たまらんカップル参上





「ねぇ、手塚、それでね。」

不二は目をキラキラさせて手塚を見つめている。手塚は焦った顔をした。ここは部室、周りには練習を終えて着替えている部員たち。不二はお構いなしだ。

「だからね、話しのヤマが分散しすぎて盛り上がらないんだよ、やっぱり追い詰めるだけ追い詰めて一挙に解決しないと、テンポ悪いしね、ちょっとがっかり。ねぇ、手塚、聞いてる?」
「あ…あぁ。」

手塚の返事は上の空だ。

不二は今、特撮ものに凝っていた。だから番組のあった日か、その翌日には手塚相手に特撮話をぶちあげる。不二としては、別に特撮話の相手は河村でも菊丸でもよかったのだが、何故か手塚がそれを許さない。必ず二人きりになって話を促される。特撮に興味があるとは思えない恋人だが、聞きたいと言うのだからまあいいか、そう不二は思っている。

今日は後輩を鍛えるため、部活に元レギュラー陣が参加していた。 そして 今朝はハ○ケンジャーの最終回だった。二人きりのときに、と念を押されていたのだが、手塚の顔をみたら不二は押さえがきかなくなった。だから、とうとう着替えの時にはじめてしまったのだ。

「最初からあの脚本家、テンポ悪くてさ、クーガ書いていた荒川さんの時は、さすが、って仕上がりなんだけどね〜、悪くないんだけど、平坦なんだよ。でね、あれじゃいくら監督が渡辺さんだからって、どうしようもないよね。あ、でもね、手塚。」

脚本演出批評から突然、不二の表情がとろりと蕩けるように綻んだ。手塚がぎくりと体を強ばらせる。

「ゴウラ○ジャーが生きていてね、その登場がいいんだよ。」

ほうっと不二の唇から吐息が甘くもれた。ぎょっとなった部員達の目が不二に集まる。手塚が慌てて不二を遮ろうとした。

「不ッ不二っ。」
「きらめく水面をバックにこう、片膝ついてさぁ…」
「不二、それは帰ってからっ。」
「すらりっと立ち上がったその姿がまた逆光でかっこよくってさぁ…」
「不不不不不二っ。」
「一甲と一鍬の顔がアップになって…」
「不二ッ。」

手塚の制止に気付きもせず、不二は手元のラケットを刀のように背にまわすと、うっとり変身ポーズをとった。

「影となりて光を斬る、ゴウラ○ジャーけんざ…」
「不二ーーーーーっ。」

手塚はがしっと不二を抱え込むと、荷物と一緒に部室を飛び出した。後には呆気にとられた部員たちが取り残されてる。しばらく皆呆然としていたが、ぽつりと海堂が呟いた。

「不二先輩…かわいかったっすね…」
「は…花のようでした…」

カチローが嘆息した。きぃきぃと揺れる部室のドアを大石が閉めた。

「手塚も苦労するな。」
「あんなにうろたえて、部長もまだまだっすね。」

全員、顔を見合わせ、一斉にため息をついた。

「たまらんカップルだよなぁ…」

特撮話をする不二は、いつもにましてかわいくなる。手塚はそんな不二を見るのが好きだ。変身ポーズにいたっては、実は内心鼻血を噴いている。

「あんな不二を他の奴らなんぞの目に曝してたまるか。」

これからは番組をチェックして、不二が盛り上がりそうな日は早めに二人きりになろう、手塚は固く心に誓った。
無意識にラブラブビームを発射しまくって、恥ずかしくって周りがたまらん気分になる、はた迷惑な「たまらんカップル。」彼はまだ、恋に溺れてたまらんカップル街道をひた走っている事に気付いていなかった。




「わしら」コーナーの日記にぽちぽち連載していた「たまらんカップル」シリーズ第一弾です。
少したまってきたので、場所を移動。日記ssなので、お気楽な手塚と不二がいます(って、うちの塚不二はいつもお気楽だよ)
たまらんシリーズでの不二は特撮ファン、これは金角が単に特撮オタクで、特撮の感想をつい不二に語らせてしまったことからこのくだらんシリーズができてしまった…手塚ファン、不二ファン、ごめんなさいです。
思いついたらまた日記にかいて、たまったらまたこっちの「お話」に移していく予定です。どうかお怒りにならずおつき合いを〜。