是清万華鏡中忍カカシ編試し読み
     
     
 





オレの名前ははたけカカシ、ちょっと名前の売れている木の葉の里の看板忍者だ。
ひょんなことから愛猫是清とオレは、時空を超えた別次元の木の葉に飛ばされてしまった。

「愛猫って何でやすかっ、あっしぁ由緒正しき二百歳の化け猫、ただの猫扱いたぁどういう了見でやす。誰のおかげでカカッさんとあにさんが結ばれたと思ってるんで?あっしでやすよ、あっしがいなきゃあお二人他人のまんま、今日のイチャイチャパラダイスな生活はなかったんですぜ?」

最初の世界は身分制度のやけに厳格な木の葉だった。召使いのようにオレに仕えるイルカがいて、オレといえば皆から怯えられる存在だった。孤軍奮闘、オレは身分制度に僅かだけれど穴をあけ、イルカとの関係をイチャラブにして、七三分けのガイの頭をおかっぱ頭にカットしてやった。だって変だったんだよ、ガイの頭が整髪剤で七三にきっちりわけられてるなんて、そう思うでしょ?ただでさえ暑苦しいのに七三分けのガイなんってサイアク。だからまぁ、元のおかっぱに戻して問題解決ってわけ。

「問題解決ってそっちでやすかい?っつーか、カカッさん、いってぇ誰に向ってしゃべってるんで?」

次に飛ばされた世界ではオレは写輪眼菩薩、仏のカカシと異名をとる気持ち悪い奴だった。んでもってイルカときたらツンケンして恋人であるカカシには冷たいくせ、やたらと人気が高くて木の葉の婿にしたい男No.1なモテ男ぶり。

「仏のカカッさんはみんなに慕われてやしたがね。カカッさんよりゃあよっぽどの人格者みてぇでやした」

そのイルカをオレは見事ツンデレとして開花させ、そして七三分けのガイの頭をおかっぱに戻してやった。

「だから、誰に向ってしゃべってるんでやす?」

もう何だか、ガイのデフォルトは七三で、おかっぱがイレギュラーな気がしてくる。

「激眉はどうでもよくねぇですかい?それよりカカッさん、こっちの世界がどんなところが探らねぇと」

もう七三最悪。ただでさえ激眉暑っ苦しいのにその上に一筋の乱れもない七三って

「だーからカカッさん、早く自分の立ち位置探ったほうがいいんじゃあ」

暑っ苦しい通り越してキモっ苦しいよね、見てて痛いよね、でもそれがデフォルトなんだよねっ

「カカッさんって」

別次元のガイ並べたらぜーんぶ七三って壮絶すぎない?サラサラおかっぱ、いっそ清々しいよ、今までキモ、とか言って悪かった、おかっぱサイコー、天使の輪っかラブ、絶賛推奨おかっぱ頭世の中やっぱおかっぱだよね七三じゃなくておかっぱにしとかないと

「カカッさーんっ」

べし、と猫パンチが鼻に飛んだ。子猫の爪が鼻の穴に刺さる。

「いだいっ、ごれぎよ、いだい〜〜」

なんだか前に飛ばされた世界でも同じことをされた気がする。

「痛いくらいが丁度いいんでやすよ、別次元に移る度腑抜けられちゃあ面倒でたまりやせんや」
「あだだだだ、血が出る血が出る」
「上忍のくせ血が何でやす。早く事情を探らにゃあカカッさん、反逆者の息子呼ばわりされてやしたぜ?」

ひょいと手を引っ込め子猫が藍色の目を光らせた。

「随分ときな臭ぇじゃねぇですかい?激眉に現実逃避してる場合じゃありぁせん。それに」

子猫が顎をしゃくる。

「あにさんが妙な顔してこっち見てやすぜ」

自分の世界に逃避していたカカシの目の前ではイルカが心配そうな表情でこっちをみている。

「カカシさん?」
「あ〜、えっと…」

がしがしとカカシは銀髪をかいた。まだこっちの世界の様子がわからない以上、まさか「ツンデレとして立派に開花した別世界のアナタの手作り弁当を持ってアカデミーの宿直室に行く途中、ガイの七三わけをおかっぱ頭にカットしたらまた時空を飛ばされてこの世界にやってきた別な世界のはたけカカシです」と言うわけにはいかない。

それにたった今、自分に絡んできた下っ端上忍連中の言葉が気にかかる。
この世界に飛ばされて早々、カカシは数人の上忍にインネンをつけられた。カカシの世界でのその上忍達は九尾の災厄後、どさくさにまぎれて上忍になったクチで、実力がないくせに下に威張り散らす連中だった。ただ、カカシやアスマらトップクラスの上忍達の前では借りてきた猫のように大人しかったはずだが、こっちの世界では随分横柄な態度で突っかかってきた。それどころか侮ったあげく殴り掛かってくるとは、いったいどうなっているのだろう。

