嗤う伊○衛門を読んだらね
     
     
 




 

イルカ先生は本や映画にすぐ影響される。これは付き合ってみて初めて知ったことなんだけど、落ち着いた大人な人かと思ったら案外この人って子供で甘えたさんだ。ま、そこがまた可愛くてたまんないんだけどね。今日も今日とて、なにやら深刻な顔して側に来た。

「こうやってお互い、愛し合っているのにすれ違うんですね、オレ達…」
「はい?」

また何を読んだの、この人は。

「一言、お慕い申し上げていますって言えればよかったのに。」
「言ったじゃない。」
「口を開けば想いとは反対の言葉ばかり。」
「はい嘘。」
「哀れなオレは愛してるって言えないんですってば。」
「愛してくれなきゃ心中だって脅した人の言葉とも思えない。」
「容姿に負い目があるからオレは愛される自信がないんです。」
「可愛いですよ?」
「素直になれないし。」
「はい、それも嘘。」

あ、むくれた。でもオレは知っている。イルカ先生がオレの恋人だってのを気に入らない連中がイチャモンつけて絡んだ時、あの人、宣言したんだそうだ。愛されてるのはオレだ、ざまーみろって。この上なく素直だし自分の気持ちに忠実だと思うけどね。現にほら、今だって話をあわせないオレが不満でぷぅ、と頬をふくらませてる。

「掛け違ったボタンは大きな悲劇を呼ぶんだから。」
「忍服にボタンはないから大丈夫ですって。」
「あなたへの愛を胸に秘めたまま,伝える事も出来ずにオレは狂うしかない。」
「こんだけ自己主張できる人は狂わないんじゃないですか?」

そうなのだ。受付じゃ穏やかな顔してるけど、この人はどうして気性が激しい。オレのこと、好きだと告白してきた時の目なんか、そりゃもう、黒い炎を目の中に閉じ込めてるのかってくらい激しかった。思い出すたびに今でもゾクゾクする。その目にヤられて、その上この子供っぽさ、のめりこむなってほうが無理な話だ。まぁ、教えてやらないけどね。

「カカシさん。」
「はい。」
「オレに飾り櫛を買ってください。」
「別にいいけど。」
「それをオレの髪にさして抱きしめて。」
「そりゃ大歓迎ですね。」
「で、蛇や鼠に齧られて死んで下さい。」
「ヤですよ。」

……だから何を読んだんだ。

「ひどい。即答だなんて。」
「普通は即答でしょ。」
「なんで笑って死んでくれないんです。」
「蛇や鼠にかじられて笑えるのは変態だけです。」
「オレなんてかじられて骸骨になるのに。」
「だったらかじられなきゃいいでしょうが。」
「愛がないっ。」

よよ、とイルカ先生は泣き崩れる。やれやれとオレは彼を抱き起こした。

「つまりね、オレより先に骸骨なんかになっちゃダメってことですよ。」

涙でくしゃくしゃのイルカ先生にちゅ、とキスをする。

「過去も今もこれからも、オレの愛する伴侶はイルカだけ。」

そう言ってにっこりしてやれば、イルカ先生は大きく目を見開いてオレを見つめた。

「わぁぁん、カカシさぁん。」
「はいはい。」

抱きついてきた背中をさすり、盛り上がったところでベッドに連れ込む。真っ昼間からオレはセンセを美味しくいただいた。棚からぼた餅だね。何を読んだか知らないけど、すっかり入り込んじゃってる先生は普段やってくれない過激なことまでしてくれた。なりきりキャラ、万歳だ。

コトが終わってイチャイチャしながら聞きだすと、どうやらラストシーンでオレが言ったのと同じような意味のことを男が言っていたらしい。オレは蛇や鼠にかじられて笑いながら死ぬような変態の話を読む気はないけど、イルカ先生がなりきってくれたらオイシそうな本や映画をさりげなく用意しようと心に決めた。上手く誘導してまた盛り上がろう。ホントにこの人、最高だ。

「また読書感想、聞かせてくださいね。」
きょとん、と見上げてきたセンセの額にオレはそっとキスを落とした。


 
  いやいやいや、嗤う伊右○門は素晴らしい作品です。一気に読み終わって泣いたよ、マジで。イルカ先生も感動したんです。ただ、ベクトルがあっち向いてただけで(って、ただのアホのような…)