きーっ。
僕はハンカチの角を噛んで、きーっ、ってした。
心の中でだけど。

だって、もし誰かに見られたらさすがにヤバイでしょ。


不二周助君って、木の陰にかくれて、きーっ、ってしてたって。
あ、ちょっと駄洒落?
ってか、韻を踏んだかなって。


いや、それはどうでもいいの。


とにかく、僕はきーっ、だったの。


誰だよ、あの女。
手塚に好きですっ、なんて告白しちゃって。

あのね、それは僕のです。
正真正銘、僕のものなんです。
だから、人のモンにナニ手ぇだしてやがる、こんにゃろーめーっ。


とまぁ、僕が女の子だったら乗り込んでいく場面なわけです。


でもね、でもねぇ。

僕は立派な日本男児であって、間違ってもスカートはいて様になるような、いや、様になっちゃう容姿かもしれないってちょっと思ったりもするけど、とにかく、僕は男であって、手塚も男であって、別に忍ぶ恋ってわけでもないんだけど、なんとなく忍んでみたりなんかしている僕たちです。


忍び合い


うっわ、なんか、大人な響き。


だからだから、そうじゃなくって、要するに僕がいいたいのは、手塚国光は不二周助の男なわけだから、手ぇ出してくるなってこと。
それを大声で言いたいってこと。

言えるわけないんだけど。


いっそ、放送室ジャックかなんかして、叫んじゃおうか。

ぴんぽんぱんぽーん。
あーっ、あーっ。
放送室から個人的なお知らせです。
青春学園中等部、男子テニス部長、手塚国光君は、同じく男子テニス部所属、不二周助のものです。
貸し出しは一切おこなっておりませんので、ご了承ください。
ぱんぱんぴんぽーん。





「そんなところで何をしている。」
「男の純情を踏みにじられてる。」
「……」
「ってか、もてあそばれてきーってしてる。」
「……」
「あっ、手塚、ため息ついて、くやしいっ、きーっ。」
「…お前だって告白されまくっているだろう。」
「ふーんだ、今日は男からの告白で、君みたいに可愛い女の子じゃありませんでしたーっ。」
「なお悪い。」



手塚が僕の手首を掴んで歩き始めた。
いたい、いたいんですけど、そんなにぐいぐい引っ張られたら。
ぐいぐい引っ張られて、たどり着いた先は放送室でした。


「えっ、なに、手塚?」
「今から恋人宣言する。」
「はぁぁーっ?」
「これ以上我慢できん。どこの馬の骨ともつかんやつがお前に告白するのを放っておけというのか。」


わーーっ、ちょっとちょっと、手塚国光さんっ。
目、マジなんですけど
ってか、マジやる気?
そりゃ、僕だって思ったけど、思うことと実行することは天と地ほどの差があるわけで、
つか、そりゃさすがにマズイだろーっ。
僕は心の中の、きーってするハンカチ投げすげた。



「だめだめ、手塚、それはヤバイってーっ。」
「何がやばい。お前がオレの恋人だと宣言するだけだ。」」
「だ〜〜っ、やめてっごめんっ、僕が悪かったっ。」
「不二周助に手を出すやつは、この手塚国光が許さんっ。」
「落ち着いて、手塚ーーっ。」
「オレの不二だとわからせる、それのどこが悪いっ。」


きーん、
スピーカーからマイクの音。
放送室のドア、いつの間に開いた?
必死でマイク、こっち向けてる放送部員、
アンタ、プロ意識、高いね。




…もしかして、マイクに入った?今の会話…


うっそーーーっ。


「丁度いい、そのマイクを貸せっ。」
「ぎゃ〜〜っ、手塚っ、もうきーっ、ってしないから、叫ぶな手塚ーっ。」
「ハンカチ噛んできーっ、としたいのはオレのほうだっ。」


神様、確かに僕、やきもちやきましたが、それがこんな騒ぎ引き起こすほど悪いことだったんでしょうか。ちょっと理不尽すぎやしませんか?

てか、いい加減、マイクのスイッチ、切れよ放送部員。

これから起こるだろう騒動に涙が出そう。
さよなら、僕の平穏な日々。
でも神様、やっぱ理不尽すぎるだろー、これ。

心の中で投げ捨てたハンカチ、もう一回拾ってみる。
端をくわえて引っ張って。
天を仰いで涙をためて。

僕が何したってのさっ。


きーっ。

☆☆☆☆☆

(「放送室で叫ぶ夢をみた手塚」話を書いてらっしゃる佐野様に勝手に強制的に捧げます〜。それにしても、オレのパソコン、かえってこねぇよ、きーっ。)

パソが壊れているとき、日記にアップしたものです。アップするの、忘れてたよ…