「サイボーグ009」


2002年、石ノ森章太郎先生の傑作、サイボーグ009のアニメシリーズが一応の完結をみた。別シリーズの009を数話だけ(つまり、石ノ森先生が残したぶんだけ)放映するそうだが、とりあえず長きにわたったブラックゴーストとの戦いに終止符がうたれることになったのだ。

初回からたいそう質のよいアニメだった。声優さんもいい。音楽も場面にビシッとはまっている。シリーズ完結話の出来が悪いはずがない。予告をみたときからすっかりわくわくだ。


完結話当日、楽しいNHKアニメ、ワンニャンで気を紛らわしつつ六時半を待った。そしてついに時計の長針が6を指す。いよいよサイボーグ009完結話の時間だ。

話はヘレンやビーナ達、同じ顔の美人五姉妹がボクートに虐殺されるシーンから始まる。

おお、今日はオープニングなしかい。スタッフ、かなり気合いはいってるぜ。


画面一杯、ボクートに撃たれて倒れるビーナが大写しになる。ビーナの瞳のなかに映る人影は

004ことアルベルト・ハインリヒ。

先週までの展開で二人の間には愛が芽生えていた。ビーナの目に溢れる涙、そして微かに唇がわななき、愛しい人の名が紡がれる。

アルベルト…

                  『地上(ここ)より永遠に』


「ビーナーッ」と004が絶叫する中、題名が静かに提示される。

『地上(ここ)より永遠に』

…すでに涙と感動に満ち溢れているではないか…

早速スタンバイしていたバスタオルが役にたつ。フェイスタオルではとても感動の涙は拭ききれまい。
一方、美人五姉妹のもう一人の主要人物、ヘレンの名を叫んだのは当然、
主人公009こと島村ジョー。

それから我らが永遠のヒロイン003、フランソワーズ・アルヌールも悲鳴をあげた。彼女はヘレンが009にあからさまな好意をよせるもんだから、ちょっと嫉妬して冷たくしちゃっていたのだ。で、なんとなく後ろめたかった。だから、ヘレンが撃たれたときのショックが大きかったのだ。

素直でいい子だなぁ、フランソワーズ。

そんな君だから、もう世界は君にメロメロだよ。

同じ顔の後の三人の名は呼ばれることがない。でもまあ、これはしょうがない。サイボーグ戦士達とかかわってないから名前も覚えてもらってないしね。

怒った009はボクートに突進する。銃をむけるボクート。その時、倒れていたヘレンがボクートの足にしがみついた。

あんたもけなげだよ、ヘレン。初恋だったんだもんね。

動きの止まったボクートに009の銃弾炸裂、ていうか、あの光線はなんなのかよくわからないのだが、とにかく009の銃があたった。
だが、ボクートは強かった。ダメージほとんどゼロかい、つうくらい平気な顔をしていた。向かっ腹たてたボクートは至近距離で再度ヘレンを撃つ。

やだねぇ、ボクート。ヒステリックな男はもてないよ。
別番組じゃポケモン川柳呑気に詠んでるくせにねぇ。

怒りに燃える009。一挙に戦闘状態突入である。

気の毒なのは004ことアルベルト・ハインリヒだ。
せっかくビーナとの間に愛が芽生えたっていうのに、愛しい人は虫の息。同じ顔が五人も倒れているが、004は迷うことなくビーナに走り寄る。

愛の力だねぇ。

いや、服が他と違うから当たり前だ、だなんて野暮なことは言うまい。
たとえ五人、同じ服を着ていたとしても君はビーナを見つけだすだろう、見つけだすよね、いや、そう信じているよ、アルベルト。

ああ、愛しい人が駆け寄ってくる、ひたすら見つめるビーナ。抱きかかえるアルベルト。その胸の中でビーナはなんとも清らかな涙をこぼす。
「アルベルト…あなたとここを…」

