ピカデレラ......その1





むかしむかし、あるところにピカデレラという美しい子供がおりました。


ピカデレラのお母様はずいぶんと昔に亡くなられてしまったので、お父様は新しいお母様をお迎えになりました。
新しいお母様のお名前はクロロといい、ウボォとバショウという二人の娘がおりました。クロロお母様の二人の娘には、それは見事なもみあげがございました。

「みてごらんよ。オレの娘達を。そのもみあげの見事なこと。」

ことあるごとにクロロお母様は自慢なされ、もみあげのないピカデレラを疎み、つらくあたりました。そして、お父様が病気で亡くなられると、ピカデレラに粗末な服を与え、屋根裏においやりました。
「おまえには台所仕事をやってもらう。」
ピカデレラは悲しみました。しかし、気丈な子供でした。
「天国のお父様、お母様。見ていて下さい。このピカデレラはお二人の言葉を忘れずに日夜励んでおります。水汲みも暖炉の掃除も恐れはしない。ただ私が恐れるのはこの思いが風化することくどくどくど。」

少々くどいところがありました。

ピカデレラは長じるにしたがって、たいそう賢く、美しくなりました。白磁の肌に金色の髪を輝かせたピカデレラの美しさは粗末な服を着ていても人目をひきました。それで、クロロお母様はますますピカデレラにつらくあたるのでした。


☆☆☆☆☆☆


ある時、お城で舞踏会がひらかれるとのおふれがありました。町中の若い娘達は色めき立ちました。何故なら、黒髪の美しいもみあげで知られたレオリオ王子のお妃を舞踏会で決めるというのです。
クロロお母様はピカデレラに命じました。

「ピカデレラ。このドレスをきれいに仕上げろ。オレのかわいい娘達のもみあげが美しく映えるようにだ。」
「現在の私は法律上あなたの子という立場にある。したがって子としての義務を果たすため、ドレスを仕上げろという命令を受け入れよう。だが、私も『ぶとうかい』にでる権利があることを認識しているのかどうか、あなたに確認したいのだが、お母様。そもそも、義務と権利についての概念をあなたが正確に把握しているのかどうかはなはだ疑問にくどくどくどくど」
「少し黙れ。もみあげもないくせに。お前は暖炉の灰の掃除でもしていろっ。」

クロロお母様はピカデレラの弁説が苦手でした。まだ話は終わっていないぞ、というピカデレラの声を背中に受けながら、急いで台所を出ていかれました。
いよいよ舞踏会の開かれる日、二人のお姉様は自慢のもみあげに美しいりぼんを結び、大声で喚きあいながらお出かけになりました。ピカデレラは悲しくなりました。
「ああ、私も『ぶとうかい』で思う存分おのれの腕をためしてみたいものだ。」
「じゃ★ボクと取り引きしないかい・」
驚いてふりむくと、そこには顔に涙と星のメイクをほどこした背の高い男がトランプを持って笑っておりました。

「お前は誰だ。」
「魔法使い・」
「魔法などという非科学的な事象に対して私は…」
「気に入らないなら奇術師でいいよ・」
「待て、言い方をかえればいいというものではない。お前がどこの誰で何が目的で私に近付いたのか明確な説明を求める。」
「キミ」行きたいんだろ・ぶとうかい◆」
「う…たったしかに…」
「じゃ◆交渉成立・」

奇術師はトランプを宙にひらめかせました。するとピカデレラの粗末な服が見事なドレスに変わったではありませんか。
「なっなんだっ、このドレスはっ。このようにひらひらしていては足がもつれるではないか。だいたい私は…」
「今度はこっち・」
ごちゃごちゃ言いつのるピカデレラを無視して、奇術師はまたトランプをひらめかせました。するとまた、不思議なことに、カボチャが美しい馬車になりました。
「いけないいけない」馬車を引く馬を忘れるところだった・」
今度は台所の隅にいたねずみ達が白い馬に変わりました。
「はい・これでキミはぶとうかいにいける・」
驚きで口をぽかりとあけているピカデレラを奇術師は馬車に押し込みました。
「十二時までに戻っておいで・でないとボクの魔法、とけちゃうからね・」
そう言うとピシリと馬に鞭をあてました。
「ちょっちょっと待て。貴様の目的は何だ、まだ私は…」
我にかえったピカデレラが馬車の中から叫びましたが、すでに屋敷は遠く離れ、奇術師の姿も消えておりました。