それいけ、バカップル4
「でもよ〜、綺麗な人だよなぁ、クラピカさんってさ。」
部屋へ遊びに来ている悪友の一人がしみじみと言った。
「顔だちは可愛い系なんだけど、雰囲気が綺麗っつーかな。」
「あー、そうそう、なんかこう、クールなんだよ。」
「めったに笑わないしな。」
オレの親しい学友どもは当然何度かクラピカに会ったことがある。街で一緒にいるときだとか、こいつらが部屋に来ている時にクラピカが帰ってきたりだとか。オレにゃただのぶっきらぼうにしか見えないクラピカの態度もこいつらにとっちゃ「綺麗でクール」ってな風にうつるらしい。
「そんでも、オレ、この間、クラピカさんに笑いかけてもらったんだぜぇ。」
なんだとぉぉっ、と悪友どもが騒ぎ出す。羨ましいだのなんだの、あいつの笑顔がそんなに珍しいかね。まぁ、クラピカの奴は外じゃめったに笑うことはねぇけど、結構ケラケラしてんだがね、家ン中じゃ。
お、やかんが鳴っている。オレは連中にカップ出しとくよう言って台所へ入った。
と、素頓狂な声が飛んできた。
「なんだぁ、レオリオ、お前、何飾ってンだよ。」
しまった、
オレは慌てて居間へ取って返した。が、時すでに遅く、カップボードの中に所狭しと並べられたクラピカのコレクションが衆目に曝されている。そう、カカシにイルカ、最近ではハクだのザブザだの訳のわからん名前の人形が加わった、あの忌々しい東の国のキャラクターフィギアだ。
「お前、こんなオタクなことやってっとクラピカさんに呆れられるぞ。」
いや、だからそりゃクラピカの…
「おい、レオリオ、なんだよこのナルトパラダイスって紙きれ、まとめてあるけど。」
クラピカの奴〜、捨てろっつったのによりによってフィギアの側に飾りやがったかっ。
「あ〜、そのフィギアについてた用語説明で…」
墓穴ほってどーするよ、おれ…
「お前、人形の箱までとってあるのか。いい加減にしないとほんとにクラピカさんに捨てられるぞ。」
「そーだよ、ただでさえクラピカさんみたいな人がなんでお前の恋人なのか不思議なんだからよ。」
おれにゃなんでお前らがクラピカを神聖視すんのかそっちのほうが不思議だぜっ。ああ、だけど、今さらそのコレクションはクラピカの趣味です、なんて言えねぇよなぁ。
「んっとに、しょーがねぇなぁ、レオリオは。」
うるせーーーーっつの。
だいたい、春にクラピカが賞金首追ってあの国に行ったのが不幸の始まりだった。賞金首のほうはとっととカタがついたようでそりゃよかったんだが、妙に時間があるとろくなことがねぇ。バショウとハンゾーに連絡入れて、アニメショップめぐりなんぞやらかしやがった。当然、上機嫌で帰ってきたあいつの荷物は大半、田畑に立てられる人形と海洋哺乳動物の、つまり、「カカシ先生」と「イルカ先生」グッズで占められていたわけで…
パソコンの隣にはカカシとイルカの、略してカカイルっつーらしいが、とにかくそいつらの絵がかいてあるマウスパットがある。カップボードの中を大量のフィギアが占拠したのは言うまでもなく、クローゼットにはタオルとハンカチ一式、ベッドサイドには、おれはこれが一番許せねぇ、でっかいアニメポスターが貼ってあるのだ。
…萎えるだろ…フツー。
悪友どもはクラピカが今度いつ帰ってくるのか騒いでやがる。ああ、もうすぐ帰ってくるはずだよ、予定じゃな。またあの国に行っているクラピカが今度は何を持ち帰ってくるのか、お前ら、現場に立ち会わせてやるからな。くそぉっ、そしておれは何が何でも恋人の心を取り戻すんだ。あんな田畑人形と海洋哺乳動物に負けてたまるかよっ。
眉間に皺をよせ、握りこぶしを固めたレオリオを学友達は気の毒げに見つめていた。と、その時、玄関のドアがガチャリと開いた。
「いるんだろう、レオリオ。」
「クックラピカァッ。」
「ああっ、クラピカさんっ。」
「おかえりなさいっ、クラピカさんっ。」
クラピカはレオリオの学友達にいらっしゃい、と微笑むとスーツケースをドンと置く。そして、呆けたままのレオリオに満面の笑みを向けた。
「土産だ、レオリオ。喜べ、大収穫だったぞ。」
スーツケースの中からは、数々のカカイルグッズにビデオとコミックスとなにやらいかがわしい雰囲気のぺらぺらつるつるした本の山。レオリオが真っ白になっている間に、学友達は黙って納得していた。
オタクな恋人のために買うのも恥ずかしいだろうこんなものをちゃんとお土産にするクラピカさんってなんて素敵な人だろう…
気をきかせて学友達は早々に帰っていった。
レオリオが灰から蘇った時には、かの国での素晴らしい体験を話したくてウズウズしている恋人だけが目の前にいた。そして、仲間にとんでもない誤解が定着してしまったということを、レオリオはまだ知る由もない。
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クラピカさん、それ、腐女子の道ですってば、っつー突っ込みはなし。クルタ族には新鮮なんですよ、ジャパンのサブカルチャー。
