うみの隊長大ピンチ
     
     
 

まさに絶体絶命、大ピンチだった。



追っ手は「鬼若三兄弟」との異名をとる、ビンゴプッククラスの三人の忍、中忍のスリーマンセルでどうこうできるレベルではない。いや、ここまで逃げてこられただけでも奇跡的なのだ。

オレは今年で三十五才、中忍になったのは二十歳の時だから、いわゆるベテラン、というヤツだ。いや、誤解しないでほしい。オレはけして無能なわけではない。確かにアカデミーや受付にはいるほど優秀でもないし、上忍なんて夢のまた夢だが、これが普通だ。
一般の人々はどうしても強くて派手な上忍に目がいき、ああいうのが忍なのだと思っている。とんでもない。上忍なんてごくごく一握り、かなり特殊な忍なのだ。アカデミーや受付の、つまり内勤の中忍もしかり、戦闘力が上忍に及ばないというだけで、あの人達はエリート中のエリート、なにせ里の機密を守っているのだから、強さだけで上忍になったような忍よりもはるかに発言力がある。
だが、考えてみてほしい。本当は下忍になるだけでも大変なことなのに、一応中忍試験に合格してここまで生き抜いてこられたのだから、どちらかというと選ばれた方なんではなかろうか。だいたい、忍社会を支えているのは、実はオレ達のような普通の中忍や大勢の下忍達だ。そしてその、いたって普通の中忍であるオレが、ビンゴプッククラスの敵忍に追いつめられている。運が悪かった、としかいいようがない。


今回の任務は都のとある商家の裏帳簿の奪取だった。忍を雇い入れているという情報はなかったし、仮に抜け忍を雇っていたとしても、中忍スリーマンセルで十分だと判断されるクラスの、まぁ、いってみりゃBランク任務の中でも軽い部類のはずだった。
だから、スリーマンセルの隊長として「うみのイルカ」がやってきたときには、オレは内心驚いた。だってそうだろう、アカデミーと受付を兼務して、しかも火影様の秘書みたいなことまでやっているエリート中忍が、Bランクの、しかも民間人の裏帳簿奪取なんてショボい任務につくなんてありえない。

え?何故「うみのイルカ」を知っているかって?
里の人間なら知らないわけないだろう。彼ほど有名な中忍はいない。なんといっても、あの狐つきのうずまきナルトを忍として育て、アカデミーを卒業させた教師だ。今でこそうずまきナルトは、里の次代を担う若手の一人として皆に認められ、三忍の一人、自来也様が直々に修行をつけておられるが、当時はまだつまはじきにされ、冷たい扱いを受けていた。恥ずかしながらオレもナルトの存在を快く思っていなかった一人だ。
だが、そんな中、一人のアカデミー教師がナルトを他の生徒と分け隔てなく扱い、慈しんで育てているとの話が広まった。その教師こそが「うみのイルカ」だ。当然、風当たりは強かった。相当嫌がらせも受けたらしい。気に入らないからといって嫌がらせに及ぶ輩は言語道断だが、驚くべきは「うみのイルカ」だ。様々な階級からの誹謗中傷や嫌がらせを、ことごとくはねのけたという。まぁ、今ではかなりの人々が「うみのイルカ」の正しさを認識している。さすが、というべきか、出来る男なのだろう。
だが、有名なのはナルトがらみのことだけではない。というより、こちらのほうが彼をして知らぬ者がないと言わしめる真の理由だと思う。

「うみのイルカ」に、かの「はたけカカシ」が懸想しているのだ。

「はたけカカシ」といえば写輪眼のカカシの二つ名を持ち、コピー忍者としてビンゴブックにも載る凄腕の上忍だ。その名は忍の世界だけでなく、政治の世界にも広く知れ渡っており、いわば木の葉の顔、オレ達、並の忍から見たら、それこそ雲の上の人だ。
そんな凄い忍が、受付やアカデミーに日参して「うみのイルカ」を必死で口説いている。話題にならないわけがない。そして、肝心の「うみのイルカ」だが、これがまた手ひどく拒絶しているのだ。

失礼を重々承知で言うが、「うみのイルカ」は別に美青年でも何でもない。年の頃は二十代なかば、黒髪を頭のてっぺんで一括りにしたこの男の顔には、真横に大きな傷が走っている。まぁ、忍なら傷の一つや二つは当たり前で、珍しいことではない。顔立ちは結構整っているが、どこかもっさりとしている。要するに親父くさいのだ。何故そんなあか抜けない男に写輪眼のカカシほどの人物が言い寄るのか、木の葉最大の謎だ。写輪眼のカカシは覆面忍者だが、黙っていても美女が群がる美丈夫、なにもあんな普通の男を口説かなくても、不自由はしないだろうに。

