タマと呼ばないで試し読み

 



里に帰還したのは花の季節だった。

阿吽の門をくぐれば満開の桜並木が出迎えてくれる。午後の遅い時刻、少し傾いた斜めの光に照らされた花々はくっきりと鮮やかだ。

「咲いてるねぇ」

思わず頬が緩んだ。緩んだっていっても周囲にいる人間にはわかるまい。なんたって鼻の上まで覆う黒い口布をつけているからね。

オレ、はたけカカシって言います。二十六歳、木の葉の里で忍びやってます。一応上忍です。ビンゴブック載ってます。まぁ、次期火影としての自覚を持てとか凄い迷惑なことを年寄りが言ってくるくらいには実力あるみたいです。

え〜っと、眼の色は親父に似て藍色で、髪の毛は銀髪、これも親父似、この里じゃ珍しい色なんだよね。爺さんが北の出身だったかとかで、親父は白に近い銀だったんだけど、オレの方が銀色してるかな。昔なじみのアスマあたりは白髪だ白髪だってからかってくるけどね、ヒゲのくせにね。

顔立ちは母さん似なんだって。親父が元気な時はお前は母さんに似て美人だ美人だって、そりゃもうオレの顔見るたびに、幼児つかまえて何言ってんだかねぇ。確かに写真に映ってる母さんは黒髪美人で親父、ベタぼれだったらしいから、母さんの面影をオレにみるの無理ないかもね。

まぁ、実際オレってガキの頃から美童だって評判でね、そうするとよからぬ奴らがちょっかいかけてくるわけよ。戦争中で親父、里を空けることが多かったからそりゃ心配して、親父がいない間は三代目のとこにあずけられてたんだけど、三代目も忙しいからね、で、心配しすぎた親父がオレに口布つけさせたってわけ。これだったら顔が隠れるからって、でもねぇ、ちっこいガキが黒い口布なんかつけてたらかえって目立つわけで、それに黒い口布しても顔立ちってでるじゃないの、余計にモテちゃってねぇ、まぁ、そんなこんなで色んなモノを撃退するため自然と強くなっちゃったみたいな?

その親父が心を病んで自殺しちゃって、親父を自殺に追い込んだ連中がオレを恐れてあれこれ手を出そうとするもんだからオレの先生、四代目はオレを暗部に入れた。その頃にはオレの左目には親友の写輪眼が入っててね、うちはの連中から絡まれたり上層部が警戒したりしてたから先生、オレと手元に置いて守りたかったのね。その先生も九尾の災厄で死んじゃってねぇ、オレの居場所はそのまま暗部になっちゃったわけ。

そんなこんなで暗部暮らしの長いオレ、滅多に里に帰還なんてしないオレがここ数年は毎年桜の季節、必ず木の葉へ呼び戻される。なんでかって、三代目から上忍師になれって言われてるから。

オレね、滅多にワガママいわないんだけど、四代目、ミナト先生の遺児、ナルトの上忍師だけは自分にやらせてくれって頼んでたのね。
まぁ、いきなり上忍師ってのもなんだからって数年前から上忍師試験うけもってるんだけど、これがなんというか、いいのがいない。いや、下忍になるための力は十分あるのよ。でもね、心構えっての?どーも自己中なだけの子供が多くて、チームも仲間もあったもんじゃない。
なんかね、忘れてるよね、敵は外にいるんだってこと。強大な外敵にやられないよう訓練を積んでるってのに、平和ボケっていうの?里内の同級生同士の争いになっちゃってるのよ。誰が一番強いかってね。無意味だよねぇ。忍びの世界は競技大会じゃあないのよ。忍びとしての力が弱くても生き延びた方が勝ちなわけ。だからチームワークが大事。お互いの弱点をカバーしあって連携をとっていけば自分より格上の敵も倒せるってのをわかってない。スタンドプレーばっかりが目立って仲間内で張り合っているようじゃすぐ死んじゃうね。ったく、アカデミーの先生達ってなに教えてんだろ。クラス内での競争意識ばっかり強くなっちゃってまぁ情けないったら。

