夏のペケポン試し読み
みんなで山へ(書き下ろし)
「いや、マズいって。あの人が嫉妬深いの知ってるだろう?」 「でもほら、はたけ上忍、今任務行ってるし」 「あと一週間はかかる任務だし」 「絶対バレないから」 「「「っつか、お前も受付兼任なら任務のメンツが集められない苦労、わかるだろーっ」」」 8月の夏真っ盛り、アカデミーは夏休みである。教師達は当番制で誰か一人学校に詰めればいいのでこの期間は里外任務に従事する。戦闘のカンを取り戻すための里外任務だが、いかんせん、里の中枢を担う教師や事務職は機密の塊である。しかも全てにおいてバランスのとれた能力を持ち精神面での安定も抜群となればおいそれと代わりの人材がみつかるものでもない。ゆえに命の危険の少ない任務が振り当てられるのは必然であり、忍界大戦が終わった今ではどことなくリフレッシュを兼ねた任務の様を呈している。そしてアカデミー教師、うみのイルカが受付で揉めているのはそのリフレッシュ的任務についてだった。 「だから、コンパ任務とかオレヤバイんだって。他の任務ならいくらでも行くけどコンパだろ?男女の出会いを演出します、なんて任務にオレが行ったことがバレてみろ。オレだけじゃなく任務振り当てたお前らまで粛清されっぞ」 うみのイルカには上忍の恋人がいる。里を代表する忍びと言われるはたけカカシだ。イルカの卒業させたクラスの上忍師の一人がカカシだった。一介の教師と次期里長と目される上忍の取り合わせは傍目には奇異に映るが、出会った時から一目惚れですとカカシがイルカを口説きに口説いて恋人同士となった。二人の付き合いは順調で今では同棲状態なのだが、一つだけ厄介なことがあった。カカシがヤキモチ焼きなのだ。元々、内勤の忍びは結婚相手として人気が高い。その中でも特にイルカは男女問わず人気者だった。イルカは背が高くがっちりとした男らしい青年である。顔立ちも悪くない。鼻の上を横切る大きな傷跡もニカリと明るく笑えば愛嬌になる。さっぱりとした気性と温かく人を包み込む度量の深さに惹かれる者は多く、密かに『受付天使』などと呼ばれていたりするのだ。カカシと付き合っているとわかっていても声をかける者があとを絶たないので心配する気持ちもわからないではないが、イルカにしてみれば、カカシもたいそうモテる男なので自分ばかりが嫉妬されるのは納得がいかない。ただ、里一番の忍びの嫉妬は恐ろしいのだ。出来るなら避けたい。普段ならば受付の同僚達も「コンパ任務」などといらぬ恨みを買いそうな任務をイルカに振り当てたりはしないのに。 「いや、実はな、イルカ、お前もご存知のとおり、これは毎年恒例火の国のお金持ちなお坊ちゃま方からの楽で美味しい任務なんだ」 「ご存知じゃねぇ、初耳だわ」 目を三角にしているイルカに受付同僚はうんうんとうなずいた。 「ご存じない。そうか、そりゃそうだ。この任務が初めて来たのはお前がはたけ上忍とお付き合いはじめた夏だったからな」 「かれこれ五年になるか、このボッタクリ任務は」 「ピチピチ二十代前半だったイルカも今では三十路前」 「そろそろイルカ君にも火の国の闇をみせる時期なんじゃないかと」 「意味わかんねぇ」 ドスのきいた声で凄まれ受付同僚達はざざざ、と引いた。笑顔が可愛い受付天使は案外気が短くキレたら怖い。はたけ上忍はよくこの男を可愛らしい、などという形容詞でくくれるもんだと常々同僚達は感心しているところだ。 「で、なんだよ、その闇ってのは」 「実はだな、お前も熟知しているように、都の金持ちのボンボンにイイ男はいない」 「まぁ、いねぇな」 「そして家柄のいい彼らには政略結婚として幼い頃から婚約者がいる」 「婚約者も家柄がいい」 「家柄が上がれば上がるほどイイ女度は下がる」 「……お前らも容赦ねぇな」 「「「真実だろ?」」」 確かに、世の中、美形の王子様と王女様がめでたく結婚いたしました、なんてことはないのだ。家柄や財産を守るため近い間柄で婚姻を繰り返してきた王族や貴族達はどうしても脆弱だったり見目が一段落ちる者が多い。家柄と財産以外取り柄がないと言ってもいい。 「だが我ら忍びの里の大事な金づるであるのも真実」 「だから大事にしないといけないんだ」 「オレ達のおまんまの元だから」 「それがなんでコンパ任務に関係あんだよ」 「「「おおありなんだ」」」 聞けば五年前から受けているコンパ任務とはただの護衛任務だったのだそうだ。貴族のお坊ちゃま達は結婚前に可愛い彼女と遊びたい。