正直、オレは「うみのイルカ」にいい印象を持っていなかった。何度か受付所で、写輪眼のカカシに口説かれているところを見かけたが、あんな態度はないだろう。たとえ、男と付き合うのは真っ平だ、と思っていたとしても、相手は上忍、しかも天下にその名を轟かす写輪眼のカカシだ。己の立場をわきまえ、失礼のないよう振る舞うべきだ。それなのに「うみのイルカ」は写輪眼のカカシを「アンタ」呼ばわりしたばかりか、「クソ上忍、バカカシ」と罵ったではないか。不敬きわまりない。写輪眼のカカシの度量が大きいから無事ですんだものを、普通ならばその場で処刑されても文句は言えない。エリート中忍だか火影様のお気に入りか知らないが、ひどく傲慢な人間のような気がした。そういう場面に出くわすたび、オレは苦々しく思ったものだ。

ただ、上忍のお遊びに中忍が付き合っている、という見方をするものも多い。「うみのイルカ」は案外と人気があって、受付所でも彼のところだけ長い列が出来るのは事実だ。直接彼を知っている人間に言わせると、人柄は誠実にして実直、温かい空気を持っているのだそうだ。
もし、受付中忍が凄腕の有名上忍のお遊びに付き合っているのだとしたら、「うみのイルカ」の態度も納得出来るし、「はたけカカシ」が無礼を許容するのもわかる。そして、件の人物が、今回の任務の隊長となり、オレは確信した。

やはり、「うみのイルカ」は写輪眼のカカシのお遊びにつきあっているだけだ。

実際に接してみると、「うみのイルカ」は実に気持ちのいい青年だった。傲ったところもなく謙虚で穏やかだ。それでいて頭は切れ、判断が的確だ。オレの「うみのイルカ」にたいする印象は180度変わった。彼は立派な中忍だ。
今回の任務も、直前にきな臭いものを察知した「うみのイルカ」が急遽、隊長として参加した、というのが真相らしい。事実、追っ手が普通の上忍クラスならば、オレ達は無事に里へたどり着けただろう。だが、運がなかった、としか言い様がない。相手が悪すぎた。ビンゴプッククラスの忍が三名もいる。ここまで逃げてこられたのは、ひとえに「うみのイルカ」の才覚にに拠るが、それも限界だった。オレ達の命は風前の灯火だ。

「うみの隊長。」

オレは小声で横に立つうみの隊長に囁いた。

「オレ達でなんとか時間をかせぎます。その間に隊長は里へ。」

こうなった以上、当然のことだ。忍者にとって任務の遂行が最優先、逃げ切れる可能性の一番大きい者のために他は捨て駒となる。それに、オレはすっかりうみの隊長に心酔していた。ギリギリの命の遣り取りなど何度も経験してきたが、ここまで充実し高揚した攻防戦は初めてだ。命を失うことになっても、いや、恐らく失うだろうが、悔いはない。うみの隊長のもとで戦えたことをオレは誇りに思う。もう一人のメンバーも決然と頷いた。まだ新米中忍で、二十歳そこそこだろうか。オレも彼も、うみの隊長のためなら命は惜しくないと思っていた。だが、うみの隊長の口から出た言葉は、この状況にまったくそぐわないものだった。