ってことでオレの試験に合格する者はなく、桜の満開の頃に帰還したオレは花が散るころ、再び里を後にする生活を送っている。

「骨のあるのがいるかねぇ…」

チラチラと花びらがオレに降りかかる。今年は四代目の遺児、ナルトがようやく卒業して下忍試験を受ける。もちろん試験官はオレだ。だが、試験はチーム単位で素質を見る。下忍は三人で一組、チームとしての心構えがなっていなければたとえナルトがいても不合格を言い渡す。

「桜が散るころ、また里外になんてならなきゃいーけど」

オレはリュックを担ぎ直し入里の手続きをするため門番詰め所に寄った。当番は顔見知りのイズモとコテツだった。

「お疲れ様です」
「今回も長かったっすね」

この二人とはアカデミー時代からの顔見知りだ。オレより一個下の学年でアスマ達と仲がよかったから自然と会話するようになった。まぁ、オレはすぐにアカデミーを卒業させられて戦地に送られたからホント、会えば挨拶してちょっと世間話する程度の顔見知りなんだけどね。ポン、と書類に印をついたコテツがニカリと笑った。

「今日は木の葉公園で三代目主催の花見やってますよ、はたけ上忍が帰ってらっしゃったらそのまま顔を見せに来いとの仰せです」
「え、そうなの?」

ついしかめっ面になった、と思う。だってオレは不特定多数が参加する宴会は好きではない。

「飯を食ってから帰るがよい、とのことです」
「確かにお伝えしましたよ?」
「うーん、花見って宴会でしょ?オレあんまりそういうの…」

行きたくない、と言おうとしたらイズモとコテツがジト目で見上げてきた。行ってくれないと怒られるのはオレらっす、そう目が語っている。
あ〜、三代目にやられたね〜。ジト目のくせ妙に眼力込めてくる二人に思わずため息だ。

「わかった。顔出せばいいのね?」
「「はいっ、お願いしますっ」」

二人は九十度に腰を折って書類を差し出してくる。ったく、オレが昔なじみを邪険にしないって知っててこの二人を門番に配置したね。書類を受け取りそのまま木の葉公園に足を向ける。帰って早々、気が重い。
別にねぇ、オレ、宴会が嫌いとか人嫌いってわけじゃないのよ。実際、昔なじみのアスマやガイ、紅達と飲むのは好きだし。
ただねぇ、オレの親父は三忍を凌ぐっていわれるほどの忍びで『白い牙』って呼ばれてて、まぁ、自殺に追い込まれちゃったけど『白い牙』を尊敬してるって忍びはまだ結構たくさんいたりするしね、先生は『黄色い閃光』の二つ名を持つ四代目火影だし?
つまりオレって美味しいのよ。ガキの頃からウンザリするくらい色んな思惑がまとわりついてきて、それを跳ね除けたくてがんばってたら結構強い忍びになっちゃってて、そうすると今度は甘い汁が吸えるんじゃないかって寄ってくる輩や変に祭り上げてくる奴ら、妬みやそねみ、とにかく「煩わしい」のがわんちゃかわんちゃかやってくるわけ。不特定多数の集まる宴会なんてそのオンパレードだからオレはよっぽど義理を果たさなきゃいけない時以外は出ないようにしてるの。
もうねー、普段から『人を寄せ付けませーん』みたいな雰囲気漂わせてね、まぁ虫よけ?オレ自身は友達大事だし顔見知りだって邪険に出来ないし結構気ぃ使いなわけよ。三代目、そのあたりのオレの性格、わかってて、どうしてもオレを引っ張りだそうって時には顔見知りに伝言させる。まぁ、たしかに効果的だよね。もし伝言持ってきのが知らない中忍だったらオレ、バックれてる。

「ったく、あの爺さんときたら」

最近、三代目が妙にオレのこと心配している。幼い頃から戦場暮らしを余儀なくされたオレって凄く可哀想、と思ってるらしい。なんかね、戦争中だけでなく九尾の災厄後の里の立て直しを幼い背中に背負わせてしまったって後悔しきりでね、やたらと人の輪の中に入れたがるのよ。
だーかーら、人を寄せ付けないポーズは虫よけなんだってば。
でもねぇ、無理もないっていうか、三代目は忍びの世界で名を轟かせた一流の忍びなんだけど、ずーっと若い頃から戦争ばっかりで、三代目が大活躍してた時期って一番戦争が酷い時期なのね。もうみんな、自分が生き延びるのに必死だから有名な忍びにすり寄ってどうこうしようなどと呑気に言ってられなかった。だから三代目やご意見番達はオレが受けている煩わしさを経験したことがない。オレの虫よけポーズを戦場育ちゆえの不器用さだと思い込んでいる。
でもねぇ、今さらお友達作りましょう作戦みたいなことやらなくても。っつか何のスイッチは入ったの?三代目に何があったわけ?

