中忍試験に受かって三ヶ月、下忍の時とは比べ物にならないほど、里の情報が入ってくる。下忍になった時にも、忍と一般人との差に愕然としたものだが、中忍のそれは桁違いだ。
まぁ、考えてみればそうかもしれない。下忍になるのでさえ年に数名、どんなに多くても十人に満たない。中忍は更に難しく、試験に一人も合格できない年などざらだ。何年も試験に挑戦し続けて、結局諦める下忍も少なくない。中忍と言えば隊長クラス、大きな責任がともなうだけに誰でも合格させるというわけにはいかないのだろう。そして、いったん中忍になると、それこそ里の様々な情報が流れてくる。

上忍達に関する話もその中の一つだ。上忍と言えば忍の頂点、いわば雲の上の人々である。下忍でいたころは名前以外、何も知らなかった。だが、中忍になってみると、噂話のレベルではあるが、上忍達の話があれこれ聞こえてくる。今日はなんと、あのはたけカカシ上忍と猿飛アスマ上忍の話を聞いてしまった。

はたけ上忍といえば木の葉の生ける伝説とまで言われている凄腕の上忍だ。猿飛上忍は言わずと知れた三代目火影様のご子息で、その実力もトップクラスだ。つまり、この二人は上忍の中でも頂点、存在そのものが機密といってもいい忍なのに、オレは今、その人達の噂を聞いてしまっている。やはり中忍になると違う。
ただ、こんな機密事項なのに、流石というか余裕というか、先輩達は茶飲み話をするような雰囲気だ。

「だからな、新米、しばらく上忍控え室は使えねぇから、用事があるときはアカデミーの応接室に行ってくれな。」
「本当にはたけ上忍が控え室を吹っ飛ばしてしまわれたんですか。」

あんな堅固な建物の一角を吹っ飛ばすなんて、はたけ上忍とはどんなすごい方なのだろう。オレは感嘆しながら先輩達に尋ねた。

「よくやるんだよ、あの人は。え〜っと、今回は何が原因だったっけか。」
「アスマ上忍がやっちゃいけねぇことやったとか聞いたぞ。時間戻しちまったとか進めたとかで、はたけ上忍が大事にしてたなんかがダメんなったとかで激怒しちまってさ。」

顔をみあわせ先輩達はさらりと言う。えっ、時間を戻すとか進めるとか、時空忍術じゃないのか？目を丸くするオレに、先輩達は呑気に笑った。

「はたけ上忍、普段穏やかだけど怒るとすげぇからな。あ、心配すんなって。あの人は格下には絶対に乱暴しねぇからさ。」
「アスマ上忍、今回は流石に病院行きだったらしいぞ。あと巻き添えくった上忍が数名、入院騒ぎでさ、流石にはたけ上忍、五代目にしぼられたらしい。」

そんな恐ろしい事、さらりと笑える先輩達ってやっぱりすごい。その時、先輩の一人が渡り廊下の先に向かって手を振った。

「あ、イルカー、こっちこっち。」

え、あの人はもしかして、うみのイルカ中忍じゃないだろうか。確か世話になった下忍の先輩達がすごく尊敬していた隊長さんだ。あ、にっこり笑ってこっちへくる、すげ〜〜、やっぱ貫禄あるなぁ。中忍もピンからキリまであるけど、あの人なんて火影様の側近までやってるエリートだからなぁ。そんな人にタメ口きいてる先輩達もすごいけど。

「なぁイルカ、お前ならよく知ってっだろ？はたけ上忍さぁ、なんでアスマ上忍吹っ飛ばしたんだ？時間を変えたからだって聞いたけどさ。」

うわ、流石うみのイルカ中忍、機密に通じていらっしゃるんだ。しかし先輩達、そんなあっけらかんと機密事項聞いていいもんなんだろうか。案の定、うみのイルカ中忍は顔をしかめた。