「ポイント3955、里を出て三日目、か…」
「隊長?」

うみの隊長は、うむぅ、と唸り、それからスッと前を見据える。うみの隊長の黒い瞳は森の果ての、どこか遠くを見つめているようだった。

「隊長…?」
「オレに…」

うみの隊長がフッとオレ達に顔を向けた。何かを決意した真っ直ぐな瞳にオレ達はごくりと喉をならす。

「オレに命を預けてくれ。」

隊長は静かにそう言った。オレは思わず拳を握る。

「そんなの、言われるまでもないです。オレ達、命はって敵を止めますから、隊長はっ。」
「いや、オレは行かねぇよ。」

うみの隊長は懐から何か取り出した。

「これは火影様から頂いた特殊な起爆札だ。コイツが発動したら、相手がビンゴブッククラスだろうが助からねぇ。特に今はアイツら、中忍三人だって油断しているからな。」

ま、当然オレ達もおだぶつだが、とうみの隊長は少し笑った。オレともう一人の中忍はじっと隊長の言葉を待つ。うみの隊長はすぅっと表情を引き締めた。

「これからオレは一か八かの大技をうつ。成功する確率は限りなくゼロに近いが、ただ全滅するくらいならオレはこれに賭けてみようと思う。」

一か八かの大技、うみの隊長は何をする気なのだろうか。

「オレ達がアレのセンサーの範囲内にいることを祈っていてくれ。」

だが、それが何であれ、オレ達はうみの隊長に従うまでだ。

「この技に失敗したらオレは起爆札を使う。死に恥は曝せねぇ。任務失敗なうえオレ達も死ぬが奴等もおだぶつだ。一人も生かしちゃおかねぇよ。」

最高だ、うみの隊長。
同じ死ぬでもビンゴブッククラス三人を道連れにできるなんて、しかもただの中忍のオレが、だぞ、痛快じゃないか。任務失敗でも釣りがくるってもんだ。

「もとより、オレら、隊長についていきますよ。」

うみの隊長はニッと笑った。

「すまねぇな。」

その時、追っ手の「鬼若三兄弟」がオレ達の前に姿を現した。

「お祈りの時間は終わったかい?」

右端に立つ細っこい金髪野郎が宣った。ったく、余裕綽々ってのが憎たらしい。連中、腕組みしたままニヤニヤ笑ってオレ達を眺めていやがる。遊び感覚で狩りでもやってる気分なんだろう。
ちくしょう、今に見ろよ、うみの隊長の大技が炸裂するんだからな。それでダメでもオレ達には起爆札があるんだ。てめぇら全員、道連れにしてやる。
ギリギリと「鬼若三兄弟」を睨み付けていると、うみの隊長が一歩前へ進み出た。

「あなた方のことは知っていますよ。ビンゴブックに名を連ねておきながら、たかだか商家の裏帳簿護衛ですか。鬼若も落ちたものですね。」

それとも、とうみの隊長の目が鋭く光った。

「これはただの裏帳簿ではない、と?」
「よくしゃべるな、木の葉の。」

真ん中の背の高い忍が冷笑を浮かべた。コイツがリーダーらしい。

「素直に渡せば、一瞬で殺してやる。抵抗すれば時間をかけて切り刻む。どっちがいい。」
「どっちみち殺すということでしょう?」

辺りは鬼若三兄弟の殺気でビリビリと空気が震えるようだ。だが、うみの隊長は平然としていた。

「裏帳簿はもう里ですよ。」

鬼若三兄弟の表情が変わる。うみの隊長はふっ、と口元を上げた。

「こんなこともあろうかとね、火影様から特別に使役獣をお借りしていたんですよ。救援要請と一緒に裏帳簿をそれに持たせました。」

そうだったんですか、うみの隊長。全然気づきませんでした。ってか、この状況でビンゴブックに冷笑を投げつける隊長、かっこいいっす。
オレともう一人の新米中忍は内心、ぐぐっとガッツポーズだ。
イケてる、イケてます、隊長っ。コイツら道連れにするだけでも痛快なのに、裏までかいて任務は成功ですか。もう思い残すことなんて何もありません。里のため、隊長とともに派手に散ってみせましょうっ。

「アニキ、どうする。」

鬼若三兄弟の体のデカイのが、真ん中のヤツに聞いた。やっぱ、真ん中の背の高い茶髪がリーダーだったか。ぶわり、と殺気がさらに膨らんだ。

「やってくれたな。」

真ん中の「アニキ」が射殺さんばかりの眼光でオレ達を睨め付けた。

「決定だ。楽には殺さん。」

ざわり、と空気が揺れた。三兄弟がすすっと間合いを詰めてくる。緊張が走った。オレはクナイを握りしめる。うみの隊長が技を出すまで、せめて時間をかせがなければ。うみの隊長がすぅっと大きく息を吸った。出るのか、最後の手段の、大技というやつが。金髪とデカ物がオレ達を捕縛しようとパッと横に散る。退路を断たれた。正面に鬼若リーダーが迫ってくる。うみの隊長、早くっ。