な…泣かせるじゃあないか。愛だよ、乙女だよっ

004と言わず、本名を呼ぶことで愛を伝えるこの純情。昨今の、好きだと言ったか言わないうちにベッドへ直行する若造ども、これを見てしかと愛について真面目に考えてみるがよい。


先週、スカール達に捕まって処刑されそうになった004とビーナの会話がここで生きてくる。
もうだめだ、絶体絶命、という場面で、すっかり観念したビーナは004にむかって必死に叫ぶ。

「あなたの名前を教えてっ。004」(注・録画してないのでセリフはうろ覚えです)

ビーナの上で縛られたまま、004は叫びかえす。

「あきらめるなっ。」

「お願い、教えてっ。」(もう必死も必死)

「……アルベルト…」

(とっても嬉しそうに笑うビーナ)「アルベルト…」

00ナンバーでしか普段呼び合わないサイボーグ達、そしてナンバーしか教えられていない部外者の自分。だからこそ、惚れた男の本名が知りたかった。そして男は教えてくれた。
アルベルト…名前を呼ぶのは愛の言葉を紡ぐのと同じなのだ。それゆえ、死ぬ前の「アルベルト…」がますます心に響く、ず〜ん。

哀れ、ビーナは愛しいアルベルト・ハインリヒの胸のなかで息をひきとってしまう。004は悲しみに絶叫。
たしか、004って、ブラックゴーストに捕まる前、東側から亡命しようとして新婚ほやほやの奥さん亡くしているんだった。ヒルダ…だったか…これで二度目とは、石ノ森章太郎先生、案外サドだ。

あとの三人は必死でお互いの手をとろうと這い寄るけれど、力つきて死んでしまう。その手を重ねてやり、ぽつりと呟くのは006。天国では誰にも支配されないね、と。

そうだねぇ、君たちには何にもいいことなかったしねぇ。恐い思いばかりの人生で、他の二人の姉みたいに恋することもなかったしねぇ。その点、ビーナは一番幸せだったか。なんたって恋した男が自分を好いてくれたと自覚できたんだから。
ヘレン、君も美人だったが相手が悪かった。我らがヒロイン、フランソワーズ・アルヌールが恋敵じゃあ勝ち目はないよ。

004はそっと死んだビーナの涙を指でぬぐってやる。冷たい機械の指。だが、ビーナはその手を両手で包み、温かいと笑ってくれた。ぐっと耐える004の表情
し…渋いっ…。

まわりでは、009とボクートの凄まじい戦闘が繰り広げられていた。彼は叫ぶ。

「009、そいつはおれにやらせてくれ。」

しかし、相手はめっちゃくちゃ高性能のサイボーグ。加速装置をもたない004になす術はなく、009も苦戦。援護しようにも見えるのは周りにたつ土ぼこりのみ。そのとき、004が静かに目を閉じた。聞こえてくる加速装置の音。一つは聞き慣れた009のもの。そしてもう一つ…

「そこだっ。」

かっと目を見開き(黒眼はないけど)、004は五本の指から怒りの銃弾をぶっぱなす。土ぼこりがおさまり、004の背中ごしにばったりと倒れるボクートの姿。

お見事っ、004。

どんな武器にあたっても涼しい顔をしていた彼がなんで指の銃弾だけでやられた?という突っ込みはこの際やめよう。
そして、同じ絵のまま、画面半分を占める004の背中のそのまた背後に、一陣の風とともにあらわれる009の背中となびく黄色いマフラー。

う〜ん、かっこいいぞ。

聞き慣れた音と違う音があったからわかった、と微かに笑う004。長いつきあいだからな、と。

しぶいっ、しぶいぞ、004。黒眼はないけれど、ハンサムガイじゃあないけれど、いい男だぞー、004っ。

どこからふいてくるのかは知らんが、ざざーと吹きわたる風に二人のマフラーがたなびくたなびく。

か〜〜〜〜っ、かっこよすぎるぞ、お前達ーっ。

ほっとしたのも束の間、轟音とともにブラックゴーストの魔神像が姿を現す。響き渡るスカールの高笑い。
もう遅い、00ナンバーどもよ、人類は破滅へのカウントダウンに突入した、とかなんとか宣うスカール。