だが都にいては金目当ての女しか寄ってこず、普通の彼女が欲しい彼らは策を講じた。テレビ番組でやっている出会いパーティよろしく、男女でキャンプに行きカップルになるという方法で普通の可愛い彼女を得ようと考えたのだ。当然、応募形式で女性を集め自分たちも応募してきた体を装う。身分を隠しても自分たちが振られるはずがないと信じこんでいるあたりがお坊ちゃまなのだが。しかし、やはりお坊ちゃま達、護衛がいないと恐ろしくて行動出来ない。その護衛任務の依頼が木の葉にきて、アカデミーの若手教師二人がその任についた。 ところがここに誤算が生じた。キャンプ主催者の依頼での護衛兼雑用という名目で参加した中忍達、彼らは鍛えぬかれた忍びである。鋭い眼差しで周囲の安全確認を行い、薪割りから水汲みにいたる雑用を軽々とこなす姿にどうしても女性達の目は向いてしまう。しかも悪いことに任に当たったのはアカデミー教師兼受付という鉄壁の笑顔を持つ二人だった。彼らは基本、愛想がいい。それが仕事だからだ。そして気配りが出来る。教師だの受付だのの業務に必要だからだ。自然、女性達が困っているとさりげなく助けたりする。頼みごとは嫌な顔ひとつせずやってくれるし雑談にもさわやかな笑顔で応じてくれる、そんな忍びに人気が集まったのは無理からぬことなのだ。二泊三日のキャンプコンパ、終わってみれば当然キャンプコンパでのカップル成立には至らず、残ったのは依頼人である坊ちゃま達の疎外感と敗北感だけだった。 そして次の年も似たような状況になるのはしかたのないことで、しかし同じことが二年続いたら当然、坊ちゃま達からクレームがくる。なので一昨年は太めの受付中忍とアカデミー中堅教師の二人を振り当てたのだが、いかに太めとはいえ護衛中の忍びの目は鋭い。キャンプなので色々と忍びが手助けをするそれがまた女性陣の心を掴んで、三十代ぽっちゃり系忍びが坊ちゃま達よりモテてしまった。 去年は五十代の中忍、つまりアカデミーの主任と事務主任を送り込んだにもかかわらず、渋い、とおっさんがモテた。人生初の若い女性からのモテに主任達が張り切ってしまったのが更に事態を悪化させた。あれほどモテたらいかんと釘刺したというのに。 「要はその坊や達がどうしようもねぇってことじゃねーか」 どかん、とイルカが爆発した。 「そうなんだけど」 「で、なんで今年はオレなんだ。カカシさんの嫉妬の嵐を覚悟でそれでもオレってのは」 「今年は依頼内容が変わったんだよぅ」 同僚に泣きが入った。 「中忍二名が護衛ってのは変わんないんだけど」 「一人は身を隠して影から護衛、肝試しをするからその演出もやらされる。でも坊ちゃま達、キャンプの仕事なんて出来ないじゃん。どうしても人手は一人いるんだよ」 「設定はな、『同年代でドン臭くてイケてない友達が急遽コンパに参加してきた』だ」 「外回りの戦忍にそんな任務あてたって上手く演技出来るわけがない」 「潜入班にそんなろくでもない任務振り当てたら殺される」 「こういうのってアカデミー教師でないとこなせないんだよ〜〜」 「なのに今、全員他の任務に行っちゃってお前とヒラマサしか残ってねぇの」 「ヒラマサは最初の年にモテたから坊ちゃま達から嫌われている」 「ヒラマサが変化すりゃいいじゃねーかっ」 ぐおっと吠えればさらに泣かれた。 「変化はしないって契約なんだ。坊ちゃま達のプライドが許さないらしい」 「なんだそのチンケなプライド」 「チンケだからこんな任務がくるんじゃないかー」 イルカは額を押さえた。 「あのさ、主任達までモテたんだろ?オレ、少なくとも主任よか若いぞ?それだけでモテ要素だぞ?」 「わかってます。だからはい、変装キット」 どさりと洋服小物一式が任務受付カウンターの上にのせられた。 「こっちが黒縁瓶底メガネ、ダイジョブ、うちの研究開発部推奨品だから視界はクリアだ」 「こちらはもっさりオタク系チェック柄綿シャツとズボンね」 「一応バンダナもつけておく」 「………」 「装着型鼻毛、いる?」 「いらねぇよ…」 かくしてイルカは「キャンプコンパ」任務につくことになった。
オフ本「夏のペケポン」から「みんなで山へ」の試し読み。「みんなで海へ」(夏色図鑑加筆修正再録)「燃える波打ち際」(書き下ろし18禁)「サマーナイトフィーバー」(夏色図鑑再録18禁)「みんなで山へ」(書き下ろし18禁)となります。なんというか、青姦・ゆかたH・お仕置きHにトライして惨敗したというか…