「あ〜〜〜〜れ〜〜〜ぇぇぇ、たぁすけぇてぇ〜〜、カカシさぁぁぁ〜〜〜〜んっ。」
ぶちぃっ。

絶叫とともに、うみの隊長が突然、自分のベストを引きちぎった。

「いやぁぁぁ〜〜〜〜っ、さわらないでぇぇぇぇっ。」
ぶちぃっ、びりびりっ

その下の黒いアンダーまでズタズタに引き裂く。もちろん、うみの隊長自身がだ。

「きゃぁぁぁぁ〜〜、えっちぃぃっ。」

えっちって、ううううみの隊長っ

「カカシさぁぁぁ〜〜〜〜んっ、はやくきてぇ〜〜〜っ。」

鬼若三兄弟は目の前の光景にただ呆然としている。そりゃそうだろう。オレ達だって何が起こってるのかよくわからない。うみの隊長はなおも絶叫した。

「いやぁっ、犯されるぅぅぅ〜〜〜っ。」

うみの隊長はすっかりはだけた胸を隠すように腕を交差し、しゃがみ込んだ。その時だ、シン、と凍てつくような冷気が辺りを包んだ。殺気とか、そんな生やさしいものじゃない。何もかもが動きを止める。木々の葉すらそよともしなかった。なにか人外の、恐怖そのものが迫っている、そんな感じだ。
ゆらり、と森の奥の闇が揺れた。ぎく、とオレはそれを凝視する。闇の中にぼぅっと白い形が現れた。何だ、何が来たんだ、少なくともこれは人じゃねぇ。怖い、膝が震えてしょんべん漏らしそうだ。隣の新米中忍もガチガチと歯の根があっていない。コイツ、漏らしたんじゃねぇか?鬼若三兄弟も体を強ばらせたまま立ち竦んでいた。だが、うみの隊長はその白い恐怖に向かって片手を差し出した。もう片方の手はしっかり胸をかくしたまま。

「あぁん、カカシさんっ。」

カカシさん…?

白い恐怖は瞬時にオレ達の横に移動してきた。いや、正確にはうみの隊長の正面に。

「イルカ先生っ。」

……は?

「こここの姿はっ。」

これって…

「カカシさぁん。」

写輪眼のカカシだよーーーっ。

目の前に現れたのは、まごうことなき木の葉の誉れ、写輪眼のカカシ。うみの隊長は取りすがるように写輪眼のカカシの胸に身を投げ出した。いまだしっかり胸を隠して。

「あぁん、カカシさん、こわかった〜〜っ。」

誤解のないように言っておく。うみの隊長は身長百八十を超す大男で、がっちりと鍛えられていて、つまり、体格的には写輪眼のカカシとほとんど変わらないわけで、だから、何が言いたいかって、身を投げ出したっていってもその光景は…

「イイイイルカ先生っ。」

だけど、なんだか写輪眼のカカシは感極まった様子だ。壊れ物でも扱うように、おそるおそるうみの隊長の背に腕を回している。そういや、まだ口説いている最中だったっけ?っつか、マジに口説いてたのかよ、写輪眼のカカシ。
うみの隊長は写輪眼のカカシに縋り付きながら、よよよ、と泣いた。そしてビシッと指を鬼若三兄弟に向かって突きだす。

「あの人達がぁ、オレの真っさらな肌を暴こうとしたんですぅ。」

パキリ、と音がたつほど、オレ達は凍った。指さされた鬼若三兄弟はもっと凍っている。だが、写輪眼のカカシからは凄まじいオーラが立ち上った。

「……なにぃ、こいつらが…」
「オレの衣服をはぎとって、誰にも見られたことのないピンクの乳首をぉっ。」

いや、はぎとってないし、っつか、はぎとったの、うみの隊長じゃないですか。だいたい男だったら、上半身裸なんて日常茶飯事だし、男の乳首なんか誰も気にしてないっていうか…

「それに、すごくスケベでエッチな言葉でオレを辱めましたぁ。」

ごごごご、と地鳴りがした。はたけカカシが青白いオーラを立ち上らせながら鬼若三兄弟を見据える。

「貴様ら、イルカ先生の乳首を見たのか…」

写輪眼のカカシはうみの隊長を背後にかばうと、ゆらり、と三兄弟の正面に立った。

「見たんだな、乳首を…」

そりゃ見ただろうけど、だからってどう答えればいいのだろう。だが、はたけカカシは地獄の底からわき出たような、冷え冷えとした声で宣告した。

「万死に値する。」

男の乳首を見るって、そんなに罪なことなのか。立ち竦んだままの三兄弟に、写輪眼のカカシはニィッと壮絶な笑みを向けた。

「だが、楽には殺さん。」

なんか、さっき聞いたような言葉だ。あまりの展開に三兄弟は動けない。いや、この凍り付くような殺気のせいで動けないのだろう。同じビンゴブッククラスといっても、やはり格が違うのか。
ぽかん、とその様を眺めていると、いつの間に身仕舞いしたのか、破ったアンダーの上にきっちりベストを着用したうみの隊長がくるり、とオレ達に向き直った。

「ということで、追っ手ははたけ上忍におまかせするとして、オレ達は任務達成のため、里へ向かうことにする。」

えぇっ?