気持ちよさそうだねぇ、スカール。なんたって完全勝利だもんな。若本さん(スカールの声)、ノリノリだ。オオキド博士が(ボクートの声)やられても、ぜ〜んぜん関係ない。

相変わらず自己中だ、さすがだぞ、悪の権化、悪者スカール。

ようするに、お花のオブジェでカムフラージュした大陸間弾道ミサイルがすでに世界中に配置してあるので、スカールさんはこれから魔神像で宇宙空間にとびだして、それらを発射するつもりらしい。各国のお花のオブジェはすでにカムフラージュを解き、ミサイルの姿をあらわしてしまっている。警備していた兵隊さん、びっくり、各国の首脳もびっくり。

「ブラックゴーストの悪企みが明らかになれば人類は戦争なんぞするものかっ。」
ギルモア博士が噛み付くが、スカール、それを軽くせせら笑う。
超音波なんちゃらかんちゃらって、人類の科学では計りしれないブラックゴーストの科学を使うから大丈夫なんだそうだ…いや…よくわからん …そうだよね、あんな、ロケットに程遠い形の魔神像を、開閉式の鳥の羽みたいなもんくっつけたあの巨体を大気の摩擦関係なしに宇宙空間に発射できてしまうんだもんね。いや、さすがブラックゴースト、やることもできることもひと味違うぞ。

歯がみするサイボーグ戦士達。だが、スカールはそんなサイボーグ達へ憎々しげに捨て台詞残して飛び立ってしまう。

人類はもう終わりなのか、サイボーグ戦士達の戦いは無駄だったのか、結局はブラックゴーストが勝利してしまうのか。
しかも地下帝国の動力源に爆弾がしかけられており、あと少しで爆発する。もうだめだ…
その時、立ちつくす009のかたわらにそっと003、フランソワーズが寄り添ってきた。009にほんのりと微笑み、腕をとる003。最後の最後だから、フランソワーズは寄り添うことで想いをつたえたのだ。
い…いじらしい…。奥ゆかしく、いじらしい姿じゃないか。そして009、島村ジョーもフランソワーズの想いに応えた。

く〜〜〜〜〜〜〜っ、いいじゃないっ、いいじゃな〜〜いかっ。二人の間に言葉はいらないっ。心は通いあったよ、おふたりさんっ。


そのラブラブな雰囲気に突然水を指す001の声。

「009、君にかけたい。」

009にだけ語りかける001。フランソワーズの手をしっかりと握ったまま、ジョーは決然と001に頷く。
そしてジョーは愛おしさをこめてフランソワーズをみつめると優しく微笑みかけ、ぎゅっと手を握りしめるのだ。はっとジョーを見上げるフランソワーズ。次の瞬間、二人の手が離れた。001によって瞬間移動する009。驚く003が何かを言う間もなく、爆発する地下帝国から脱出するため001は他の皆を瞬間移動させる。

海上にでたとき、当然009の姿だけがない。動揺するサイボーグ戦士達。だが、もう一度移動しないと地下の爆発に巻き込まれる。

「皆、意識を集中して。もう一度跳ぶよ。」

…001、赤ん坊のくせに相変わらず冷静である。

安全な海域に移動したとき、遠くに地下帝国の爆発をみる。
崩れていく地下帝国の映像はせつない。
お約束を絵に描いたとはこのことかっつーくらい、お定まりの展開にもかかわらず、真っ赤なマグマにのみこまれていく美人五姉妹と宮殿の残骸は本当にせつない。
ステロタイプな表現というものは、力のある人々の手にかかると燦然と輝きを放つ。だからこそ、悪口をいわれるまでに定着するのだ。力量のない作り手ほど奇をてらうのかもしれない。ほんとに、このサイボーグシリーズをみるとつくづくそのことを感じてしまう。

