暗部に配属されて半年、先輩達の指導のもと、様々なタイプの任務をこなし、次第に難易度の高いものをまかされるようになってきた。そろそろお前も一人前の暗部だな、という嬉しい言葉とともに先輩から肩を叩かれたのはついせんだっての任務成功の時だ。
そして今日、とうとうオレは特S級任務のチームメンバーに選ばれた。ビンゴブックで「首狩り善三」の異名を持つ力自慢と「冥界のリオ」と呼ばれる幻術使いの二人が率いる抜け忍集団の殲滅だ。この連中、任務帰りの木の葉の忍を惨殺したばかりか、里の隣村を襲って自分達の根城にしたのだ。しかもあろうことか、新たな忍の里宣言までやらかした。これは明らかに木の葉への宣戦布告だ。怒った里長が暗部精鋭での殲滅を命じたのも無理はない。
メンバーに選ばれてオレは奮い立った。同胞や何の罪もない人々を殺した者達への怒りもあるが、なにより、この作戦の隊長があの写輪眼のカカシであるということに興奮したのだ。
写輪眼のカカシといえば、まだ年若いにもかかわらず、ビンゴブックの中でもトップクラス、生ける伝説となった忍だ。ここ最近は次期火影としての研鑽を積ませるべく、現場よりも政治向きの仕事を任されていると聞いていたが、やはり写輪眼のカカシくらいの忍が出なければ収まらない任務なのだろう。
「いや、カカシ先輩、現場の方が好きな人だから、今回は五代目の反対を押し切って自分から出て来たんだよ。」
そう言って笑ったのは、オレとツーマンセルを組んだテンゾウ先輩だ。この人も現役暗部最強と言われているすごい忍で、だからこそ新米のオレと組んでくれた。頼りになる立派な先輩だ。
「次期火影候補とか言われて嫌がってるからね、カカシ先輩は。性に合わないって逃げ回ってるよ。まぁ、僕達としては、ああいう人こそ火影になってほしいんだけど。」
あ、そうなんだ。結構親しみのわく人なのだろうか、写輪眼のカカシって。
「心根の優しい人だよ、カカシ先輩は。だからこそ仲間を大切にするんだけど、それだけ自分に厳しくて、見ているこっちが辛かったこともあったなぁ。昔は、だけどね。」
昔ってことは、今はもう大丈夫なのかな。それにしてもテンゾウ先輩って、ホント写輪眼のカカシを尊敬しているんだ。側で戦っていたからこそ心から敬愛しているんだろうな、それってすごく羨ましい。
「恋人が出来てからカカシ先輩、変わったからね。いい意味で肩の力が抜けたっていうか、余裕が出たっていうか。」
うわーうわー、写輪眼のカカシが変わるくらいだから、その恋人って人もすごいんだ。同じ暗部なんだろうか、美人なんだろうなぁ、きっと。
オレがひたすら感心していると、テンゾウ先輩がスッと面をつけた。ハッとしてオレも臨戦態勢にはいる。そろそろお出ましか。写輪眼のカカシが率いる隊が敵の精鋭を森へ誘い出している間に、マイト・ガイ上忍の一隊が村を制圧する手はずになっている。テンゾウ先輩が低く囁いた。
「よく見ておくといい、カカシ先輩の戦いを。あれは誰にも真似できないよ。」
ごくり、と喉をならし、オレは頷く。テンゾウ先輩が面の後ろで微笑むのがわかった。
「いつの日かオレ達後輩も、カカシ先輩のあの技をやりたいと切望して修行しているんだ。もっとも、道は険しいけどね。霧の上忍、あの「五月雨剣のゴンゾ」が同じ事やって失敗して、瀕死の重傷をおったくらいだから。」
えぇっ、ビンゴブックでも特S級にあげられている「五月雨剣のゴンゾ」が失敗したなんて。写輪眼のカカシはいったいどんな技を使うんだろう。どきどきしていると前方から凄まじい殺気をまとった一団が移動して来た。合図があるまでオレ達はここで待機だ。じっと息をひそめていると、テンゾウ先輩が小さく言った。
「カカシ先輩だ。」
声に興奮が混じっている。テンゾウ先輩の見上げる先にオレも目をこらした。
いた、写輪眼のカカシだ。森の大枝にすっくと立っている。
月明かりに銀髪が煌めいて、まるでスポットライトを浴びているようだ……
って、え?あれって、ホントのスポットライト?もう一人の写輪眼のカカシがライトかかげてるよ、え?ヤバくね?すげー目立ってんだけど、っつか、オレ、今気付いたけど、写輪眼のカカシの下に赤い絨毯敷いてある。何アレ、ふつーにアブねぇだろ、攻撃集中するよ、死んじまうよ、何なんだよ写輪眼。
唖然とするオレの隣で、テンゾウ先輩がますます興奮する。
「よっ、カカシ先輩っ。」
よっ、て何ソレ、アンタどこの人だ、拳握って、怖ぇよこの人。
「キターー」
まじまじとテンゾウ先輩を眺めていたオレは、その声にぎょっとして、また写輪眼の方を見た。そして今度こそ本当に衝撃で真っ白になった。
なんだありゃーーっ
写輪眼のカカシの横に赤いブルマーをはいた銀髪の男が立っている。覆面してるからもしかしてアレも写輪眼の影分身?その赤いブルマーが高々と手をあげ宣言した。
「はたけカカシのスーパーイリュージョンっ。」
はいーーーっ?