そういえば上忍師試験をやれと言われた年からだ、里に帰る度にやれ宴会に出ろだの懇親会を開くだのと、そしてご意見番からはひたすら見合い攻勢、そういやアレだ、里飛び出していたアスマがなんとなく落ち着いた頃からだ、このお友達を作りましょう攻勢って。

「……あんにゃろ、まさか余計なこと言ったんじゃないだろうね」

十代の頃、アスマは里を飛び出して放浪の旅やってた。
まぁ、飛び出したくなった気持ちはわかる。皆は偉大な父親への反発だと思っているけど、どちらかというと「偉大な父親を持つ将来有望な上忍猿飛アスマ」に群がってくる煩わしさが嫌で飛び出したんだよね。現火影の息子だからオレの比でなく周囲がうるさかった。
まぁ、アイツはアイツなりに悟りを開いたみたいで、お友達に坊主もいるしね、20歳を過ぎて戻ってきた。アゴ髭まで生やして。

そういえばこないだ任務で一緒になった時、お前のオヤジのお友達作ろう作戦なんとかしてくれって言ったら、なんかニヤニヤしてたな。お前ぇみたく色白銀髪覆面忍者は孤独が服着て歩いてるように見えるからな、とかなんとか抜かしていた。どうも怪しい。今度会ったら問いただしてみよう。

「ヒゲ、生やそうかしらん…」

孤独そうに見えないなら何でもいい。ブツブツ独り言をつぶやいているうちに木の葉公園についてしまった。ここは桜の名所で、ソメイヨシノだけでなく様々な種類の桜が植えられている。夜はライトアップもされて花のシーズンは賑やかだ。
公園のはるか向こうからどんちゃん騒ぎが聞こえてきた。宴もたけなわ、今が最高潮といったところか、あ〜あ、もしかして最悪のタイミング?Uターンしたくなったけどぐっとこらえて騒ぎの方へ歩いた。ここで帰ってはイズモとコテツに泣かれるのは間違いない。

「おぉ、カカシ、戻ったか」

三代目は公園の中央、大きな枝垂桜の傍らに敷かれたピクニックシートの上に座っていた。オレを見つけると来い来いと手招きする。一瞬、大宴会の喧騒がざわめきに変わった。はたけ上忍だ、はたけカカシが来た、あちこちで小さく声があがるのは毎度のことだ。あ〜、だからヤだったんだよ、こういう席は。

「ご苦労じゃったな、カカシ。ほれここへ座れ座れ」

ったく、爺さん上機嫌だな。顔赤いし、どんだけ飲んだんだ。
呼ばれたお花見シートの上にはご意見番じゃなくて何故か若いくノ一だの若い男だのがいた。えええ?もしかして今回、お友達候補を周囲に配置?勘弁してよ〜。

「腹が減っておるじゃろう。ほれ、ここへ座らぬか」

ここじゃここじゃとシートをバシバシ叩かれては座らないわけいかない。渋々隣に腰をおろせばニコニコと同じ花見シートにいる若造やくノ一を紹介しはじめた。

「ここへおるは新しく上忍や特別上忍に昇格した者達じゃ。おぬしの学年より下の者ばかりゆえよく知らぬのではないか?おぬしは早くから戦場に出たからの」
「はぁ」
「この者達にとっておぬしの話は役にたとうよ。色々と教えてやるがよい。いや、それもよいが、同世代との会話を楽しむのもよかろう。忍びを離れて話をするというのもまた楽しいものじゃぞ」
「はぁ」
「もし上忍師となればおぬしも里に常駐することになる。これまでおぬしには苦労をかけた。少し里でのんびりするのもよかろうて」
「はぁ」

