ピンポンパンポーン


　
「グッモーニン、木の葉ーっ！任務受付所有線放送局がお送りする『皆さん、ガンバ』の時間でーす。今朝も元気にいっちゃいましょうっ。

さて、まずは今日のお天気から。
今朝起きたら古傷が痛むわ〜って忍者さん、多かったんじゃないですか？そう、東の空に発達した低気圧があり、気圧の谷が木の葉の里側に近づいています。古傷の痛み、ドンピシャリ、ですね。
任務の入っている方、雨具の点検を入念にしておきましょう。
午後から風も強まってきます。確実に敵をしとめるためにも、風向きのチェックを是非やっておきましょう。風を利用したトラップも有効かもしれませんね。

では次の話題、今日の火影様ー。

ちゃらっちゃらっちゃっちゃ〜ん

霧の国から贈られた泥パックを夕べお風呂の時ご使用になりました。今朝のお肌の状態、いかがでしょうかー。くノ一の皆様、気になりますよね。これは是非、チェックですよお姐様方。
三代目は午前十時から十二時まで受付所におられまーす。
でもまぁ、あんだけ皺がありゃわかんねぇか。

さてさて、次はお待ちかね、今日の運勢ー。

どんどんぱふぱふどんどんぱふぱふ

本日はいつも担当しているコトミちゃんが任務なので、このままオレ、うみのイルカがお伝えしちまいまーす。

まずは今日のしょんぼりさんは蟹座ー。
蟹座のあなた、なにをやっても空回りの一日、任務のある人は注意が必要ですよー。特にSランク任務の上忍さんや暗部さん、死なないよう気をつけて。でも大丈夫、そんな蟹座のあなたの不安、うみのイルカが吹っ飛ばしちゃいます。
まずラッキーアイテムはコレ、起爆札ー。
ポーチに入れてラッキーワードでおまじない、『命あっての物種』って五回唱えましょう。悪い運勢なんか吹っ飛ばしてくれちゃいます。ラッキーカラーは青、術式書くのに青い紙を使うのが効果的。

そして今日のラッキーさんです。本日のラッキーさんは乙女座のあなたー。
どんどんぱふぱふどんどんぱふぱふ

乙女座のあなた、今日は何をやっても上手くいっちゃいます。運勢は最高潮、バンバン敵忍たおせるし、任務達成も楽々、もしかして新しい出会いもあったりして。
ラッキーアイテムは大手裏剣。持つのにちょっと邪魔だけど、Sランクの人、必携です。
ラッキーワードは『解』、幻術『解』で解きまくりですよー。
最後に乙女座のあなたのラッキーカラーは赤、前髪に赤いリボンとか結んでいったら最強ーっ。

それでは、今朝の『皆さん、ガンバ』このへんで。蟹座の君も乙女座のあなたも、そして他の星座の忍者さんも、皆さん、ガンバ、いってらっしゃーい。」

「うみのイルカはいるかーっ。」

受付所は氷点下まで凍り付いた。はからずも親父ダジャレになってしまった台詞のせいではない。大手裏剣を背中に担いだ血濡れの暗部が乗り込んできたのだ。

「うみのイルカはどいつだっ。」
「ひぃっ。」

受付所の忍び達は全員、カウンターに座る黒髪の男を指差した。だが、同朋を売るようなその行為を誰が責められよう。それほど暗部の殺気は凄まじかった。

「きっさまぁーっ。」
「ひぇぇぇぇっ」

ヅカヅカと暗部が歩み寄る。

「よくも嘘八百並べてくれたな。今日のラッキーさんが乙女座だぁ？どの面下げて抜かしやがった、えぇっ？」

「はゃわわわわわ」

「バンバン敵忍倒せるだぁ？あ〜そうね、バンバン出てきたよ、予定外の敵忍さんがバンッバン。おかげで任務、なかなか終わりませんでしたよ。
しかも新しい出会い？ありましたよありました。帰還途中、新しい敵忍さんに襲われましたからね。ある意味当たってるよね？
でも乙女座、ラッキーさんなんでしょ？だぁったら出会いっつったら可愛子ちゃんとか思うじゃない。誰がビンゴブックに乗ってる化け物みたいな敵忍と新しい出会いなんかしたいのよ。あれが出会いかっつーのっ。」