「これから、私、はたけカカシの影分身がこの炭酸飲料を一気に飲み干し、そのままゲップをせずごらんいれますっ。」
はぁーーーーっ?
「ついでですが、わたくしが炭酸飲料を飲み干す間に、本体が敵の首領二人を倒します。」
ついでなのかっ、ついででいいのかっ、っつか、こいつらを倒すのが任務だったんじゃないのかっ。
なのに、写輪眼のカカシが宣言した途端、周囲からやんややんやの大喝采が沸き起こった。いつの間にか同じ隊の先輩達がわらわら総出で声援を送っている。
「カカシ先輩かっこいいーーっ。」
「きゃ〜〜〜、せんぱーいっ。」
きゃ〜って、かっこいいって、せっ先輩達、気配消して待機じゃなかったんスか。隠れもしないでそんな…ってヲイ、鳴りものまであるよ、忍びだろ暗部だろ、忍ばなくっていいのか先輩達っ。
こんなんじゃさぞかし敵もあっけにとられているだろう。そこまで考えてオレはハッとした。敵もあっけにとられる、もしかしてそれが狙いなのか。ビンゴブックでも悪名高いあの二人の抜け忍を相手にすれば、いかに優秀な木の葉の暗部でも犠牲がでるだろう。それを避けるためにあえてアホな真似をして相手の気勢を削ぎ、隙をついて殲滅するつもりなのだ。そうか、そうだったのか。やはり写輪眼は奥が深い、忍びは裏の裏まで読め、だな。
呆然と突っ立っているであろう敵の隙を突くべく、オレは一歩踏み出した。
「これが噂のスーパーイリュージョンか。」
あれ?
「上等だ、貴様のイリュージョン、この首狩り善三と冥界のリオが打ち砕いてくれよう。」
あれれ?
「はたけカカシ、覚悟っ。」
あれれれれ?
もしかしてコレ、有名なわけ?オレが知らなかっただけ?
えええーーっ、でも、それじゃ相手もそのつもりって、隙つけないってことは、ええーーーっ、圧倒的に不利じゃね?だってだって、姿はバレバレだわネタは割れてるわ…ってオイーーッ、マジで赤いブルマーの影分身、炭酸飲み始めたよ。うわ、敵が二人掛かりで敵が術かけてっじゃねーの、助けにいかないとテンゾウ先輩っ
「ぎゃ〜〜、カカシ先輩かぁっこいいですーーーっ。」
………テンゾウ先輩、その花輪、どこから…
オレはこの任務の失敗を確信した。いくら写輪眼のカカシでも、これじゃ敵に殺してくださいと言っているようなものだ。きっと八つ裂きにされる。そしてオレ達の隊も全員…
「火遁火龍炎弾っ。水遁飛竜昇っ、」
目の前を何かが吹っ飛んで行った。首狩り善三だよオイ…わ、冥界のリオが幻術返しくらって悶絶してる、うわ、すげーーっ、雷遁と水遁のコンボ技、初めて見た、あ、赤いブルマーが炭酸飲み終わったけど、うわおー、ゲップが火遁劫火球になってんじゃん、敵忍の数人が巻き込まれてる。トドメは雷切り、すごすぎるーーーっ。
ものの一分もたっていなかった。そう、それこそ赤いブルマーが炭酸飲料を飲んでいる間に、はたけカカシの本体はあっさり二人を片付けてしまったのだ。オレは感動で震えた。こんなすごい術の使い方、見た事がない。マジ、イリュージョン、はたけカカシのスーパーイリュージョンだ。
「テッテンゾウ先輩っ。」
感極まって隣に立つ先輩の名を呼べば、面を外したテンゾウ先輩がその黒々とした目に涙を光らせながらオレを見つめた。
「うん、わかっているよ。」
そして力強く頷く。
「いつの日かオレ達も、あの赤いブルマー、はけるようになろう。」
「はっはいっ。」
