元新米中忍の独白(新米中忍シリーズ3)
     
     
 


注:「ある新米中忍の独白」「ある新米中忍の独白2」の続きです


中忍になって三年、オレもそろそろ中堅の仲間入りだ。そして、今年はじめて『後輩』の指導をすることになった。

ピッチピチの新米中忍君は17歳、くりくりした明るい茶色の目とかやっぱり茶色のクセッ毛とか、オレの指導中忍だったヒラマサ先輩にどこか似ている。それもそのはずっていうか、ヒラマサ先輩の従兄弟だって。オレを指導中忍に推薦してくれたのもヒラマサ先輩だっていうから、なんだか認めてもらえたような気がしてすごく嬉しかった。
まぁ、そんなわけで初の『後輩指導』、オレは張り切っているわけだ。

新米中忍君は見るもの聞くもの、驚きの連続らしく、中隊長の立場ってのをひしひし実感しているようだった。オレはというと、三年前はオレもこんなだったなぁ、と微笑ましく思ったり、そんなオレを見てヒラマサ先輩やうみの先輩はやっぱり同じ気持ちだったのかなぁ、としみじみしてみたり、今のオレは『新米指導中忍』なんだからと気を引き締めてみたり、とにかく毎日が新鮮だ。

「中忍になると手にする情報量は桁違いだ。いいか、些細な情報の齟齬や漏洩が率いる部隊を全滅させることもある。隊長としての責任は重いぞ」
「はいっ」
「ただ、気負いすぎると判断を誤るからな。肩の力は抜きつつ細心の注意を払え。自然体が大事だ」
「はいっ、先輩っ」

うう、可愛いなっ!!

表情にはださずオレは心の拳を握った。
今、実地任務でオレが部下役となっての新米指導している最中だ。誉めたり窘めたり、個性を伸ばせるよう色々考えながらのアドバイスしてんだが、そのたんびにキラキラした目でオレのこと見るわけ。それがすっげ可愛いなぁって、コイツのよさ、オレが伸ばしたいなぁ、なんて思っちまう。
新米指導を面倒くさがる中忍もいるけど、オレは結構好きかもしれない。うみの先生がアカデミーの教員目指せってよく言うんだけど、やっぱオレ、向いてるのかなぁ。教員試験、すげームツカしいけど、ちょっと頑張ってみようかなぁ。

「あっれえ?ぐーぜんだぁねー」

げっ

「お、イルカから聞いてるぞ。お前、新米中忍指導してんだって?」

げげぇーーっ

飛び移った木の枝を踏み外した。すぐ下の枝に着地したけど。

っつかなんでここにこの二人がっ

向いの大枝でやぁやぁと片手をあげているのは里のトップ上忍の二人だ。

「はっはたけ上忍、猿飛上忍」

驚きと感動をこめて二人の名を呼んだのはもちろんオレじゃない。新米中忍君17歳だ。
はたけカカシ上忍に猿飛アスマ上忍といえば里を代表するトップ中のトップ、皆の憧れの的が二人揃って手を振ってんだからそりゃ驚くよな。三年前のオレだったら同じ反応する。三年前の新米中忍だった頃ならなっ。

「最近任務出ずっぱりなの?里で全然見かけないからさ」
「そんなに後輩指導、忙しいのか?」
「あ、いや、そのぅ…」

言葉を濁しながら後ずさる。

「何、もう終わったんでしょ?一緒帰ろうよ」
「お前が部下役の指導任務だろ?巻物盗めてよかったな」

一瞬で両隣をとられた。流石上忍、実力パねぇ。っつか何でオレの任務内容知ってんだ?守秘義務は?里の誉れ達にゃ守秘義務通用しねぇのか?