バン、とカウンターに両手をつかれ黒髪の中忍はひっくり返りそうになった。すかさずその襟首を掴まれる。

「あひぃぃ」

「アンタ、コレ見える？オレの背中の大手裏剣、乙女座のラッキーアイテムね、アンタが言ったの，今朝、Sランク任務必携ってアンタがね。だからわざわざ背中にしょっていったらさ、デカすぎて動きづらいわ影に忍べないわ使い道ないわ、結局背負ったまま帰ってきたよ。無駄に体力削ってさ、なんのラッキー？え？言ってみなさいよっ。
だいたいラッキーワードが『解』？オレ相手にそうそう幻術ききゃしないっての。ラッキーワード、使うまでもないしさ。でもねぇっ、そんなことよりねっ。」

暗部は刀傷で半ば割れている面をぽい、と放った。端正な顔が露になる。その場にいた忍び達は息を飲んだ。いや、端正な素顔に、ではない。端正な素顔を持つ暗部の、露になった前髪にだ。そこには赤いリボンが可愛らしく結ばれていた。

「これーっ。」

暗部はこれ以上なく激昂して叫んだ。

「召集場所で仲間に笑われるしさっ、だから面の下に押し込んだけど、戦ってたらやっぱはみ出すじゃない。わかる？アンタ、敵とやり合ってるとき、吹き出されたのよオレ。どんだけ恥ずかしかったか。この前髪みた敵、だから全員抹殺したけどねっ。」

仲間に笑われた時点でリボン、取ればよかったんじゃね？

そういう突っ込みを口に出せる者はいない。

っつーかこの人、もしかしなくても写輪眼のカカシ？

銀髪に色違いの目を持つ暗部といえば里の誉れ、写輪眼のカカシしかいない。
じゃあ、里の誉れは今朝の受付所有線放送「皆さん、ガンバ」の占いコーナーそのまんま実行したってことなのか。
それってありえなくね？

「何、アンタら、文句あんの？」

ぐるん、と振り返られた。心の声が聞こえたらしい。
写輪眼、半端ねぇ。
受付所の忍び達は恐怖に震え上がる。

「ま、いいや。」

写輪眼のカカシはふい、と注意を目の前の中忍に戻した。襟首掴んだままの黒髪中忍はすでに白目を剥いている。

「ちょっと、まだオレ、アンタに言いたいこと山のようにあるんだよ。ほら、起きて。」

ペチペチと頬を叩くがうみのイルカは意識を飛ばしたままだ。

「しょーがないなぁ。」

やれやれ、といった風情で写輪眼のカカシはため息をつくと、失神している中忍をよっこらせ、と肩に担ぎ上げた。

「場所変えて話しましょ。オレんちでいい？ま、アンタに選択権ないけどね。」

気を失ったままのうみのイルカにそう言い放つと、銀髪の暗部は抱えた中忍ごとどろん、と消えた。後には大手裏剣が黒髪中忍の椅子に残されているだけだ。

「……邪魔だったんだ、大手裏剣。」

そこじゃねぇっ

そう突っ込めたのはほんの数人だった。その場にいたほとんどの忍び達は何がどう大変な事態に陥っているのかまで頭が回っていなかった。

血濡れ暗部による占いコーナークレーム事件からしばらくして、件の黒髪中忍と銀髪の暗部が仲良く連れ立って歩く姿が目撃されるようになり、時を同じくして木の葉任務受付所有線放送局の看板番組『皆さん、ガンバ』の担当が変更になった。元担当、うみのイルカに理由を問うと、決まってこう言うそうだ。

「だって、新しい出会いはオレだけにしてってカカシさんが。」

そして照れくさそうに赤く染まった頬を指でかく。その笑みがあまりに幸せそうで、皆、それ以上詳しく事情を聞くことができなかったという。

「ま、結局占い、大当たりだったんだぁよ。はずれたと思ってた全てが運命の出会いに繋がってたってわけ。あの人って、オレのリボン、可愛いっていうのね。でも他の連中に見せたくないから自分の前だけにしてくれって、も〜どっちが可愛いのって気にならない？あ〜心配、里で変な虫がつかないかホント心配。え？『皆さん、ガンバ』に復帰させる気？あるわけないでしょ。あの人の可愛い声を里中に毎朝毎夕ばらまくなんてもったいない。あの人の声はね、オレの名前だけ呼んでりゃいいんだよ。」

ほどなくして、いつぞやの大手裏剣が「恋愛成就のラッキーアイテム」と銘打たれ受付所に飾られた。赤いリボンは暗部待機所に祭られているという話だが、里の機密事項に含まれるため、事の真偽は明らかではない。