オレの目から感動の涙がこぼれ落ちた。そうだ、いつの日かオレも写輪眼のカカシのように赤いブルマーをはいて戦いたい。そのためにも鍛錬をかかさず、精進していこう。
「さぁ、行くよ。」
再び面をつけたテンゾウ先輩が凛として言った。
「僕達の任務は敵の殲滅、残った雑魚どもを一人残らず叩き潰してやろう。」
「はい、先輩っ。」
面をつけ、オレは他の暗部の先輩達とともに残った敵の中へ突っ込んだ。憧れの赤いブルマーを心に抱いて。
「お呼びでしょうか。」
アカデミー教師であり、受付業務も兼任する中忍、うみのイルカが火影の執務室へ入ると、苦りきった顔の綱手がそこにいた。
「火影様?」
ちょいちょいと手招きされる。おそるおそる執務机の正面に立ったイルカを五代目火影、綱手はじろり、と見据えた。
「お前、最近テレビ、何を見ている。」
「は?」
きょとんとすると、綱手がドン、と拳で机を叩いた。
「だから、何の番組を見ているのかと聞いている。」
「あっあのっ…」
狼狽えながらもイルカは答えた。
「最近はお笑い番組とか観ています。」
「一番好きなのはっ。」
「その、お笑いレッドカー◯ット…ですか。」
「気に入りの芸人はっ。」
「ナベア◯とかハイキングウォー◯ングとか狩野英◯とか…」
「その中で赤いブルマーに心当たりはあるかっ。」
「ハッハイキングウォー◯ングかと…」
「それだーーーーーっ。」
ばあん、と机に両手をついて綱手が立ち上がった。ひぃ、と首を竦めつつ、イルカはある男に思い当たる。
「あっあのぉ、綱手様、あのバカがまた何か…」
「しでかしたんだよ、あのバカがっ、暗部どころか、近隣の忍の里にまで妙なモンをはやらせおってっ。」
あちゃ〜〜〜っ
イルカは頭を抱えた。言われなくてもだいたい見当がつく。イルカの恋人、写輪眼のカカシが何をやらかしたか。
「つっ綱手様…」
「いいかいイルカっ、あんなバカでも里の顔、第一級の忍なんだよ、だのに自分の行動が引き起こす影響をまったくわかってないアホなんだっ、それはお前が一番よく知っているだろうがっ。」
「はっはいっ、申し訳ありませんっ。」
「恋人といえば保護者も同然っ、見せる番組を選ぶのは親の義務っ、だいたい十時すぎてから子供にテレビなんか見せるんじゃないよっ、お前、教師だろうがーーっ。」
「申し訳ありませんーーーっ。」
いや、オレは恋人ですけど親じゃないです、とか、あの人、バカですけど三十前の大人です、とか、突っ込みどころは山ほどあったが、ここで逆らうとまた叱られるのでイルカはひたすら頭を下げた。
「オレが責任もって、赤いブルマー取り上げます。二度とこんな不祥事起こさないよう本人によく言い聞かせますので。」
「あったりまえだーーーっ。」
その後、はたけカカシのスーパーイリュージョンが行われる事は二度となかった。赤いブルマーは伝説となり、五大国それぞれの忍の里の暗部達によって語り継がれたとか。
「こぉらぁーーっ、暗部任務になんで白いスーツと薔薇の花持って行くっ。」
「えっ、だっだって…」
「僕イケメーン、フゥ〜、とかやりやがったら離婚するからなっ。」
「えぇぇーーーっ。」
恋人、うみのイルカの厳しい監視下におかれた写輪眼のカカシは、とりあえずお笑い番組の禁止だけは免れたらしい。そして今日も新人暗部達は、はたけカカシの勇姿に胸躍らせ、日々の任務に励んでいる。
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