「ほら、積もる話もあることだし」
「お前ぇが里にいねぇもんだからこっちは一苦労だったんだぞ」
「せっ先輩、上忍方とお親しいんですか?」

うぉぉぉ、そんな目ぇ輝かせてオレを見るなーーーっ

そーだよな、里のトップ上忍に話しかけられたらフツーは舞い上がるよなっ。だがな、だがな、オレは親しいとかそんなイイもんじゃねぇんだよ、雑用係、愚痴係なんだって、オレぁ

「ん、親しいんだぁよ」

肩、抱かんで下さい、はたけ上忍っ

この段階でオレは諦めた。この二人の与太話を聞かずにはすむまい。だがせめて、この新米中忍君17歳の憧れと理想の忍び像を壊さないようにしなければ。目指す高みとか目標ってのは人生には必要だもんな。オレは笑顔全開で里の方角を指差した。

「あ、そうですね、随分とお話する機会なかったですから、オレも色々と伺いたいです。だからほら、急いで帰還しましょう、急いで」

ばしん、と新米中忍君の背を叩く。

「さぁ、全力で駆けるぞ。上忍の方々のスピードは桁外れだからな。遅れるなよ」

言い様足にチャクラを集めてダッシュしようとしたら、後ろから襟首掴まれた。

「まーまー、急ぐ事ないでしょ。新米君も疲れてるみたいだし」
「そうだぞ、最初からそう飛ばすな。可哀想じゃねぇか」

にこにこと二人、満面の笑みだ。

「いっいや、しかし、中忍としての心得をですね」
「固い事言わない言わない。道々おしゃべりしながら帰ろうよ〜」
「オレはまだ指導任務中なんです。不測の事態に備えることもですね、新米の頃にちゃんと」
「真面目だなぁお前ぇ。心配すんな、襲撃あったらオレ達が守ってやんよ」
「あのですね、襲撃に対応するのも指導のうちというか必要な経験というか」
「じゃ、たまたま上忍と行き会った時の対応を学ぶってことで」

ね、新人君、と話をふられた新米中忍君17歳はぱぁっと顔を輝かせた。

「はっはい、よろしくご指導御願いいたしますっ」

そうきたかーーーーっ

くっ、と心のうちで涙を飲む。上忍達はのんびりてくてく歩き出した。っつかご両人、任務帰りの上忍ってこんな呑気にてくてく歩くって思われても困るんですけど。
これはもう腹ぁ括るしかない。オレに話したがるってことは、うみの先輩や紅さんからガン無視される話題だってことだ。ってことは中身は一つ、アレだなアレ。二人の背中が『聞いて聞いて』と無言アピールしまくってるし。

「で、どうかなさいましたか」
「うん、それがね、それがね」
「聞いてくれや、実はな」

バッと振り返った上忍ズの目がキラキラしている。そうか、そこまでうみの先輩と紅さんからスルーされたのか。

哀れな…

ちょっと可哀想になる。この二人、ホント、里の代表なんだけどなぁ…

「あのね、ひどいんだよ」
はたけ上忍がもの凄く悲しそうに言った。

「村長がオレのこと、はじめましてって言うのよ」
「そうそう、なんかな、自分はもう引退するから村をよろしくとか言ってよ」
「なんかね、凄いショックっていうか、はじめましてって言われた事にこんな傷つくなんて自分でも思ってなくて」
「しょうがないってのはわかってるんだが、頭じゃ理解しててもここんとこがな、どうにも納得しねぇ」

髭熊がどん、と自分の胸を叩く。

「コトブキさんにあの記憶はないんだってわかっててもさ、あんなに親しくしてたのにってねぇ」

神妙な面持ちで覆面が目を伏せる。っつか片目しか見えてないのにこの悲哀感、すげーな上忍。

「たぬきちの野郎もよ、知らん顔してやがって、あんなに買い物してたってのによ」
「ちょっと儲かって不動産屋になったからって冷たいよね、彼」
「館長まで知らん顔だからな。あんだけ寄付して展示品充実させてやったのによ」
「オレもね、服仕立てにいったら初心者扱いよ?どんだけオレがデザインしてきたと思ってんの」