一方の009は気がつくとブラックゴーストの魔神像のなかにいた。ここからは戦闘シーンである。

速いぞ、ジョー、強いぞ、ジョー。なんたって相手は下っ端だ。負けるな、サイボーグ009。

とうとう009は敵の中枢部にたどりつく。そこで彼をまちうけているのはもちろん、悪者スカール。
だが、なにより009はスカールの後方斜上45°をみて驚愕する。そこには透明な半円ケースにはいった三体の巨大脳みそが、様々な管をくっつけた柱上に鎮座ましましていたのだ。

これこそがブラックゴーストの本体だった。

「これが…こんなものが…」

衝撃をうける009。

こんなものとおれ達は闘っていたのか、こんなものが世界に悲劇を引き起こしてきたブラックゴーストの本体だというのか。こんなものに愛も優しさも引き裂かれて、おれ達は…



あ〜、ジョ−君、もしもし、ひたっとるところ悪いんだがね、君たち、もっとすごい格好のサイボーグや化け物達と戦ってきたんじゃないのかね。一応、目の前にあるのは、サイズでかいとはいえ人間の脳みそなんだし、もともと物を考える部位は脳みそなんだからして、そうショックうけなくてもいいんではないかい?妥当な線だよ。
もしも目の前にスネ毛のはえた巨大な足がどど〜んと置いてあって、これがブラックゴースト本体です、って言われるほうがなんぼかショックだと思うがね。



…いや、多くは語るまい。驚きに眼をみひらく君は本当にかわいいよ、009。
そして、その可愛らしさに嫉妬した、いや、違うか、とにかく悪の権化スカールが猛然と攻撃してきた。強い、すっごく強い、オオキド博士(注・ボクート)なんかより凄まじく強い。
反撃した009に腹を立て、生意気よーっとばかりに自ら衣服を脱ぎ捨てたスカールはすごかった。
脱いだらもっとすごかったスカール。(古っ)黒光りのボディが自慢?

貴様は純粋悪のなかに入ってきた虫けらだーっ、
ならば僕は悪の中に入り込んだ善だっ

とかなんとか罵りあいながら戦闘は続く。
スカール、そんなに暴れたらロケット壊れちゃうよ。能力差は歴然なので、スカ−ル、ちょっと油断した。その隙をついて必死で反撃した009がついにスカールの頭をふっとばす。正確には蹴っとばした。

ころころ転がるスカールのどくろ頭。ほっとする009。

だが次の瞬間、スカールの胴体が高笑いして向かってきた。首がないのにどっから声だしてんのよ、きゃ〜〜〜〜っ。(いや、そういう問題じゃないって)

「おっお前はロボットなのかっ」

またまた驚愕する009。

…ジョー、だからさ、もともと化け物みたいな奴だったじゃない、スカールは…

生身の人間だったらかえってびっくりだって。サイボーグかロボットってフツーは思うだろ?


「私はサイボーグだ、しかもお前などよりよほど優秀な。」(注・セリフ等はうろ覚え)

 

……誰もあんたを人間だと思ってないよ、っつーか、思ってなかったよ、ジョー以外は…


とにかく、スカールの脳みそは胸にしこんであったから、頭がなくてもへへへのかっぱだったわけだ。
またまた律儀に驚愕する009。

ジョー、ジョー、ジョーよぉっ、君はこれまで一杯変な形のサイボーグと戦って…

…ああ、もう多くは語るまい。

ほんとにびっくり屋さんなんだから、ジョーってば。そこが君のチャームポイントさっ。


同じサイボーグでも性能が違い過ぎるスカールと009。ボディからバッコーンと飛び出した6本のでっかい鈎爪でとうとう009は壁に縫い付けられた。動きがとれない。主人公、大ピーンチ。

