オリンピックを観てたらね
     
     
 




 

イルカ先生はミーハーだ。アカデミーや受付では普段、落ち着いた大人の顔をしているけど、いざ付き合ってみるとこの人、ミーハーで子供で思い込みが結構強い。
まぁ、そんなとこが可愛くもあり、他の誰にも見せない顔だと己の優越性を噛み締めてみたり。
要はどんなイルカ先生でも大歓迎ってくらいオレは惚れてるってわけだ。読んだり観たりしたものにすぐ影響されるから、持っていきようで美味しい展開になるしね。



ここ最近のイルカ先生は冬季五輪にどっぷりはまっている。いつもはスポーツ観戦なんかしないくせ、オリンピックは特別らしい。
今日も今日とて、男子フィギュアを夢中で観ている。でもそれ、二回目だよねぇ。ライブで観て、また再放送を熱心に観るって、ホントもう、はまりやすい人なんだから。

「カカシさん、カカシさん、ほら、この人ですっ。」

イルカ先生がキラキラした目でオレに振り向いた。

「ん〜?」

夕食後のイチャイチャタイムをテレビに奪われていささか不満なオレは気のない返事だ。でも、とことんミーハーなイルカ先生は全然気がついてない。

「一昨日オレ、言ってたでしょ。SPで素晴らしい滑りをしたのに、不当に点が低かったって。この人のことなんですよ、ほら、素敵でしょうっ。」
「ん〜。」
「オレとしては同じ国の高◯大△にメダルとってほしいですけど、このウ◯アーにもがんばってほしいです。」

このにわかフィギュアファンは熱弁をふるう。だけどオレは全く興味がない。生返事しながらテレビを観ていると、件のフィギュア選手の演技が始まった。なんでもフリースタイルとかいって、今日の点数と一昨日のSPって奴の点数を合計するらしい。

「ん〜、本当だ、上手ですね。」

適当に相づちをうつ。オレとしては頬を紅潮させて一生懸命なイルカ先生をどうにかしたいな、ってことしか考えてないんだけどね。

「素晴らしいですよね、彼。技術だけじゃなくて、この表現力と魅力、ちょっといないタイプですよ。」
「そうですねぇ、いませんねぇ。」

技術と言われても何が何やらさっぱりわからん。とりあえず早くこの番組、終わってしまえ。問題はこの熱狂しているイルカ先生をどうやってその気にさせるかだ。何かに夢中な彼はとても可愛いので、この状態のまま閨に持ち込みたい。

「他の男子フィギュア選手に比べて体の線が細いんですけど、そこがなんとも美しいと思いませんか。」

完璧な演技をみせるウ◯アーとかいう奴にイルカ先生の目は釘付けだ。他の男に目をやるなんて、ちょと気に食わないね。
演技がおわると、リンクに花束がいくつも投げ入れられる。人気があるようだ。点数待ちのその選手は薔薇の花冠を頭にのせていた。う〜ん、これって、イルカ先生も似合いそうだよね。薔薇の花冠、今度なんとか丸め込んでやってもらおうかな。

「ほら、言ったでしょう?不当に点数、低いんですよ。許せませんっ。」

イルカ先生が激昂している。会場からもブーイングが起こっているからそうなのだろう。ぷりぷりしはじめるイルカ先生を宥めようとオレは同意を示すよう頷いた。

「ホントですねぇ。上手だったのに。」
「そうでしょうっ。カカシさんもそう思うでしょう?こんな魅力的な選手なのにっ。」
「そうねぇ、おしりプリッとして可愛いのにねぇ。」

誉め倒して早めに切り上げなきゃ。あぁ、はやくプリッとしたイルカ先生のおしりと仲良くしたい。

「プリッ…?」
「そうそう、おしりのラインがプリッてしてる。」

あなたのおしの方がプリッとして眼福ですけど。

「プリッてしたおしりっていいよね。」
「……カカシさん。」
「はい?」

ここでようやくオレはイルカ先生の様子がおかしいことに気がついた。

「カカシさんは…」
「何です?」

イルカ先生、大きな黒い目を見開いてじっとオレを見つめている。うう〜ん、誘ってんの?可愛いなぁ。

「カカシさんは、プリッてしたおしりが好みなんですか…?」
「あ?あぁ、まぁ。」

何の事だ?

「ああいう、プリッとした…?」
「え?えぇ、そうですね。」

アンタの可愛いおしりなら毎晩だって可愛がりたい。

「好きですよ…って、えっ、ええっ?」

イルカ先生の目にみるみる涙が盛り上がる。

「イイイイルカ先生?」
「カッカカシさんのっ」

伸ばした手は払いのけられた。

「カカシさんの浮気者ーーーっ。」

「えええっ?」
なんでーーっ?

イルカ先生はがばり、と立ち上がり部屋を飛び出そうとする。

「まま待って、どうしたのイルカ先生っ。」
「オレというものがありながら浮気するなんてっ。」
「えええええーーーっ。」

オレ、何かやった?そりゃエッチなことは考えてたけど、でも、浮気って。パニック状態のオレの隙をついてイルカ先生は玄関のドアにとびついた。慌ててオレはその体を押さえる。

「触るな、不潔っ。」
「ちょっちょっと、不潔って」
「浮気するような汚れた手で触らないで下さいっ。」
「浮気なんてしてないでしょ。」
「オレ以外の男の尻に見とれるなんて浮気ですっ。」

そこーーーっ?
でもアンタがいい尻だって言ったんじゃ…

「女ならまだしも、他の男の尻なんてーっ。」

女の尻ならいいのか…なんて呑気な事考えてる場合じゃない。

「ごっ誤解です、オレはイルカ先生の尻一筋ですっ。」
「不潔ーーーっ。」

びたーん、と頬に衝撃が来る。ショックで呆然としているうちに、イルカ先生は外へ走り出てしまった。実家に帰らせていただきます、という捨て台詞とともに。


………っつか、アンタの実家って、どこ?





ようやく我に帰ったオレは忍犬使ってイルカ先生の「実家」を探し出した。
センセは髭と魔女、もとい、アスマと紅の新居に身を寄せていた。九尾の事件の後、三代目の屋敷に引き取られていたイルカ先生にとって、実家イコールアスマの家らしい。
うわ〜、あの夫婦が義理の兄姉?すごく嫌だ。
ともあれオレはイルカ先生を迎えにいって、謝り倒して誤解を解いて無事に戻ってきてもらったんだけど…





アカデミーで鍛えたイルカ先生の怒鳴り声は近所隣全てに丸聞こえで、翌日オレが男と浮気したって噂が駆け巡っていた。おまけにオレの好みは「プリッとした尻」だとか。
じょーーーだんじゃないっ。男の尻はイルカ先生限定だっての。


憤懣やるかたないオレの傍らでイルカ先生はまた熱心にエキシビジョンなるものを鑑賞している。すでに深夜二時、アッチの方も今夜はおあずけだ。
オリンピックが閉会するまで、オレは寂しく夜を過ごすしかないらしい、とほほ…




 
  すんまっせーーーーんっ。や、毎度毎度土下座するようなもの、アップすんなって話なんですけど、とにかカカイラーさんとスケートファンの皆様、すいまっせーーん。や、もとはといえばBおばさんが悪いんだよ。ウィ◯ー君素敵ねって話をしたら「あのお尻プリっとしたとこが」って発言かましたのはBおばさんだからね。オッオレは悪くねぇ、悪いのはアイツなんだ〜〜〜(責任転嫁)