はぁ、という以外、返事のしようがないっていうか、爺さん、オレ、アスマとかガイとか昔なじみ達とつるんで遊んでるじゃないですか。アイツらも十分同世代の友達だと思うんだけど…
オレの反応が相当薄かったせいか、突然三代目はガシリ、とオレの手を取った。

「カカシよ」
「うわ、はっはいっ」

うるっ、と爺さん、目ぇうるませる。

「わしはのぅ、あの時おぬしを飛び級で卒業させたことを今でも悔いておるのじゃ。おぬしから少年時代を、アカデミーに通っておれば出来たであろう友人達を奪ったのは他でもない、このわしじゃ。幼いおぬしに戦場暮らし強い辛い思いばかりさせた」
「えっ、あっ、いやっ…」

うわうわ、爺さんいきなり何なの。

「後におぬしの上忍師となった四代目がの、あの時は随分と反対してきたのじゃ。アカデミーで友達を作って普通の少年時代を過ごさせるべきじゃと、そして晴れて卒業したあかつきには自分が上忍師になりたいとな。わしもそうすべきじゃと思いはした。じゃがのぅ、戦局はますます厳しく人材が足りずにの、おぬしには本当にすまぬことをした。なんといって詫びればよいか」

オレの手を取ったままうずくまるようにして涙する。ってか三代目、酔っ払ってるよね?完全に酔っ払いだよね?

「さっ三代目、あのですね、オレは別に…」
「じゃが心配するな、カカシよ」

わー、びっくりした。いきなり体起こさないでよ。目ぇイッちゃってる、イッちゃってるから、三代目。

「このわしがおぬしの少年時代を取り戻してやろう。いや、おぬし二十六であったな。なれば戦争で失った青春時代をこのわしが取り戻そう。上忍師として里に常駐した暁には友を得て存分に楽しむが良い。恋愛するもよし、見合いをしたければホムラ達がおる。なんなと相談するがよい」

いや、だからいらないってば。

なのに一人盛り上がった三代目、オレの肩を抱いてぐいぐい新米上忍や特上の方へ押しやる。ってか年寄りなのに馬鹿力〜。

「ほれほれ、おぬし達、カカシに料理を取り分けてやらぬか。酒はどうした。今日は無礼講ぞ。遠慮するでない」

勘弁してよ〜〜〜。

三代目のお友達を作ろう作戦、グレードアップしてない?強硬って意味でね。

「はじめまして、はたけ上忍。常々上忍のご活躍には敬服しておりました」
「是非お話を伺いたいです」
「どうぞ、召し上がってください、はたけ上忍」
「お酒、どうぞこれを」

同じピクニックシートの上にいる新米上忍や特上達が口々に自己紹介しながら料理や酒をすすめてくる。だよね、お友達大作戦だもんね。
あー、でもオレ、今気づいた気付きました、人見知りです。すぐお友達になるとか無理なタイプですっ。
ウンザリと目を移すと二グループ先のピクニックシートの上にゲンマやライドウ、アオバら昔なじみの特上とアスマや紅が陣取っていた。こっちを見ている。

『こっち来て連れだして』

こそっと指文字でサインを送れば両手で大きくバッテンを作られた。えええ、そりゃないでしょ。なんなのよアイツら。ガイはどこ、ガイなら空気読まずにオレに絡んでくるはず、ガイなら…

なんでアイツ、酔い潰されてんの?

って、何踊ってんのよアイツら、面白がってるでしょーっ。

三代目や新米上忍、特上達にみつからないよう親指を立てて下に突き出してやると連中、ヒャラヒャラ笑ってる。

「おぬし達、カカシをどう思う」
「お噂どおりクールな方ですね」
「無口でいらっしゃるし」
「なに、恥ずかしがっておるだけじゃ」

違うからっ

「暗部暮らしが長くこういう場に慣れておらぬでの」

だから違うからっ。

「ほれ、カカシよ。黙っておらんとお喋りせぬか」

誰かなんとかして。

藁でもなんでもいい、この場から連れだしてもらえるならなんでもしちゃう、そう思った時だ。後ろでドサリと何かが落ちる音がした。ガランガランと足元に何かが転がってくる。え?缶ビール?

「タマっ」

はい?

「タマ、やっと帰って来た」

はぁ?