終わりだ、と余裕こいたスカールに009は冷笑をむける。

やはりお前はロボットだよ、そうやって何度僕達に終わりだと言った、だが僕達はこうして生きている…

スカールは腹に装着されてる銃口にエネルギーを充填しながら答える。

それはたまたま運があっただけだ、だがそれももう終わりだ。(ああ、あの若本さんの憎々しげな口調を思い浮かべてくれいっ)

009は激しい口調で、

「違う、それは僕達が人だからだ。僅かの可能性を信じる人だから乗り越えられたのだ、しかしお前は操られているだけのロボットにすぎないっ」

と叫び返す。床には先程蹴っ飛ばしたスカールの頭、009はさりげなく足でその頭を引き寄せる。そして、嘲笑しながらスカールがビームを発射したとたん、009は頭をビームにむかって蹴飛ばした。
二人の間で大爆発がおこる。鈎爪は折れ、かろうじて009は助かった。
しかーし、スカールはしぶとかった。怒り狂って二発目のビームをぶっぱなす。

今度はよけきれない。もうだめかと思った瞬間、三体の脳みそ、つまりブラックゴーストの御本尊が放ったビームがスカールのビームを中和してしまう。
何故…?
次の瞬間、御本尊のビームはスカール自身をおそった。

何故ー

絶叫しながら脳みそが蒸発してしまうスカール。あっけないスカールの最後…なんだか、とっても哀れなスカール…

つまり、009を殺そうとしてスカールがめっちゃくちゃ暴れたから、ブラックゴースト本体のお部屋が大分壊れてしまい、御本尊が怒ったのだ。

「愚かな。我々の内部を壊す気か。」

せっかくスカールは今まで忠誠をつくしてきたのに、いいじゃんよ、少しくらい部屋こわしたって。ともあれ、御本尊の心はとっても狭かった。

「お前なんかいらない」(子供の声)

スカールでなくても、何故?といいたくなるよなぁ。哀れスカール、自分だけは大丈夫だと思っていたのだね。これまで部下達が非情に切り捨てられてきたのをみても、自分は別格だと思っていた。たまにいるよね、こういう奴…

スカールを始末した後、お前も死ね、と御本尊、009にビームをむける。
え、ちょっと待て、ちょっと待ってくれよ、御本尊。009を殺す気なら、なんでスカールのビーム、中和しちゃったの。スカールに009を殺させてから奴を始末すりゃあよかったんじゃないでしょうか、御本尊。
今さら、死ね、とビームむけられても、はいそうですかと大人しく撃たれる奴はいないと思うよ。せっかく拾った命、009だってちょこまか逃げるさ。

どうも人知を越えたブラックゴーストの考えるこたぁわからん。しかも、三体の脳みその声はそれぞれ、成人男子、成人女子、小学校低学年男児だった。もしかして、夫婦親子?一家団欒しながら人類をいじめてた?ゾルディック家よりすごい家族だ…


さて、一方プカプカうかんだ海の上で003が取り乱している。

009が、愛しいジョーだけがいないのだ。

そんなフランソワーズに001は冷静きわまりない声で答える。
009だけブラックゴーストをとめるために魔神像のなかにとばしたと。
どうして009だけ、どうして皆をとばさなかったんだと抗議する戦士達に一言、

「犠牲は少ないほうがいい。」


イワン・ウィスキー、ほんっとーにおっそろしい赤ん坊ですこと。

009独りだけに背負わせるなんて、
「きつすぎるぜ…」
ぽつりと呟く007。うんうん、ほんと、残されたものにはきつすぎるよ。いつも軽口たたいているあんたが言うとよけい胸に響くな、007。だが、フランソワーズは納得できない。
お願い、009を返して、お願い、と001に懇願する。
そりゃそーだ、やっとラブラブになれたのに、手を握っただけでさよならなんて残酷すぎる。気持ち、わかるよ、わかるよフランソワーズ。でもね、ほれ、001は一応赤ちゃんなんだから、そんなにゆさゆさ揺りかご揺らしたらやばいって。
号泣する003をちらっとみた002は辛そうな顔をする。そして一言。

