里に帰った只野シジミと教職員達と上忍の話
「やぁやぁ、ど〜も」
片手をあげてはたけ上忍が職員室にやってきた。三泊四日の職員旅行から帰って一週間、アカデミーはもちろん夏休みで職員室にはオレとヒラマサ先生しかいなかった。
「せんだっては随分と世話なっちゃって」
「いえ、とんでもありません」
ヒラマサ先生がサッと立ち上がりはたけ上忍のために職員室中央にある椅子を引いた。相変わらず気配りの人だ。
「ありがとね」
にこ、と目を細めてはたけ上忍が椅子にかける。だけどオレは知ってる。あの目は笑ってるけど笑ってない。はたけ上忍は太ももに肘をつき膝の前で手を組んだ。
「この間は…」
「心中お察しいたします」
さっと差し出されるおしぼり。
「我々も口惜しくてなりませんっ」
麦茶も出た。っつかいつの間に。ヒラマサ先生、ある意味木の葉の業師じゃね?
「そう?そうだよね。せっかく君達が協力してくれたのに」
オレは己が不甲斐ないよ、そうはたけ上忍は肩をおとす。うわ、マジで落ち込んでる?あのオレ様で力技のはたけ上忍が?
「シジミ君、だっけ?」
「うわっ、ははははいっ」
いきなり名前を呼ばれてオレは椅子から飛び上がった。ヤバそうだから身を伏せてひっそりしてたのに、さすがは上忍。
「君もよく働いてくれたよね」
「いっいえっ、自分はヒラマサ先生の指示どおり動いただけでっ」
「指示通り的確に動くってなかなか出来ないことだーよ?」
誉められた。でも素直に喜べないのは何故ーっ
「で、イルカ先生の様子はどう?」
「えっ?あのっ、普通で…」
ビシッ、と何かが額にあたった。痛い、っつか消しゴム?ヒラマサ先生がこっち睨んでる。えっ、ダメだった?だってホントにうみの先生、普通だし。
「それがですね、はたけ上忍。あの後、うみの、なんだか寂しそうにしていたんですよ」
ええっ、ソレ初耳
「もしかしたらうみのの奴、はたけ上忍と一緒にロイヤルスィートに泊まりたかったんじゃないかと思うんです」
えええっ
「オレ達もみかねて、その夜はロイヤルスィートに集まって酒盛りですよ。賑やかにしてやらないとどうにもうみのが寂しげで」
ちょっ…ヒラマサ先生、何言いだすんスか。確かに皆でロイヤルスィート押し掛けましたけど、それは単にいい部屋で酒飲みたかったっていうか、だいたい一番盛り上がってたのはうみの先生で腹踊りまでやってた記憶が
「はっ腹踊りっ」
げぇ、写輪眼、心読むのかっ
「はい、はたけ上忍のおられない寂しさを紛らわせようとうみのの奴、腹踊りまで」
なんだ、ヒラマサ先生か、っつか、アレ寂しさ紛らわせようとしてたか?単に酔っぱらいだっただけだろ?でも写輪眼はどこか夢見るような眼差しでうっとりと呟いた。
「イルカ先生の腹踊り…」
そこ、ロマン感じるとこ?
「はたけ上忍、イルカの腹踊り、ごらんになりたいですよね」
つつっとヒラマサ先生がはたけ上忍の傍らに寄った。
「微力ながらこの鱸ヒラマサ、協力申し上げたいと」
あわわ、ヒラマサ先生、なんか凄い悪い人みたいな目ぇしてるよ
「ホント?」
野郎の腹踊りになんでそんな目ぇキラキラさせるかな、っつかはたけ上忍、顔が悪代官してるけど
「もちろんです。私だけでなくアカデミー教職員一同、上忍の御為、尽力申し上げることやぶさかではございません」
いやいやいや、やぶさかだから
「ことの算段は私めが整えます。後はこの新人を手足としてお使い下さい」
ってオレーっ?
真っ白になっているオレをヒラマサ先生は上忍の前に押し出した。
「只野シジミ二十三歳、性質は風、得意分野は幻術、木の葉三丁目に両親と十七になる妹あり、我がアカデミー職員のホープです」
オレの紹介いいっスからっ、っつかそのホープって使いっ走りっつー意味ですよねっ
硬直しているとはたけ上忍がぽん、とオレの肩を叩いた。
「シジミ君、よろしーくね」
間延びした声がすごく恐ろしかった。
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