目を上げれば若い男、中忍か特別上忍って感じの、うーん、中忍かな?黒髪を頭のてっぺんで一つくくりにした青年が立っている。鼻の上を大きく一文字に横切る傷があるその青年は大きく見開いた目に涙をためて…って、え?タマ…タマってもしかしてオレ?

「タマ…」

えええ?そっそんな、ウルウルしながら近づいてこられても

「ずっと待ってたんだ」

ちょっ、何オレの頭、抱き込もうとしてんのこの人。上忍に不用意に触ろうかって命知らずな。思わず避ければ青年は驚いたような、ショックを受けたような顔をする。え?何?オレが悪いの?

「タマや」

だから、タマって何!

「こりゃイルカや、おぬし、酔っ払っておるな」

三代目が男に声をかけた。なに、イルカっての?確かにこの男、酔っぱらいだよ。酒臭いし顔赤いし…って、三代目がなんかデレてない?もしかしてこの黒髪ってお気に入りなわけ?

「イルカや、ほれ、ここへ座らぬか」

あ、やっぱデレてる。自分の横ポンポン叩いちゃってなに、孫か何か?

「怪我を塞いだ後は酒に酔いやすくなるからのぅ」

三代目、顔デレたままこっち向いた。

「カカシよ、こやつがナルトの担任、うみのイルカじゃ。おぬしも話は聞いておろう。引き継ぎの時に話をすればよいと思っておったが丁度よい。おぬしら年も近いゆえ話が合うじゃろう。」

あ、ナルトの担任ね。そういえば悪者からナルト庇って大怪我したって話はきいた。大事なナルトを守ってくれた人ならそりゃオレからもお礼言いたい…

「イルカや、おぬしの好きな菓子もあるぞ?こっちでゆるりとするがよい」

三代目、そのデレぶり。このアカデミー教師、お気に入りなんだ。

「カカシはの、見てくれは恐ろしげじゃが気の優しい奴じゃ。安心せい」

ちょっと、何その言い草。まぁこの人、三代目のお気に入りってことは身元はしっかりしてるってことね。ちょっと変なのは酔っ払ってるからみたいだし?医療忍術で大怪我塞いだ後ってどういうわけか悪酔いしやすいんだよね。

「タマ…」

あ〜、泣きそうな顔でこっち見ちゃって、そのタマってのは謎だけど、まぁ酔っぱらいの言うことですし?

「あ〜、あなた、うみのイルカ先生、ナルトの担任の」

これは逃げ出すチャンス!

「はじめまして。今度下忍試験を担当するはたけカカシです。お会いできてよかった。試験の前に色々とお話をうかがいたいと思っていたところなんですよ」

立ち上がって「うみのイルカ先生」に握手する。

「あらら、先生、かなり酔ってらっしゃる?怪我を塞いだばかりではお体、お辛いでしょう」

オレはがしり、と「うみのイルカ先生」の肩を抱いた。

「三代目、オレ、先生を送っていきますよ。かなり酷い怪我だったんですよね。こんな宴会に出しちゃだめじゃないですか。じゃあ先生、行きましょうか。先生のご自宅はどちらで?あぁ、道々案内していただければいいですよ」

三代目が何か言う前にオレは先生を引きずるようにして歩き出した。向こうのシートでアスマ達がバカ笑いしているのがみえたが無視無視、とりあえずこの『お友達の輪』から抜けられればいい。
ふと気づくと黒髪先生、じーっとオレの顔みてる。同じくらいのタッパだから顔、横にある状態でそんなじろじろ見られると居心地が悪い。オレが首をかしげてみせると黒髪先生、ふにゃ、と嬉しそうに笑った。

「タマ、大きくなっちゃって」

は?

なにこの酔っぱらい、何言ってんの?

まぁいい、とにかく今はここを離脱することが大事だ。ふにゃふにゃ笑う男を引きずってオレは急ぎ足で公園を後にした。

 

オフ本「タマと呼ばないで」の冒頭部分です。イルカ先生、本気でカカシがタマだと信じてます。なぜかって、そりゃ元凶は三代目ですけど、カカシ、巻き込まれ事故のように愛猫扱いされちゃいます。カカシは無事に人として認識してもらえるのか?