「どうにも解せやせん」

子猫がこそっと囁いてきた。

「さっきの連中でやすがね、あの口ぶりじゃあこっちのカカッさん、大人しく殴られてるみてぇじゃありぁせんかい?」
「お前もそう思った?」

カカシも頷いた。そうなのだ。まるでいつもカカシを殴りつけているような言い方に引っかかる。自分の性格を考えるにつけ、どうも釈然としない。
今まで飛ばされた二つの世界のカカシはそれなりに性格が違うものの、根っこは同じだった。そんな自分が立場がどうあれ大人しく殴られるだろうか。
しかも父親を反逆者と呼んだ。カカシの父はたけサクモは、任務より人命を尊重して里から非難され、心を病んで自殺したが、けして反逆者などではない。

「妙な感じだぁね」
「あにさんも殴られてるようでやすし」

上忍達の拳を当然だがカカシは避けた。同じ上忍とはいえ実力には天と地の差がある。数人がかりといえどカカシにとっては取るに足らない。適当にいなしてからこの世界のことを聞き出そうと思っていると、血相を変えたイルカが飛び込んできた。そして必死になってカカシを守ろうとする。あまりに意外な展開に思考がついていかなかったが、そういえば上忍達は気になる事を言っていた。イルカに対する脅しの言葉。

『またてめぇか、うみの』
『よっぽど痛い目にあうのが好きらしいな』

『また』とはどういうことか。こっちの世界のカカシはいつもあの連中に絡まれ、その度にイルカが庇っているということなのか。
連中は夜道に気をつけろと捨て台詞を投げつけてきた。今、カカシの目の前にいるイルカは傷だらけだ。この怪我はあのろくでなしどもにやられたのか。
たとえ実力不足とはいえ一応は上忍だ。しかも複数、中忍が一人で立ち向かうには分が悪すぎる。イルカの傷がそのせいだとしたら、こっちのカカシはいったい何をやっているのだ。グルグルしているとイルカがそっと頬に触れてきた。

「本当にどうしちゃったんだろ、打ち所でも悪かったのかな」
「えっ」

思わず目を瞬かせイルカを見るとニカ、と笑った。

「よかった。ぼーっ、としてるからどうかなったのかと思ったじゃないですか」

それから肩の是清に目を移す。

「で、カカシさん、この猫は何です?さっきからあなたとこそこそ喋ってるようですけど…」

不審物扱いだ。子猫のヒゲがへにゃりと下がった。

「ホント、どこ行ってもあっしぁ部外者でやすよ」
「あ〜、いや、その…」

本当に答えようがない。カカシが言葉に詰まっていると、受付棟の方からまた慌ただしい気配がやってきた。

「あ、いたいた。」

イルカの中忍仲間であるカンパチとタニシがこっちを指差し走りよってくる。

「どこいってたんだ、探したんだぞ」
この世界でもイルカと親しいようだ。

「一人でチョロチョロすんなよ、カカシ」

へ?

今、呼び捨てにされた?カカシは目を瞬かせた。

「カカシ、お前何やってんだよ」
「ヤバいって、ヨリシロ上忍、おかんむりだぞ」

駆け寄ってきた中忍、カンパチとタニシが話しかけているのはイルカではなく自分だ。ということはやはり空耳ではなく、呼び捨てにされたのか。ぽかんとするカカシの肩にカンバチがガッと腕をまわしてきた。

え?えぇ?

カカシは目を白黒させる。確かにカンパチやタニシとは親しく言葉をかわすが、イルカ繋がりで知り合った彼らは決して礼儀を忘れない。カカシの世界だとて忍びが縦の階級社会なことには変わりなく、スリーマンセルの仲間だとか個人的に親しいとかでないかぎり、中忍が上忍を呼び捨てにしたり不用意に触れるなどありえない。なのに彼らは悪びれる様子もなく肩を組み、あまっさえわき腹を小突いてきた。

「ほら、ボケッとすんなやカカシ」
「猫なんか拾ってねぇで急げ、お前、ヨリシロ上忍のチームで任務してきたんだろ?報告書まかせたのにまだ出してねぇのかって騒いでんだ」

イルカがムッと眉を寄せた。

「受付で騒ぐ暇があるなら隊長であるヨリシロ上忍が何故書かないんだ。それに、ヨリシロ上忍のスリーマンセルは今帰還したばっかだろ。騒ぐほどの時間はたってないぞ」
「いつもの嫌がらせだよ」

タニシが口をへの字に曲げる。

「タチ悪いからさ、ヨリシロ上忍」
「とにかく急ごう。遅くなったらますます難癖つけられるぞ」
「ほら、カカシ、オレ達も一緒に行ってやるから」
「カカシさん、行きましょう」

唖然としたままカカシは三人に受付へと引っ張っていかれた。



 
     
     
 

ってことでカカシさん、この世界のことがさっぱりわかりません。もちろん、このカカシの世界に飛ばされた『中忍カカシ』君もギャップにパニックです。次の本で今度こそ完結だぁ〜