもピカデレラの率直さを好もしく思いました。会ったばかりだが、この娘とならば…そうだ、これは運命の出合いなのだ、感激に胸震わせた王子が愛の言葉を紡ごうとしたその時、ピカデレラの鉄拳が炸裂しました。ぐはっとのけぞる王子を更に凄まじい蹴りが襲います。王子は植え込みの間にふっとばされました。
「なんだ、『ぶとうかい』の主催者だというからかなりの使い手かとおもえば、たわいない。」
「ななななんで、舞踏会で殴るんだっ。」
「?武闘会ならば当然だろう?」
「…舞踏会。」
「………」
「…私の勘違いだ。帰る。」
「おおおおいっ、人殴っといてそりゃねーだろっ。」
レオリオ王子は慌ててピカデレラを引き止めました。ピカデレラはむっと立ち止まると
「…非礼を詫びよう。すまなかった。では。」
そう言ってさっさと歩み去ろうとしました。
「いてっいてててて、殴られたところが痛くて動けねぇ。」
突然、レオリオ王子が苦しそうに呻きました。さすがに良心が痛み、ピカデレラは戻って王子を抱き起こしました。
「すまなかった。痛むか?」
レオリオ王子はピカデレラの甘い香りにうっとりとしました。胸はねぇけど、こんないい女、みたことねぇ、王子はピカデレラを妃にしようと心に決めました。そしてそっと頬に手を伸ばしました。
「?どうした。私の頬になにかついているか?」
一目惚れってやつをおれは今日の今日まで信じちゃいなかった…
レオリオ王子はうっとりとピカデレラに見愡れました。王子に見つめらたピカデレラは、胸の高鳴りを感じてとまどいました。よく見ると端正な顔をしています。優しい目をした男です。美しいもみあげをしています。ピカデレラは二人の姉のせいでもみあげが大嫌いだったのですが、この男のもみあげは好もしいと思いました。
「も…もう大丈夫そうだな。では、私は失礼する。」
どぎまぎしてピカデレラは立ち上がりました。
「ちょっちょっと待てって。」
大慌てでレオリオ王子はピカデレラの手をとりました。はっとして振り返ったピカデレラの目を王子がまっすぐ見つめています。ピカデレラは手を引こうとしました。しかし王子は離しません。
「手…手を…」
ピカデレラは蚊の鳴くような声で言いました。