「泣くなよ、003。おれが009を連れて帰ってくる。」


ジェットーーーっ。
いい男だなぁ、あんた。前々から003に気があったのは知ってたけど、惚れた女の涙はみたくないかい、え、ジェット。

誰かが何かを言う間もなく、002は空へ飛び立つ。魔神像はすでに成層圏、生きて帰れるはずはないのに、それでも行くか、002。
「お前ひとりに背負わせたりなんかしない。必ず助けてやる、009。」
そう、ジェットは友情にも篤いのだ。惚れた女が惚れた男だけれども、それでもジョーはダチなのだ。
なによりジェットは死のうなんて考えていない。二人生きて帰ってくるつもりで飛び立っている。すごいよジェット、たいした奴だよ002。



神様、生まれてはじめてあなたに祈ります…


普段、ひねたスラムのアメリカ〜ンしているジェットだけに、心にしみる一言だ。

魔神像のなかでは御本尊一家が009に手こずっている。
しつこいようだが、なんでスカールに009を殺させなかったんだ、009を始末したかったんだろう。まあ、009は主人公だからね。 あんなに強いスカールをいとも容易く始末した御本尊一家だったが、009にはまったく手も足もでない。 何故だ、とはもう問うまい。009は主人公なのだ。

御本尊一家自体にはシールドがはってあるので、009は部屋の内部をばっきばきに壊してまわる。さすがにこれには御本尊一家も参った。だが、余裕の声で、かってブライキングボスであられた(要するに内海賢二さん)お父さんがおっしゃる。

我々をたおしてもブラックゴーストは倒れない。何故なら、我々こそが人類の本質だからだ。全ての人間の心にブラックゴーストはある。人間の本質は悪なのだ、
と。

今までの009だったらめげたかもしれないほど、説得力のあるブラックゴーストお父さんのお言葉。009の胸に、ふいに地底人の催眠術にかかっていた時の自分の姿がフラッシュバックする。
あの時、僕は戦いを楽しんでいた…
だが、 ジョーはきっと顔をあげ、きっぱりと言い切る。

人間の本質は悪かもしれない。だが、人間にはそれを越える何かがある。僕はそれを見てきた。


ジョーの脳裏に仲間達の笑顔がよぎる。そして、フランソワーズの愛しい顔が。
無駄だ、それは幻想だ、と御一家にいわれても009の信念は揺るぎない。なぜなら、確かに自分は仲間を愛し、フランソワーズを愛している。人の心に他人を愛する心があるかぎり、人類は悪を乗り越えられるに違いない。

009は止めの一撃を放ち、白い閃光があたりを包む。魔神像が崩れていく。
「終わりだ、009。」
御本尊の声がする。爆発の直前、009は壁の割れ目から宇宙空間になげだされた。

ジョーの口元に、安堵したような、でも、ちょっと寂しそうな色が浮かぶ。やっぱり独りで死ぬのは寂しいよね、ジョー。眼を閉じて仲間達の手を求めるようにジョーの手は虚空に投げ出されている。

と、その手を掴む手があるではないか。

驚いて眼をあけた009の目の前には、002の笑顔があった。

しっかりと002は009を胸に抱き寄せる。

とたんに魔神像が大爆発。
「みろよ、宇宙の花火だぜ。ブラックゴーストの最後だ。」
どんなときにもジョークはかかさない、002のアメリカ人魂、健在だね。002の胸にすっぽりおさまって009はその爆発を眺めている。