一気にまくしたてた上忍ズはぐりん、とオレに顔を向けた。

「ね、酷いでしょっ」
「寂しいって思ってもしょうがねぇよなっ」
「……そうですね、はい」

オレはそっとこめかみを揉んだ。そりゃあうみの先輩と紅さんが無視するわけだ。上忍ズはオレの同意に気をよくしたのか、ペラペラと話しはじめた。

「でもねぇ、ちょっと嬉しいこともあったの。つぶきち君とまめきち君が独立してたんだぁよ」
「まだちっせぇ店でな。それでも一国一城の主ってわけだ」
「やっぱりはじめましてって言われて寂しかったけどね、思わず頑張ってねって」
「陰ながらもり立ててやろうかって思ったわけよ」
「……はぁ」

あ〜もう、このクソ上忍ズ、後ろで後輩が目ぇキラキラさせてっじゃねぇか。絶対勘違いしてる、極秘潜入任務の話だと思ってるぞ、三年前のオレみたいにさ。

どっかの里か抜け忍、襲撃してこないかなぁ…

結局、どこの里も抜け忍も現れず、ずっと『おしゃべり』しながらオレ達は帰還した。大門に着いた途端、五代目の呼び出しが二人にかかったのがせめてもの救いっていうか、あのままだったら報告書出してからも延々付き合わされたに違いない。ぐったりなりつつも報告書にあの二人と合流したことは書かなくていいことを申し渡したら、新米中忍君が興奮気味に言った。

「わかりました。やっぱりあれは潜入任務の話だったんですね。お親しい先輩だからこそはたけ上忍と猿飛上忍もお話なされたのでしょうから、オレもきちんと秘密は守ります」

やっぱりそう思ったか…

「でも凄い符号ですね。普通ほんわか村とかのんびり村とか言われてもわかりませんよ。さすがです」
「………」
「毎晩船で島に渡るなんて、相当厳しい任務だったんですね」
「…………」
「黒い薔薇って忍具なんですか?あ、すみません、余計なことをっ」
「……いや、いいよ」

うん、別に全然かまわないよ。リナさんが可愛いってことも、人形が都で売ってたってことも、全部話しちゃっていい、っつかホント、いらない情報だし。

喉元までそうでかかったけどオレは黙っていた。ここまできたらそうだ、コイツもオレと同じ経験したほうがいいかもしんない。いや、ぜひにもしてほしい。そうしたらオレ達は真の仲間になれると思う。
新米中忍君17歳の肩をオレはぽん、と一つ叩いた。

「まぁ、いずれお前も全て理解できる日がくるさ。そうしたらお前も一人前の中忍だ」
「はっはいっ、先輩っ」

目をキラキラさせる新米君にオレは力強く頷いてやった。





機密だって思ってたことが、実はニン◯ンドー3デイエスの人気ソフト、と◯だせ動物の◯りの話だったと知った新米君がオレのところに駆け込んできたのはその三ヶ月後、蝉時雨の季節だった。
丁度はたけ上忍と猿飛上忍が護衛任務中、国主様の村と行き来したって話をしていた時で、それはそれで凄いよなって言ったらそのまま白く固まっていた。
こうやって中忍は心を鍛えられるんだな。オレは純粋だった新米時代を思い返してしみじみとそう実感していた。


 

 
     
 

え〜っと、何故かシリーズになりつつある『新米中忍の独白』
久々にこのネタってことは、金角、手に入れてやってるってことですね、さらに進化した動物の○り、やること満載で森から帰ってくることが出来ません。だから更新が止まってたのかって…えっ、いや、そっそんなことはぁっ
ちなみに、村長さんは娘で金角はそこの住人です。ゲンジとオリビアと仲良しです。やよいさんは人徳者だなぁって思うし、アポロは親切です(何の話だ)