「では出発。」

えぇぇっ?

「あっあのぉ、裏帳簿は使役獣に持たせたんじゃ…」

おそるおそる、といった感で、新米中忍が口を開いた。うみの隊長はにっこりとする。

「はったりだ。」

うそぉっ、そうだったんですかーーっ?

「まぁ、式を飛ばして救援は要請したがな。さぁ、ぐずぐずしている暇はない。里へ急ぐぞ。」

今にもうみの隊長は駆け出そうとする。新米中忍が慌てて言った。

「あ、でも、はたけ上忍、三人相手で大丈夫でしょうか。任務帰りだったらチャクラとか…」

そうだよ、任務帰りだったらやばいんじゃないだろうか。この急展開に毒気を抜かれているけど、相手はビンゴブックにのっている三悪党だ。いくら写輪眼のカカシでもキツイだろう。だが、うみの隊長はあっさりと言い放った。

「あぁ、カカシさんなら大丈夫だろう。この前なんか、特S任務後でフラフラしてたけど、ビンゴブッククラスの忍が率いた上忍部隊を全滅させたから。」

この前って、前もやったんかい、これ…

「そのうち里の救援も到着するだろう。そんなことより、さっさとここから離脱しないと、とばっちり食うぞ。」

サッと踵を返そうとして、うみの隊長は何か思いついたように足を止めた。

「おっと、忘れていた。カンフル剤うっとかなきゃ。」

うみの隊長は写輪眼のカカシの方を向くと、そりゃあ甘い声を出した。

「カカシさぁん、里でオレ、待ってますから、楽しみに、ね?」

ね?のところで、うみの隊長はフッと投げキッス送ったみたいだ。ふぉぉ、ともぶごぉ、ともつかない獣じみた咆哮がはたけカカシの口から轟き渡った。後のことは恐ろしくてオレは見ていない。はたけ上忍の咆哮に混じって、すさまじい悲鳴が聞こえたような気がしたが、オレはそのまま里へと駆けた。
そして、オレ達は任務を達成した。





後で聞いた話だが、救援の暗部が到着したときには、鬼若三兄弟はボロボロにされて虫の息だったらしい。イルカ先生の乳首を見やがって、と叫びながらトドメを刺そうとする写輪眼のカカシをなんとか宥めて、三兄弟の身柄をようやく確保したそうだ。その話をきいたうみの隊長は、ちっ、と小さく舌打ちした。

「とっとと殺してりゃいいものを。」

死に恥、と言ったうみの隊長の真意が今、はじめて理解できる。あの技に失敗したら、そりゃ全員道連れにして口を塞いでしまいたいだろう。かくいうオレ達もあの技を見てしまった。だが、口外する気はさらさらない。そんな恐ろしいことが出来るものか。


今日も受付で、写輪眼のカカシがうみの隊長を口説いている。隊長はにこやかに笑いながら、相変わらず手ひどく拒絶していた。ふと、うみの隊長と目があう。にっこりと隊長は目を細めた。

言ったら殺す。

声なき声が聞こえたようで、オレはこくこくと首を振った。うみのイルカ、本当に恐ろしい男だ。

後に、とうとう写輪眼のカカシがうみのイルカを口説き落とし晴れて恋人同士となったのだが、そして周囲はお人好しの中忍に同情したり、いずれ上忍に捨てられる、気の毒に、なんて陰口をたたいたりしていたが、オレにはわかる。本当にしたたかで恐ろしいのは誰なのか。
まぁ、写輪眼のカカシも心底惚れぬいた男を手に入れられたのだから、これでいいのかもしれない。ただオレは、自分の平穏な日常が続くことをひたすら祈るばかりだった。

 
     
     
 

あ〜〜、なんつーか、「うみの隊長の恋人」のうみのさんとはまた別人ですね..
ある意味黒イルカ?
有能な中忍、うみの隊長シリーズが出来そうな予感〜〜〜(でも結局バカ話)