わっ、ジョー、なんて可愛い顔するんだ。
しかもそんな、気持ちよさそうにジェットにだっこされて。

009はふっと下の青い地球を見下ろす。もちろん、002にだっこされたまま。

「皆は?」
「大丈夫だ。無事だぜ。」
ほっと安堵する009に002が微笑みかけた。
「だが、皆のところへ帰れそうもねぇ、エネルギーがもうほとんどないんだ。ここにくるまでに使っちまった。助けにきたのに間抜けな話だ。悪いな、009。」
穏やかな002の微笑み。009ははっとする。
「僕を放せ。002。そうしたら君だけでも助かる。」
「馬鹿言うなよ、死ぬ時は一緒だぜ。仲間だろ、009。」
ぎゅうっと009を抱きしめてる002。なんだかんだいって抱かれている009。

「だめだ。002。」
「もう遅い。大気圏突入だ。」

ぎゅうっと放さない002。
突き放そうと思えばできるのに、
やっぱり抱かれている009。


「ジェット」
「ジョー、君はどこに落ちたい?」



二人ともぎゅうっと抱き合ったまま…ぎゅうっと………


…………………………………もしかして、わし、今までとんでもない間違いを犯していた……?



002、君が本当に愛しとったのは009だったのかっ


そして009。あんなに嬉しそうに002の胸におさまった君、


もしかして君も実は002を愛しとったのかぁぁッ。

そういえば、宇宙空間で手を取り合った時から、君たちは淡いラブリイな白い光に包まれとったな。
抱き合ってる時もほんのり白く発光して…大気圏突入後、君たち、本名を呼び合っただろう。アルベルトとビーナのように。

あれは君たちの愛情表現の伏線だったのかっ。真っ赤な炎に包まれたのは、愛の炎だったのかっ。夕方六時台だから、直接表現ができなかっただけだったのかぁぁっ。


ジョー、君はどこに堕ちたい。」


これが正しい表記なのだなっ。

え、ていうことは、なまじ目と耳のいいフランソワーズが、はっと大空を凝視して「ジョーッ」と叫んだのは…もしかして…もしかして二人が燃え尽きたからじゃなくて…











002…ジェットーーーーーッ

お前、さては奪ったなっ、

フッフランソワーズさえ知らないジョーのさくらんぼをーーーーっ




こうしてブラックゴーストを倒し、お互いの愛を全うした二人は流れ星になった……



折しも、遠く離れた日本では姉と弟が流れ星を見ていた。
「あんたはなにをお願いしたの?」
「あのね、ライフル銃のおもちゃ。お姉ちゃんは?」
「あたしはね、世界から争いがなくなりますようにって。世界中の人達が仲良く暮らせますように。」

しずかにエンディングがながれる。日本の夜景にキャストの名前があがってくる。祈るようなピアノ曲の後、009のオーケストラテーマ曲が華々しくなりひびく。黒い背景にスタッフの名前。
うっわー、ハリウッド。いいねいいねぇ。もう滝の涙だよ。してやられてるって自覚してもやっぱり感動の涙はとめられない。バスタオル用意しておいてよかった。

そうだよね、流れ星を見て、皆が仲良く暮らせますようにって祈った女の子の、素朴な思いこそが真実だよね。現実的じゃないとか、感情論だとかしたり顔で言うのは簡単だけど、こういう素直な人の祈りを受け止められないような人々が上にたつかぎり、好き勝手な法律を作らせちゃいけないんだ。

本当に、いいシリーズでした。サイボーグ009。悲しみに満ちていたけれど、深い愛がしっかりと物語に流れていた。

ジェットとジョーも本懐とげられたことだし、死ぬ時に愛しい人と一緒にいられたんだからジェットとジョー、幸せだよねっ。



大丈夫、お姉様達の手で君たちのやりたかったであろうあんなことやこんなことが一杯一杯本になるよ、きっと。

 

レンジャーものでお馴染みの小林靖子さんの脚本、今回も萌ポイントたかく、すばらしかったです。はい。(だからはやく戦隊ものに帰ってきてくれよ〜〜〜)