「なんだ、もうそこまで噂になってんのか、しょうがねぇなぁ。」
「もったいつけずに教えろよ〜。」

うわうわうわ、先輩方、そんな大丈夫なんですか？時空忍術といえば重要機密じゃないんですか。だが、うみの中忍は少し肩をすくめただけで、苦笑した。

「まぁなぁ、カカシさんって結構凝り性なんだよ。んで、こないだ金の薔薇に成功しちまったもんだから味しめてさ、今度は青い薔薇咲かせるんだってがんばってたんだな。」

え、金の薔薇って、そんなものがこの世に存在するものなのか。それはもしかして新しい忍術か忍具なんだろうか。

「うわ〜、はたけ上忍、気合い入ってんなぁ。黒い薔薇咲かせるだけでも大変だろ、アレ。」

えぇぇっ、先輩達、驚かないんですか？っていうか、青い薔薇の咲かせかたを知っている先輩達もやはりベテランなんだ。

「そう、その黒い薔薇をやっと咲かせてな、でもああいうレアものってのは枯れやすいだろ？んで、昨日枯れてたから慌てて水やったらしいんだが。」
「もしかしてアスマ上忍、その時に時間いじった？」
「当たり。ゴライアスハナムグリつかまえたいって、三ヶ月も時計すすめちまって、当然黒い薔薇は消えちまってな。」
「あ〜、そりゃはたけ上忍、キレるわ。」
「他にも青いパンジーや紫チューリップも全部消えたらしくてな。なのにアスマ先生、虫コンプリートして金の虫網ゲットしたなんて自慢するから。」

すっすごい、すごすぎる。なんなんだこのハイレベルな会話は。新米のオレなんぞにはさっぱりわからない。やはり忍術っていうのは奥が深いんだ。中忍になったからって安心していちゃいけない。もっともっと精進しないと、全然ついていけないぞ。

「でもなぁ、いくらなんでも上忍控え室吹っ飛ばしちまっただろ？監督不行き届きでオレまで火影様に叱られるしさ、ほんっと、なんであぁそろいもそろってバカなんだか。」
「おいおい、上忍つかまえてバカよばわりすんの、お前くらいだぞ。」
「いいんだよ、バカなんだから。」

うみの中忍はげんなりした顔で手を振ると、受付所の方へ歩いていかれた。オレはぼうっとその後ろ姿を見つめる。

なんか、もう、世界が違う、違いすぎる。同じ中忍でも機密に通じたうみの中忍はここまですごい人なのか。そして、上忍の関わる術の奥深さはどうだ。いともたやすく時空忍術を操り、聞いた事のない忍具の開発に取り組んでいる。先輩達にしても、その話をすっと理解して会話ができるのだ。オレもいつか、先輩達のような中忍になれるのだろうか。うみの中忍のレベルは無理だとしても、ごく自然に機密事項を理解できるような忍になりたい。いや、ならなければ。明日からの精進をオレは固く心に誓った。

うみのイルカ中忍が猿飛アスマ上忍の幼なじみでありはたけカカシ上忍の恋人であること、そして、オレが時空忍術だの新しい忍具だのと思い込んでいたのは、ニンテ◯ドーDSソフト、『動物の森』の話であったこと、先輩達も同じゲームにはまっていたからすんなり話が通じたということ、それらを知ったのは、上忍控え室の修理が終わった一か月後のことだった。

「もともとオレがやってたDSソフトでな、四人まで登録できるからってあの二人のデータ作ってやったのがマズかったんだよ。どっぷりはまったあげくガキの喧嘩になっちまって、いや、ガキの喧嘩のほうがずっとマシだよ、少なくとも力はねぇからな。こんなことなら別々に買わせりゃよかった、金はあんだし、ったく、トップクラスの上忍なんてのは世間知らずばっかでやってらんねぇって。保護者がちゃんとしてねぇって最後に怒られんのはいっつもオレだよ、くそったれ。」

先輩達に愚痴るうみの中忍の前でオレはただ白い灰になっていた。